赤い果実に接吻を、 検索除外

本編

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 ――――Prrrr……

 薄暗闇の中にぽつんと明かりが灯る。その画面には〝非通知設定〟の文字が並んでいた。こんな時間に一体誰だろうかとベッドの中でもぞもぞと動く人影は漸くスマートフォンの画面を操作し、寝起きの間抜けた声を発する。

…………もしもしー? もっしもーしっ?
――私を止めることは誰にもできない

 ――――ブツッ、

 まだ醒めていない脳が必死でその言葉の意味を理解しようと動き出す。しかし、その理解が追いつく頃には既に電話は切られていた。
 カーテンの隙間からほんのりと差し込む淡い光。もうすぐ朝がやって来る。彼は今起きた不思議な出来事を夢にしてしまおうと再びもぞもぞと布団に潜り込んだ。

止めてみせるさ、絶対に
 
 
 
 ――――夜明けはもうすぐそこまで迫っている、
 

皇 朝陽
作成: 2021/05/17 (月) 19:40:26
最終更新: 2024/06/16 (日) 11:28:07
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真白蝶々 2024/12/22 (日) 20:30:03 修正

【 一之瀬杏朱 / アムピトリーテー号・エレベーターホール 】

 恋を知りながら愛を知らない、あなたも、わたしも、夢。

 非日常と非現実、それは同じようで全く異なる。それでいて今、此処では奇妙にも確かに混じり合っていたのだ、ふたつの〝非〟が。
 現世とは空虚なる舞台、演じられるはいつも悲喜劇。だからこそ2人はこの演目にお誂え向きだった。何故ならどちらもいつだって仮面を被っている、あまりにもよく出来た、仮初の十全を。

 夢こそがこの世の真実、だから眼前のすべてはゆめ。
 ここのつの嘘にひとつの誠、それが最上のスパイス。

「ええ、ええ、そうでしょうね。あなたは強い、とてもとても。()を見ればわかりますよ、くぐってきた修羅場の数はひとつやふたつではないのでしょう?」

 じいっ、と。不躾なくらい月華の両の目を覗き込みながら杏朱は2度うなづいた後で緩く唇を吊り上げた。まるで三日月。白い歯がほんの少しだけ見えて隠れる、刹那の間。その空色の瞳に月華がどんな風に映っているのかは杏朱自身にしかわからない、けれども獣の嗅覚のように鋭い彼女の感性は駆け引き上手な月華の何か(・・)をすでに読み取っているのかもしれなかった。
 月華の脳裏に過ぎったのがまさか天敵のごとく複雑な感情を向ける男だとはつゆ知らず。杏朱がもしそれに気付いたとすれば果たしてどんな顔をするのか、否、きっと眉ひとつ動かしはしないだろう。

「でも。越えた死地の数ならわたしも負けていませんの。だからどうか、どうかお任せあれ」

 目の前の女性がいかに聡明なのかはこの短い時間、いくつか言葉を交わしただけでも杏朱には十分理解できたとみえる。そして彼女の底知れなさ、その影に匂い立つ儚さと強かさも。
 そう、だからこそ言葉を重ねた。あえて自分の〝正体〟を、察しの良い月華ならば知れるように。

「その時はまたわたしの手をとって」

 潜めて囁く声は致死量の蜜の甘さ。
 それがたとえ毒花の蜜だとしても。

 いま放したばかりの手をひとり握り込む。誘い文句とは裏腹、きゅっ、と咬むに似て。

 もしかしたらそれは秘したる宣戦布告だったのかもしれない。
 もしくは現世の幻から彷徨い出会ってしまった同族への愛憐。

「そうでもないんですよ、わたしの人生。叶わないことばかりで、成すべきことも遂げられないまま」

 何か(・・)を思い出し何か(・・)を重ねている。他者の感情を読む術には人一倍疎い杏朱であっても理解できた、震えるように小さく揺れた月華の瞳を見ていれば。しかし恐らくそれは彼女が知られたくない、誰にも悟られたくない思い出(もの)であろう。あえて口にはせずにそっと視線を外したところを見ると杏朱も少しばかり人の心がわかるようになったのだろうか。

「あら、ずいぶんと大胆なことをおっしゃる。燃やして、尽くして、壊しても。わたしたちは満たされない、花咲く命果てたとしても。あなたなら知っているはずです、雛代さん?」

 口元を掌で覆って笑みを隠した。だが笑う声は漏れない、本当は笑ってなどいないのだから。
 杏朱の唇から放たれるにはあまりにも似合わない言葉の数々である。燃やす、尽くす、壊す。それは彼女の生き方そのものとも言えよう。過去に彼女が歩んできた道には灰と塵しか残っていなかったというのに。

「焼いて焼いて焼き払っても消せないから、恋」

 自身の胸の前で両手を重ねる。絡まる指は白くしなやかで、まるでそれそのものが厄介な呪詛のよう。
 呪い、それはどうしたって忘れられないから、呪い。

「でも、それでも。そうする(・・・・)しかない思いだってあること、わたしにはよくわかります。叶わぬ想いを抱き、同じユメを見るわたしたちだから、共有でき(わか)る。あなたとわたし、──似た者同士ですもの」

 同志、とは言わなかった。
 もうたくさんだったから。

「舐めて塞がる傷ならとっくに癒えているでしょうに、ね。とはいえ、何者であれ今宵こうしてあなたと出会わせてくれたことには感謝しますわ」

 艷やかに染めた唇が再び弧を描く。天魔が翔ける紫電の夜空、常世の境のその端に引っ掛かった紅い月。

「わたし、お酒はあまり強くないんです。それでもよろしければこの夜が逝くまでお供しましょうか」

 1枚の絵画の前の寸劇。観客も居ないまま、ただ甘美なるままに、繰り広げられていく。

>>雛代月華、周辺ALL

【三日月様、レスをお待たせしてしまい申し訳ありませんでした……!
 
