ばにら
ice_cream
2018/07/27 (金) 18:33:03
アデリー少年は何か違和感を覚えた。音声だけであるはずの吐息が実際に吹きかけてくるのだ。その事実に驚きを隠せなかった少年は、間髪入れずVRを外した。
すると、その吐息の正体は、お父さんだった。そんな現実を少年は受け入れなかった。いや、受け入れられるはずがなかった。
仮想現実で、幸せと癒し、興奮をもたらしてくれた存在がいとも簡単に崩れ去る。
少年は走った。とにかく走った。色んな想いを胸で交差させながら走った。心の息苦しさが分からなくなるまで走った。
しかし、いくら走ってもなんの結論も出なかった。結論を出そうとすら思えなかった。何の結論、何を悩んでいたのかも忘れた。
少年は再び現実を去り、悲しみのない世界に身を委ねる。意識が空を飛ぶように、中を浮かぶようにぼんやりとしてくる。そして、少年は考えるのやめた。
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