そしてこれが恐らく本編での今年最後のレスになると思います、皆様、この1年も誠にありがとうございました。
来年も可能であるならばよろしくお願いいたします!】

1088
夕邑 三日月 2025/01/15 (水) 10:15:37

【雛代 月華/アムピトリーテー号・エレベーターホール】
 
「……修羅場はともかく、死地を潜り抜けないといけないことなんてしてませんからね、あたしは。そう仰られるならお願いすることにしますわ。もし、万が一、何かが起これば。その時はあたしを此処に呼び付けた某社長を恨むことにしますけれど」
 超えた死地の数なら負けない。こればかりは虚構でも誇張された舞台上の台詞でもないのだろうと、月華は察した。敢えて口に出すことこそしないが、矢張り彼女もそうなのだろう、とも。
 自分の引きの良さに驚くべきか、それとも日常生活とはかけ離れた割合で彼等(異能力者)がこの船に乗り合わせているのか。
 状況から考えるに恐らく後者だ。世間には異能犯罪を取り締まる専門部署もあると聞く。そうであればむしろ、この船の上で何かが起こることまで織り込み済みの舞台構成か……流石にそれは違うことを祈る。
 
「それもそうですね。何時まで経ってもここで燻り続けるものだから、此方が燃え尽きるまで夢も覚めないし傷も消えない」 
 似た者同士と認める一ノ瀬に、月華は自分の胸に手を添えて艶やかに微笑む。
 たとえその感情の名が何であろうと、消えない想いは呪いに等しいに違いない。
「まあ、それがこの夜の代償だと言うのなら、今更ですし安いものですわ」 
 ならばそれを抱える者同士、今宵出逢えたことこそ僥倖だろう。
 
「あら、ありがとうございます。誘っておいてなんですけど、今後のご予定に支障はありません? せっかくならラウンジより何処かのバーが良いかしら……てもお酒が苦手ならカフェやレストランでお茶も良いかも知れませんね」
 どちらにしてもきっと、観客が居ればこの舞台装置は機能しなくなるのだろう。
 夜が明けずとも、夢幻は簡単に崩れ去る。今此処にスタッフの一人でも通り掛かれば、月華も一ノ瀬も仮面を被る、或いは取り去る。 
 これ以上の時間を共有する為に歩き出すことこそさよならの合図。醒めないユメの向こう側に行くしかなくなるのだから。
 
>一之瀬杏朱様、周辺all

【レス遅くなりまして申し訳ありません。
 遅ればせながら、皆様本年もどうぞよろしくお願いいたします。】 

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【鷲獅子茶羽/アムピトリーテ レストランホール】

ビュッフェは気になるものから少しずつ取っていろいろ食べるのが1番
普段から特に大食いという訳では無いのだけど、よく働いたからか沢山食べる事が出来ている気がする

「流石に食材の仕入先までは分からなかったけども……少なくとも見ていてどれも鮮度が良くってそのまま食べても美味しそうなお野菜とか、お肉やお魚も脂が乗ってる感じだったかな……
偶にしか食べられないからこそより楽しめる……あ、ごめんねあともう少しだけ」

全種類制覇した後、特に美味しかったものとデザートをささっと追加で取って戻る
先に食べている分お腹いっぱいなところ自分が食べるのに待たせてしまっては申し訳無いので程々に

「腹ごなしに探索するのも楽しそう……遊べそうなところも何ヶ所かありそう……だよね??
暫くは休憩していても大丈夫そうだからそうしようかな。」

せっかくの豪華客船、何があるか見て回らないと勿体ない
誘いに応じつつ少しでも早く行けるようにデザートに手をつける
同僚と過ごす時なんてなかなかないからより楽しみは倍のはず……

>怪島我流、周辺All

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芙愛 2025/01/30 (木) 01:43:20

【花郷息吹/アムピトリーテー号カフェラウンジ】
 
 アイスクリームは、四分の三ほど消えていた。咎めるような天沢主任の指摘に、暫く返答もないまま金色のスプーンと口元だけを動かしている。
天沢自身は息吹の言葉の意図を理解し受け入れてくれたようだったが、息吹は未だ黙っていた。プリンアラモードに熱中するふりをして黙々と食べ進める事は、いっそ「お前は目先の快楽にしか意識を向けないのか」と詰られようとする偽装に近い。本当は、返す言葉を口の中で転がし、冷たく甘く痺れた舌の上で確かめていた。
 それでも、口を突いて出た言葉は相変わらず足りず、どう考えても上手くはなかった。
 
「…………忘れる? そんなことが、できるとお考えですか」
 
 コルトンディッシュに視線を落としたまま、その目はプリンアラモードを見てはいなかった。朔久を正面から見つめない為の言い訳のようなものにすぎない。顰めた眉と伏した睫毛が、輝いていた目元に影を落とす。
 
「失礼いたしました」と短く付け加えて、誤魔化すようにティーカップとソーサーを手に取った。煽るように底に残る紅茶を飲み干したのは、彼の言葉で誘発惹起され首を擡げたあの記憶を再び鎮めるためかもしれない。今の一口からは凡そ紅茶の味がしなかった。
 
「残された者が、幸せになってはいけないわけではありません。楽しいとか美味しいとか愛おしいとか、思ってはいけない訳ではありません。それを無くしては、彼等の分まで働くことなんて出来ませんよ。兵頭君達の事に限らず。……それは天沢主任、貴方も同じです」
 
 兵頭君、ーーーーその名前を口にするまでにほんの僅かな間があった。その名前を口にしたのは久しぶりだった。
彼が死ぬべきではなかった。優秀で、自分なんかよりずっと優秀で、正義感が強くて誠実で、ずっと若くて将来性もあった。教育担当だった頃から自分には教える事なんて無いくらい、有能な警察官だった。なのに自分なんかを慕ってくれた。実地実戦の時も、無能者の嘘を信じて目を輝かせていた。そういえば、兵頭にも異能力がフェイクであること(本当のこと)は話していないままだった。失望されそうで。それを言ったら特務課の殆ど誰にも、皆、秘密のままだが。
 殉職させるべきではなかった彼、を忘れた訳では無い。少しくらい目を背けないと、こんな仕事を冷静にやっていられる訳がなかった。感情が揺らぐ。金の為に他ならない仕事なんかに感情を乱されるなんて、嘗ての自分には無かったのに。
 
 すみません、と吃り恥入るように言ってから
「若い子達の言うところの、モチベというやつですよ」と付け足す笑顔でようやく天沢主任と目を合わせた。いつもの花郷息吹だ。
 こうしてふわふわと茶化してしまうのが良くない癖だとは分かっている。明るく可笑しく能天気そうに。だから怒られるのだ。
 天沢さんが目の前の料理を楽しむ事を理解してくだされば良いんです、という何処かしたり顔の顔付きで、ティーポットの中身を空のカップに注ぐ。カップの中身は温かく甘やかな赤色に満たされ、代わりに小さなポットは空になった。
 〝モチベ〟の話の続きをするように、息吹はふふ、と楽しそうに笑った。天沢からの問いに、「いい質問だ!きみ!」と、嘗ての本職が顔を出さんばかりの。こんなに生き生きした顔、仕事に関してでは絶対に見られないだろう。
 
「今回の任務が終わったら、来年中に挙式をするつもりなんです。……なんですが、式場選びに難航しておりまして困っているのです」
 
 その顔は、全く困っていない顔である。寧ろ嬉しげで、「聞いてくださいよぅ」と言わんばかりの。〝ぱぁぁぁっ〟という擬態語が大層似つかわしい。
 
「妻と一緒に式場を探してはいるのですが、結構その、こだわりが色々あるというか、可愛いわがままがたくさんありましてね、『注文の多い結婚式場』のような……決まらないんです。式場の広さとか、料理がちょっと違う、とか、ドルチェがちょっと違う、とか、チャペルの日当たり、とか、その我儘の内容も可愛いんですよ。これが。……あっ、決して贅沢なわけじゃなく、やっぱり完璧主義なんですね。それで更に俺もまた、そんな妻の理想を完璧に叶えて形にしたいから。だって、世界一可愛い妻の一世一代の結婚式ですよ? 理想を叶えてやらないなんて道理はないっ」
 
 今度は随分と景気良く紅茶を飲んだ。ぬるくなってきたためか火傷の心配も無い。今度は元通り、あの華やかな香りがちゃんと広がるのを感じる。
 
「そんなこんなで……決まらないんです。いやぁ、困った。先週も妻と休みが合ったので、一緒にドレスを見に行くことになったのですが……どれも似合うに決まっているし、どれを着てもそれはもう可愛いものですから、困りますっ!」
 
 これは、暗い通夜のような雰囲気を一転させようという彼なりの気遣いなのだろうか、否、そうではないだろう。初めはその意図もあったのかもしれないが、一度導火線に火がつくと、あとは機関銃に近い。
「それに……」と続ける息吹の惚気話は、今日もまだまだ長そうだ。
 
>天沢朔久様、all

 
【大変遅くなり申し訳ございません、そしてあけましておめでとうございます、そして五月ちゃん本体様相談に乗ってくださりありがとうございます、今年もよろしくお願いいたします!今年はたくさん書きたいと思います!】

1091
皇 朝陽 2025/02/08 (土) 12:42:10

【 禁野靖明&城戸雅美 / →アムピトリーテー号・レストラン〝onda(オンダ)〟 】
 
 レストラン〝onda(オンダ)〟への道中、時折すれ違う客人達に「良い夜を」などと告げつつ歩いていると、ふと視界の端にエレベーターホール付近に佇む2つの影を捉えた。密談でもしているのだろうかと気になりはしたが、首を突っ込みすぎるのも災いの元だろうと素知らぬ顔で素通りする。けれど微かに聞こえる声音から、禁野は何となくその2つの影が誰のものであるかを察していた。

(――――女性同士、仲良くなれたのなら喜ばしいことだね)
 
 そうして辿り着いた目的地。初日の宴は一先ず終わったというのに、どうやら彼らはまだまだ語らい足りないらしい。政治や経済の動向が我が身の明日を左右することは誰しも分かっていることだろうが、この船の乗客達はより一層そういったことに敏感だった。――――ただ一部を除いては。

「――――城戸さん、此処にいらっしゃったんですね! 随分と探しちゃいましたよー!」
「…………真宮先生とはもう話が済んだのか?」
「ええ、とても有意義な時間を過ごせました」
「そりゃ良かったな」

 にこり、とわざとらしい笑みを浮かべながら声を掛けてきた禁野に対して、城戸は心底嫌そうな表情を浮かべる。けれど、対照的な二人の様子を気にかける者はどこにもいない。周囲の者達はみな自分のことしか見えていないのだ。

「なぁ、ちょいと聞きたいことがあるんだが――――小耳に挟んだ君のスキャンダルは真実(マジ)なのか?」

 そんな中、ふと徐に城戸が口を開いた。それは禁野や城戸のような富裕層の間で囁かれている醜聞。もちろん、真実を知る者は本人以外にいない。噂だけが独り歩きしている話だ。それでも城戸は聞かずにはいられなかったらしい。禁野がどんな人間なのかを知るために。

「野暮なことを聞かないでくださいよー。上流階級(われわれ)の世界では当たり前のことじゃないですか? 妻以外に愛する女性(ヒト)がいることなんて」

 城戸の思惑を知ってか知らずか、禁野は不気味なほど爽やかに笑ってみせる。恋愛結婚のみならず、友情結婚など幅広い婚姻の形が完成しつつある現代。それでも政略結婚――家の繁栄のための愛のない結婚――は失くなりはしない。特に禁野や城戸のいる上流階級では珍しい話ではなかった。

「生憎だが俺には分からないな。本当に愛する人を人生の伴侶とするべきだろ?」
「うーん、分かってないですね。全員が全員そうじゃないんですよー。瑛介さんだったら分かってくれるかな?」

 はあ、と小さく漏れた溜息は禁野に対する呆れの表れなのだろう。何故なら城戸はその言葉通り、自身の妻や子供達を深く愛しているからだ。故に禁野の考え方を理解できなかった。否、理解したくなかった。
 一方で禁野もまた城戸の考えを理解できないようで、一縷の望みを瑛介に抱く。彼ならきっと大切な存在を傍に置くなんてことはしないだろう、と。あの人(・・・)と同じように。

「…………どうしても、って言うから協力してやったが何でそんなに瑛介(あいつ)にこだわる? その理由はなんだ?」

 愛に関する話題を続けても堂々巡りであることを悟ってか、城戸はもうひとつ禁野に尋ねたかったことを聞く。それは禁野の口からも名前が出た瑛介に関することで。彼の異常なまでの執着がどこから生まれているのかを、城戸は突き止めたかったようだ。

ある人(・・・)と約束したんですよ、瑛介さんと仲良くなるって」

 ぽつりと紡がれた言葉は、今まで大切にしまってきたものを見せるかのように繊細で、どこか幼さを感じさせるものだった。城戸はそんな禁野の言葉の中に彼の本質を垣間見たような気がした。
 
>>ALL

 
 
【 企画主にも関わらず、2025年1発目のレスがなかなか出せずすみませんでした……あけましておめでとうございます! 今年もどうぞよろしくお願いいたします〜! 】

1092
真白蝶々 2025/02/15 (土) 22:00:10 修正

【 一之瀬杏朱 / アムピトリーテー号・エレベーターホール→(移動) 】

 足元が微かに揺れたようだった。いま彼女たちが立っているのは大海原のど真ん中。それは無限を思わせる黒い水面の上の、鋼鉄(てつ)の鯨の腹中(なか)だからか。はたまた、夢幻の舞台で演じられてきた短い祭(スキット)の終演ももう間近、惜しむ心が暗夜を舞う蝙蝠のごとく意識を揺らがせたせいか。

 どちらにせよ始まったものはいずれ幕を閉じねばならない、必ず。
 それが世の理、恋も愛も憎しみも等しく。

「失礼、つい同類(おなじ)にしてしまいました。ええ、万が一があるのなら、きっと、また。その時はあらゆる恨みもみんなまとめてわたしが灰燼に帰してみせましょう」

 察しの良い月華が自身の言葉の真意に気付いたであろう事実を理解して、杏朱はいっそ晴れ晴れとした笑みを浮かべた。彼女が自身の正体をこんなにも早々に明かすのは普段であれば考えられない事である。彼女は、彼女に、目には見えなくとも匂い立つ運命(さだめ)を嗅ぎ取った。そう思うよりほかない。
 この船上で起こるすべてはきっと筋書き(シナリオ)通り。執筆者は心無き神々なのか、恐らくそうではないだろう。神が己の姿に似せて作ったそれ(・・)はいまや創造主も予測が出来ぬほど残酷に変貌したのだ。知恵の木の実(赤い果実)を口にした、その瞬間から。

「焔を上げずとも燻って消えてはくれない。まるで野火、気付いた時にはもう逃げ場もなくて……ああ、違い、ますね」

 ふと口を噤む。

「どうせ逃げられやしない」

 糸のように細める瞼の隙間から蒼天が溢れた。

「どこにも行けないんです、思い出に縛られ、囚われているから。それでも、だからこそ。わたしたちは燃えて尽きても灰から蘇る不死鳥と同じ。真紅の炎さえ柘榴石(わたしたち)を焼き尽くせない、消せはしない」

 両手を大きく広げれば冬の花園が生まれる。袖に染め抜かれた満開の椿、椿、椿。首から落ちるその花は現実でなくとも甘く狂おしく薫るかのよう、しかし着物の地が暗い赤色なだけに其処はまるで地の果てにあるという獄卒さまよう裁きの場に見える。

 そう、その地は血と焔、鮮やかな紅で彩られていた。

「だから永遠に夢見る、────永久の夢をみる」

 見開いたまま蕩けそうにうっとりと潤む女の瞳、奈落から見上げる青空の色をした硝子玉には、深淵よりもなお深く修羅よりもなお悍ましき〝熱〟が滾っていた。
 爛々と、嗚呼、地獄のごとく爛々と。

 垣間見せたのは狂気の姿を借りた正気、純粋で真っ直ぐだからこそ理解できず、されもしない。

 それは〝恋〟と呼ぶにはあまりにも歪だった。

「まったく、()が深くて嫌になりますわ」

 けれども灼熱を宿した杏朱の様は刹那のもの。片鱗に過ぎぬ激情も仮初めの微笑に引っ包んで、消せない虚構と嘯いてしまえば彼女は開いた()をまた密やかに閉じる。

「代償。はたして払いきれるのかしら、わたしたち」

 緩く首を横に振ると弾む笑い声で誤魔化しを器用に縫い付けた。

「ここだけの話、実はまだお仕事中なんですよ。でも今のわたしは遊撃手、この碧空()さえ曇らせなければどこへだって飛んで行けますの。だからあなたが望むどんなお店にだってご一緒できますわ」

 立てた人差し指を唇に当て、しいっ、と。冗談めかして秘密を強要すれば舞台も最終章(クライマックス)とばかりに。大仰な台詞を並べて片目の瞼をひとつ、ぱちりと閉じてみせると月華の耳元に顔を寄せて甘ったるく囁く。水と花とあとひとつ、この世ならざる香りがした。
 

 宴もたけなわ、そろそろお開きで御座います。
 

「夜の夢が覚める前に参りましょう、送り届けますとも。今宵あなたはたしかにわたしの、わたしだけの姫なのですから」

 騎士を気取ってか片手を自身の胸に当てると膝を折って姿勢を低くし、月華の双眸を見上げる杏朱。手元も見ないままもう片方の手を後方へ伸ばすと的確にエレベーターのボタンを押した。それらの動作を見れば案内(エスコート)を買って出た事は明らかである。
 ボタンを押した手をそっと差し出す、麗しくも悲しげな姫君へと。

 芝居をするなら仰々しく最後まで、毒を食らわばまさしく皿まで。
 さよならのその時までも役者は演じ続けるべきなのだ。

 やがて扉が開いてエレベーターホールは無慈悲にも照らし出される。煌めき、優しく、拒絶的な、光。
 それは図らずも天国の入口を模していた。

>>雛代月華、周辺ALL

【三日月様、またまたレスをお待たせしてしまい申し訳ございません。事前のご相談の通り、行き先に関しましてはこの後の状況などによってお任せいたします】

1093
カーネル 2025/02/21 (金) 21:30:11

【 怪島我流 / アムピトリーテー号・レストランホール 】
 
 
 
 「 あー別に急いでないので、ゆっくりで良いすっよ。」

 デザートを手に付けてる彼女をゆっくりと過ごさせ、自分はスマホを開いてこの豪華客船にどんな暇つぶしがあるか探してみる。レストラン、他にもあるのかと此処以外にも違った形式のレストランがあることを今更知る。画面をスクロールしていく。カジノはあるが未成年が立ち入り禁止故に自分は入れない。遊技場もあるが、ゲーセンとかだろうか。少し体が動かせる方が良いかと思うと、遊技場の近くに誰もが一回くらいやった事もあるあの設備があるようなので、これを彼女に提示してみせた。
 
 
 
「 腹ごなしに此処とかどうっすか?ボーリング。」
 
 
 どうやら遊技場の設備の一つとして、小規模のボーリング設備があるようだ。近年の豪華客船にはそういった設備が珍しくないようで、これなら程よく体も動かせて、互いに公平なゲームになると考えている。
 
 
>>鷲獅子茶羽

1094
皇 朝陽 2025/02/22 (土) 23:52:41

【 天沢朔久 / アムピトリーテー号・カフェラウンジ 】
 
 たっぷりと稼がれた時間の中に、金色のスプーンだけがただ行き来する。甘いアイスクリームを運ぶそれはこの凄惨な現実から逃れるための道標か、はたまたどこまでも辛くて苦い現実を思い知らせるための刺激(スパイス)か。朔久は彼の紡ぐ言葉を待った。

「――――っ、!」

 もしかしたら自分は彼を侮っていたのかもしれない。そう思うほどに、返ってきた言葉は重量を秘めていた。
 はっきりとした表情は見えないが、その声音から察するに息吹が真面目に紡いだ言葉であることは明らかだ。他人の感情を上手く量ることの出来ない朔久でさえ分かる。花郷 息吹がどれほど
兵頭 シュウを仲間のひとりとして――否、直属の後輩として大切に思ってきたのかを。自身が駒鳥 花に向ける思いと同じように。

「…………昔、同僚をアンヴプカ事件で亡くした時に、同じようなことを真宮さんにも言われたことがある。今ある幸せは多くの犠牲の上に成り立っているものだが、決してそのことで自身を責めてはいけないと。――――そう言う真宮さんが一番そのことを悔いているようだったが」

 特務課に配属されて九年も経てば理想と現実の乖離を嫌でも理解する。この九年の間に一体どれくらいの尊い仲間の命を見送ってきただろう。たとえどんなに悔いたとしても失われた命は二度と帰って来ない。当時はそのことを諭されもしたが、それを語る師の瞳は酷く揺れていた。

 生き残った者が故人に対して何を思うのか。それは十人十色だ。しかし、共通することも多くある。もっと一緒に居たかった、もっと生きていて欲しかった、もっともっと――――。死ぬべきではなかったと思うのは、もしかしたら残された者の利己(エゴ)なのかもしれない。それでも思わずにはいられないのだ、彼の者が生き長らえていたならばと。

「無理をする必要はない。人の死になど慣れて良いものではないのだから」

 いつもと変わらぬ笑顔を見せる息吹の姿に朔久は静かに告げる。その言葉はまさしく師の受け売りだった。どんなに能天気に取り繕うと最も間近でその成長を見てきたのだから、少なからず彼の本心は理解しているつもりだ。故に珍しく優しい言葉を投げかけたのだろう。
 けれど、その心配りは次の瞬間には後悔に変わる。嗚呼、あんな質問など投げかけなければ良かったと思うほどに。

「…………そ、そうか。確かに女性側の方が何かと希望は多いと聞くな。お前の言う通り、結婚式は一世一代の大きな行事(イベント)だ。お前や相手の納得のいくまで吟味すれば良いんじゃないか……?」

 なんとも面倒な――言うなれば地雷に似たなにかを踏み抜いたと思いつつも、朔久は息吹の幸せな悩みに対して真摯に応答する。けれど、これまで恋愛というものをしてこなかった朔久が紡げる言葉は当たり障りのないもので、お世辞にも有益な助言(アドバイス)とは言えなかった。それでも当事者が納得のいくように、と紡ぐそれは息吹のために絞り出したものだったのかもしれない。

「――――お前の私生活(プライベート)に関する悩みはまた改めて聞くとして、今回の件についてお前はどう思う?」

 このままでは不味いと思ったのか、朔久はひとつ咳払いをして話題を切り替える。いつも通り言葉足らずが過ぎるようだが、恐らく彼は自身が抱いている引っ掛かりについて相手がどう思っているのかを知りたいのだろう。真宮 英太郎特務課(自分達)にアムピトリーテー号への乗船を命じた真意は何なのか、もとい、世界的権威は何を根拠にこの船でアンヴプカ事件が起こる可能性を導き出したのだろうかと。
 
>>花郷息吹さん、ALL

 
 
【 お返事遅くなり、すみません……! 】

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七角羊(ナツヒ) 2025/02/28 (金) 14:21:19

【 古河 月光 / アムピトリーテー号 廊下 → ライブラリー 】


夜空にヒビが入り、ぱりんと割れた。
夜空の欠片が天上から降り注ぐが、手元へ落ちてくる前に風に捲かれて消えていった。
手元には何も残らなかった。
割れた夜空の代わりに広がるのは真っ暗闇で、いずれ自分をも飲み込んでしまいそうだった。
大切な人も物も、何もかもすべてを飲み込むそれは、きっと自分の行き着く果てなのだろう。
飲み込まれる前に手を握ることが出来たら、引き留められたのだろうか。
時間も、言葉も、何もかもが足りなかったように思える。それは自分のエゴに似たものだったかもしれないが。
棺に向かって行く線香の煙がツンと目に染みたが、涙は流れなかった。
何もできず残された男の頭の中は後悔が積み上げられていくばかりであった。

海の上に浮かぶ船は思ったより揺れが少なく、それがこの豪華客船の大きさを物語っていた。今日から3日間、異能力研究所の真宮英太郎氏からの指示で、特務課全員で船内の警備にあたる予定だ。月光もいつもの仕事用のスーツではなく、この場に合わせて暗いシルバーのタキシードに身を包んでいた。髪型も前髪を後ろに撫でつけ、オールバックにしたが視界がいつもより晴れていて何だか落ち着かなかった。社交界なんて、どこぞの御曹司でもなければ慣れ親しみがある場ではないが、礼服を身に纏えばすんなりと他の乗客の中へと溶け込めた。
警備の仕事はよくある任務だが、一日中人の多い閉鎖的な場所にいたためか、さすがに疲労を感じた。専ら、近頃はより一層気が張り詰めっぱなしだった。窓ガラスに映った平時と変わらない飄々とした顔に、影が色濃く伸びている気がした。少し眉間に寄った皺を手でぐにぐにと解す。外はもうすっかりと暗くなり、少し休憩でもと悩みながら歩みを進めていると、頭上にライブラリーの文字が目に入った。喫煙室ではなくそこを選んだのは偶然か、それとも運命か、彼が知る由など無かった。

人々の喧騒を避けるように足を踏み入れるとそこには静寂さが満ちており、人の気配も強く感じなかった。
書斎らしく膨大な量の本が鎮座しており、本棚たちの隙間を縫ってゆっくりと足を進めた。たまたま目に入った棚にはイギリス文学の文字があり、思わず足を止める。大学生の時によく学んでいた分野でもあったので、懐かしさに浸りながら名だたる文豪たちの背表紙を指でなぞる。アガサ・クリスティー、エミリー・ブロンテ、オスカー・ワイルド、ウィリアム・ゴールディング……当時のイギリスの階級社会を色濃く描いた作品達はまるでこの豪華客船の様相にぴったりだと思った。煌びやかさと貧困。持つ者と持たざる者。上流階級の者達のための場。目が眩むほど、嫌と言うほど、手にした黄金を魅せられる。ただし、その黄金は使い方次第ではただの腐ったゴミになる。そんな話も、腐るほどある。かつて読んだ話をおぼろげに追憶しながら、本棚から目を外した。

自分すらすっぽりと隠してしまうくらい背の高い本棚たちの間を歩いていると、開けた場所に空の椅子が見えた。向かいのテーブルの上にはチェス盤が置かれており、駒も配置されていた。いつでも対戦ができるようになっているそれを見ながら徐々に足を進めて行くともう一つの、対になっている椅子に誰かが座っていることに気づいた。
ここで一息落ち着こうかと思ったが、先客がいるなら何食わぬ顔で素通りしようと思案するが、目に入ったのは見慣れた亜麻色の髪。その色に思わず少し目を見開いた。すぐに驚きの表情は顔を引っ込めたが、彼にはばれてしまっただろうか。ぴたりと、響いていた革靴の音が途切れた。

「……こんなところで作戦会議か?」

久しぶりの再会からの緊張か、それとも僅かな疲労からか、思っていたよりも低い声が出た。何かを咎めるような、そんな声色。思考を練る瑛介の表情は見慣れたもので、一目で月光はそれに気づいた。彼はチェスの相手が欲しいわけではない事も。
椅子の背へと立ったままもたれかかりながら呟き、瑛介と白と黒の盤上を順番に見下ろす。少しして、白い駒たちの方の椅子へと深く腰を掛ける。ポケットに入れられていた白い手袋はポーンのつるりとした輪郭をなぞる。月光の目線はそのまま、白と黒の盤上をぼんやりとした目つきで眺めていた。喧噪を逃れてきた者同士ではあるが、接触を避けてきた者同士でもある。以前なら一瞥はすれど、声を掛けずにその場を去っていたであろう。しかし今月光は瑛介の前に対峙した。目の前にいて、手も届く。なのにお互いの間にはどこか深い溝、あるいは高い壁ができてしまったように感じる。今何を思い、何を考えているか手に取るようにわかるのに。わかっていたのに、理解していたつもりだったが、それは間違いだったかもしれないことは、ひどく虚しく、心にぽっかりと埋まらない穴が開いたような気分だった。

暫しの沈黙の後、月光の目が瑛介に向く。

「お前は何を見ていた?」

月光にしては珍しい真っ直ぐな口調で、じっとただ一人でこの空席を眺めていたその目に、問いかけた。

>>瑛介さん

【本当に大変長らくお待たせしてしまいすみません……!時間がかかってしまいましたが絡ませていただきます!なにとぞよろしくお願いいたします。】

1096
白露 2025/03/09 (日) 14:39:40

【駒鳥花/バー&ラウンジ】

 花は、ラウンジの一角で静かに椅子に腰を下ろした。柔らかな光に溶け込むようなパステルピンクのワンピースが、しなやかな体の線を優しく包み込む。腰まで届くアッシュグリーンの髪はハーフアップにまとめられ、流れる毛先は穏やかな波を描き、夕凪に揺れる湖面のようだった。

「――紅茶をお願いします。ダージリンを。それと、ベリータルトを一つ」
 
 女給に声をかけ、花は柔らかく微笑む。その所作は滑らかで、自然と場に馴染む。幼い頃から仕込まれた習い事の影が、今も無意識に漂っていることに花は気付かない。
 ふと、天井を見上げる。そこには古びた海図が描かれている。その繊細な線描は、読み解けないほどに緻密で、暫くの間、目を離すことができなかった。

「私はきっと……。でも、……」
 
 言葉が自分の口から出るたびに少し心が揺れる。それが本当に自分の声なのか、どこか遠くから聞こえる誰かの声のようで。
 内心では、バーにある重厚な唐草模様のソファに深く沈み込んで、ただ何も考えずに目を閉じたいと思っている。けれど、そんなことをするわけにはいかない。いつでも明るく、楽しそうに見せなきゃいけない――そうしないと、自分自身が崩れてしまいそうだから。
『花、あなたを必要としているのはそこよ』
 そんな風に誰かが囁いてくれるなら、どんなに楽だろう。でも、現実は違う。誰も教えてくれないし、全てを指示してくれる声もない。だから、自分から足を進めなきゃいけない。そう決めたはずなのに。
 少しだけ息を吐き、椅子に寄りかかる。その仕草には余裕を装うような気配がなく、ただ静かにその場に馴染んでいた。しばらくして運ばれてきた紅茶とタルトを受け取ると、花は感謝の言葉を述べ、そっとカップを持ち上げた。
 ダージリンの香りが鼻腔をくすぐり、ほっとする温かさが手から伝わる。一口含むと、芳醇な味わいが広がった。その香りに包まれながら、彼女はフォークでタルトを一口分切り取った。口の中で広がる果実の甘酸っぱさと紅茶のすっきりとした味わいの調和が、短いながらも心に安らぎをもたらす。
 再び目を上げたとき、海図の線が少し違うものに見えた。絡み合った迷路にも、どこか出口があるかもしれない――そんな小さな希望が、花の胸にそっと灯った。
 
(お久しぶりの駒鳥です!
 ものすごく遅れましたが4章開幕おめでとうございます。ひっそり投稿させていただきます。
 返信がしばらくできなさそうなので、ひとまずAll文を提出します)
 >>All

1097
皇 朝陽 2025/03/11 (火) 01:39:03

【 東雲瑛介 / アムピトリーテー号・ライブラリー 】
 
 無人のライブラリーに足を踏み入れてからどれくらいの時間が経っただろうか。そんなことを忘れてしまうほど物思いに耽ていた瑛介は、突如として頭上から響いた懐かしい声音に顔を上げた。
 その声は自分がよく知るものではあったが、あの頃とは違ってどこか硬いもので。もちろん、その理由が分からない瑛介ではない。互いがこの場で偶然にも鉢合わせることなど誰が予想できただろう。自身が動揺しているのと同じように、彼もまた驚きを隠せないのだろうことは容易に分かった。

「――――月光、」

 だからか瑛介が久しぶりに紡いだ彼――古河 月光――の名にもどこかぎこちなさが宿る。一瞬だけ強張った表情を隠すかのようにゆっくりと息を吐き出せば、瑛介は僅かに口角を上げて彼を見つめた。

「そう言うきみは巡回中かい?」

 特務課の一員である月光がこのアムピトリーテー号に乗船している理由はただひとつ。警察組織の上層部または異能力研究所、即ち真宮 英太郎からの指示によるものだ。ならば自ずと此処へとやって来た理由は分かる。
 咎めるような響きを宿した月光の声に対して、瑛介の紡いだそれは凪のようなものだった。真意を悟らせないような、どこまでも静かで穏やかな声音。けれど、その実、瑛介の心の中では様々な葛藤があった。

 故に、続く月光からの問いかけに瑛介の呼吸が僅かに止まる。

「……………………さあね、強いて言えば気まぐれにチェスの相手をしてくれた人のことかな。その人とはもう随分、面と向かって勝負はしていないけれど」

 見据えていた人物が誰なのかを明言するつもりはない。何故ならそれを告げてしまえば、完全に彼を巻き込むことになるからだ。これだけの犠牲者が出てもなお、瑛介のスタンスは未だ変わらず、可能な限り特務課や便利屋ハーヴァ(彼ら)を巻き込みたくないと思っていた。否、もしかしたらそれはただの偽善や建前で、本当は真相を告げることが怖いだけなのかもしれない。
 
 上手いこと話を逸らさなければ。いや、そんなことを考えるより前に彼には伝えなければならない言葉が山ほどある。これまでずっと見て見ぬふりをしてきた、伝えられずに抱いてきた思いを告げても良い頃なのかもしれない。なんて、自分はどこまで身勝手で狡い奴なのだろう。瑛介は自身のことを嘲笑った。

「おれの母校での事件以来かな? あの時は世話になったね、でなければこうして船旅を楽しむことは出来なかっただろう。改めて礼を言うよ、ありがとう」

 やはりそこから先は伝えないほうが良いだろうか。礼の言葉と共に軽く頭を下げた瑛介の胸中に迷いが生じる。けれど、ここで再会できたのも何かの縁ならば。そう思い悩む瑛介の脳裏に長瀬 悠斗からの言葉が響いた。
 
貴方は神じゃない。全知全能でもなければ、全てを思い通りにできる力があるわけでもない。貴方はただの人間なんです。だから何もかもをたった一人で背負ってはいけない。その苦しみと重みは皆と分かち合うべきです、でなければ瑛介先輩が潰れてしまう。そしてきっと、瑛介先輩が潰れてしまったそのときこそが全ての終わりです、ハーヴァも特務課も何もかもが。〟
 
 その言葉に背中を押されるようにして、瑛介は生じた迷いや密かな恐怖を断ち切る。

「――――そしてもうひとつ、おれはきみに伝えなければならないことがある」

 月光を真っ直ぐと見据えた瑛介の目にもう迷いはなかった。これまでと同じように悔いを残したまま無理やり踏ん切りをつけて去ることもできたが、それを選択しなかったのは今も変わらず彼のことを唯一無二の親友だと思っているからなのだろう。相棒という関係性は既に終わりを迎えているが、友人ないしは親友という関係性は終わっていない。そう信じたかったのだ。

「直属の上司を亡くす苦しみは誰よりも理解していたはずなのに、おれは比嘉さんの葬儀にも墓参りにも行かなかった…………退職の件も含めて、おれはきみを深く傷つけた。今更だけれど、すまなかったと思っている」

 それでもその口調はどこか辿々しく、ひとつひとつ言葉を選びながら話しているであろうことは容易に分かるだろう。けれど、彼に伝えたかった思いはひどく単純なものだった。

「――――ごめん、」

 この五年もの間、馬鹿みたいに抱えてきたその一言を瑛介は漸く口にすることが出来たのだ。
 
>>古河月光さん、ALL

 
 
【 絡みありがとうございます! 念願の月光さんとのサシ絡み、今からとても楽しみです〜! 】

1098

【鷲獅子茶羽/アムピトリーテ レストランホール】

「じゃあ…お言葉に甘えて」

ビュッフェのスイーツコーナーはフルーツだけのところもあれば、様々なミニケーキがあったり、好きな量を掬ってとるタイプのものがあったりと様々だけど……
流石豪華客船やだけあってここ種類もたくさん、ミニケーキは大きめだし1口大のシュークリームもあれば好きな量を取れるプリンやティラミスもある。
加えて……自分が何気に得意としているソフトクリームのサーバーまで

それがあるのを見越して、少量ずつ持ってきたスイーツをテーブルに置くと真っ直ぐにソフトクリームサーバーのもとへ
専用の器の容量を確認すると機械のレバーをゆっくり下ろしていく。
機械によって出てくる量が違うため慎重に、土台を巻いていくと徐々に均一に、高く巻いて……
おおよそ20cmくらいでストップ。
本当は限界まで巻いてみたい、けど絶対怒られるのでやった試しはないけどいつかはやりないな……と思いつつ、ドリンクバーのコーヒーも入れて席へと戻る。

コーヒーフロートになるようにソフトクリームの半分をコーヒーの上へ、
残りは先に取ってきたスイーツを少しづつ楽しみながら合間合間につついていく
そうしていると次に何処へ行くか目処がついたらしい我流さんからスマホを提示されたので目を通してみる

「ボーリング……前に行ったの何年前なんだろう……なかなか行かないからこれは新鮮
凄くいいと思う!!」

自分が住んでいたところにはボーリング場はなかったし、記憶がある限りだと子供会のイベントで行って、楽しかったから上のお兄ちゃんに連れられて数回遊んだくらいで
全くと言って初心者では無いものの、かなりのブランクがあるからどうなる事やら
覚えいる限りだと、自分はどう投げてもカーブして転がっていく……癖みたいなものがあったように思う
今遊んでみるとやっぱりそうなるのだろうか??
それも含めて久しぶりに遊ぶのがすごく楽しみ……

>怪島我流、周辺All

1099
カーネル 2025/04/27 (日) 23:38:14

【 怪島我流 / アムピトリーテー号・レストランホール→ボーリング場 】
 
 
 
「 まあ船内にあるやつはレーンの数、少ない感じっすけどせっかくの船旅っス。どうせ他の皆さんも色んなところでなんかしてるっすよ。オレ達も楽しみましょうぜ。」
 
 遊びで来たわけじゃないが、今回は厳しい行動制限はない模様。せっかくの豪華客船での招待、料理や娯楽も今じゃないと楽しめない。暇で部屋に戻って、時間を無駄に浪費するくらいなら少しでも何かしてた方が良いと考えている。今のところ何かの騒ぎも起きてはいないので、こうして船内で遊んでるだけでも警備の内には入ると思ってる。他のメンバーも何処で何をしてるか、自分が気にするほどでもないと思っている。
 
 
 
彼女が全ての料理を食べた終えたところで、船内を散策しながら、一応構造を把握しつつ、目的の場所へ。
 

 
 場所が変わって、此処は娯楽施設の一つであるボーリング場。これくらいの客船には当然のようにあるものであり、数は2レーン程と通常のボーリング場より数は少ないが、長さや幅は同一である。
そこに黒と緑のボールを構え、SPの恰好した若き女性が一投する。ボールはそのままピンへと向かい、けたたましい音と共にぴん達は倒れ、残った数はゼロ。つまりはストライク。
 
 

「 ……。」
 
 

 ぐっと握り拳を作り、喜びを表しているが彼女はボーリングのプロでもなく、人生で数回しただけの素人である。
 
 

>>鷲獅子茶羽

1100
夕邑 三日月 2025/05/07 (水) 09:37:33

【雛代 月華/アムピトリーテー号・エレベーターホール】
 
 現は幻、夜の夢こそ真実。ならばその夢の終わりは、再びの虚構への入口なのか。舞台の幕が下りようとしている今この瞬間こそ、新たな悲喜劇の始まりなのか。
――もし、そうだとしても、構わない。
 少なくとも月華は、この邂逅と芝居じみた遣り取りに満足していた。
 消えない傷を抱えた者同士、この広くて狭い海上の箱庭で宿命を共にするのもまた一興、なんて。
「それならばいっそ、消えない業火を篝火にして踊り明かしましょう? せめてこの船の上にいる間くらいは。あたしの……あたしだけの騎士(ナイト)様」
 エスコートを買って出た一ノ瀬の言葉を借りて、月華は最後の芝居じみた笑みを飾る。
 彼女が後ろ手に伸ばした指は、吸い込まれるようにエレベーターのボタンを押した。それは無慈悲なくらいあっさりと、二人を連れ出す為の、或いは現実に押し込める為の鳥籠を連れて来る。
 エレベーターすら豪奢な照明の輝く光が、ホールを照らす。
 一ノ瀬に手を引かれながら、月華は一歩踏み出した。
 
「さて、何処へ行こうかしら……そう言えばあたし、先程のパーティーで主催者の内に挨拶しそびれた方がいらっしゃいますの。もしかしたから何方に居るかご存知? 禁野さんという方なのだけれど」 
 現実との境界線上で、そう問い掛けながら。
 
>一之瀬杏朱様、周辺all

【物凄い大遅刻ぶちかました上に、レスが短くて大変申し訳ありません……そのうえで今更ですが呼んで頂けたような気がしたので、もしよろしければレストランの方に向かわせていただけたらと思いますm(_ _)m】 

1101
真白蝶々 2025/05/17 (土) 22:10:10 修正

【 一之瀬杏朱 / →アムピトリーテー号・レストラン〝onda(オンダ)〟→アムピトリーテー号・甲板 】

 世界が全て夢ならばきっと黒い悪魔は安堵する。救済を忘却の彼方へ追いやった白き神、その御姿すら幻であったと思い込めるから。
 しかし。だがしかし。
 真実はそれほど甘くも優しくもない。

 それでも。たとえそうだとしても。
 月華と同様、杏朱もまた久しぶりに満ち足りた気分でいた。今宵めぐり逢えた事実は彼女たちの(なか)から消えることは無いだろう。
 出逢いは偶然ではない、それは、断じて。

 現世のあらゆる絆も縁も、何もかもみんなただの虚構だったとして。
 今この時、刹那の邂逅だけは焼き尽くさせないと2人は覚悟していた。

「それは、あまりにも素敵。だってわたしそのものが篝火なんですもの、この船の上だけと言わず、わたしたちの舞踏に終わりなんて来ませんわ」

 差し出された手を取る。絹のように滑らかな肌は涼やかな彼女の外見に相応しくひんやりと冷たかった。杏朱の、悍ましき熱を帯びた掌とは対照的に。
 身を屈め、恭しく。白雪のごとき月華の手の甲に杏朱は唇を寄せる。まるで御伽噺(絵本の中)のお姫様と王子様。触れぬまま、そっと口づけるふり(・・)をして、顔を上げると杏朱は密やかに微笑む。

「努々お忘れなきように。この世にはあなたの騎士(わたし)が居ることを、あなたは決してひとりではないと」

 目が眩む程の真白な光。天国の門は呆気ないくらい容易く開いて、翼を失くし(わすれ)た、罪深き哀れな天使たちを迎え入れた。

────────────────────

 月華の口から先ほどまで行動を共にしていた禁野靖明の名が出たのは少々意外だったが、杏朱には彼の居場所に当てがあった。何故ならほんの数分前、彼女は確かに感じ取っていたからだ。エレベーターホールで月華と語らっていた時に側の廊下を歩いていった彼の気配、彼が纏う香水の甘やかさを。杏朱の、今や異常なまでに研ぎ澄まされた感覚は、秘する影すら逃さない。
 禁野の向かった方向を脳内に叩き込んだ船内の地図と照らし合わせれば彼の行き先は容易に予想できる。レストラン〝onda(オンダ)〟へ月華を送り届けると、杏朱は彼女が店内に入るまで見送った。

 また1人になった杏朱が向かったのは人も疎らな甲板である。今の時刻と甲板の刺すような寒さを考えれば誰もが暖かな室内を目指すのは当然の事であろう。けれども彼女はあえてその場所を選んだ。
 それはもはや己自身を含め誰にも抑えきれないまでに猛り狂う炎をその身に宿して、人とは思えぬ熱を放つ心臓()を少しでも冷却する為の、其の場凌ぎの、悪足掻き。

 眼球と脳内にこびり付いて放れないのはまだ見たばかりのクリムトの名画。あの黄金に散りばめられた色の洪水、其処に浮かび上がる、蠱惑的な、女の、顔。

 
 紫の小さな花々が焔に舞い上がる。
 その向こうに漆黒の人影が見えた。
 確かに覚えがある、それは、嗚呼。
 

 仔犬が唸るがごとき振動にはっとして意識を戻す、夢から(うつつ)へ。
 震える多機能携帯末端を手に取れば着信の相手を確認する、そして目にした意外な人物の名前に杏朱は小さく首を傾げた。

「一之瀬です」

 ただ名乗り、ただ返答を待つ。

>>雛代月華、(?)、周辺ALL

【三日月様、久方振りにお相手いただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました!】

1102

【鷲獅子茶羽/アムピトリーテ レストランホール→ボーリング場】

「そういえば皆んな今どの辺にいるんだろう……、この船って改めて凄く大きいよね。
こんなに大きい船になかなか乗れることなんてないから、せっかくだもんね!!」

残り少なくなってきた締めのデザートを食べるペースを早めながら、皆が今どうしているかを考える
各々、私みたいにご飯食べてたり……見回りとかもしていたりするのだろうか
思っていたより自由に過ごせることに少し不安を感じるも自分は厨房を手伝ったりと好きなように過ごせていることを思うと精一杯楽しんでしっかりと働けたらそれでいいだろうと安心のような自信が勝る。

レーンが少ないとはいえ、レーンひとつでも大きいのがいくつもあるとなると、ただでさいろいろな施設が入っている上でボーリングが遊べる場所がある程の船の大きさに改めて凄いと思いながらデザートを完食。

そんな大きな船内にどんな場所があるかをしっかり目に焼き付けながら、ボーリング場へ

久しぶりにやるからと先は我流さんが投げる様子をしっかりと見ながら投げる感覚を思い出していく

「……!!ナイスストライク……!!」

そうしてみていると早速出たストライクに目を丸くしながら思わず立ち上がって拍手
そして自分の方はちゃんと狙ったとおりに投げられるかどきどきしながらレーンに立つとひと呼吸おいて白とピンクのボールを投げた。

狙いは曲がることを前提に少しずらして……

おそらく中何年ぶりかの一投。
ボールはガターまではいかないものの少しそちらに寄りつつ最後に予想通り曲がって真ん中より少しズレた位置へ
なんとかスペアを狙えそうな形にピンは倒れ、ガターにならなかったことにほっとしながら2投目を投げる。
先程のようにボールが曲がり、ちょうどよくピンを倒したことで狙い通りスペアを出す事ができた。

かなり久しぶりだというのにこれはなかなか悪くはないんじゃないだろうか……

>怪島我流、周辺All

1103
芙愛 2025/05/31 (土) 00:44:47

【花郷息吹/アムピトリーテー号・カフェラウンジ】
 
 咳払いの終止符が打たれるまで、滔々と語り続けること数分。その熱量はといえば、標準語こそ崩れてはいないものの、久々の早口に追いつけずに言葉の節々のイントネーションが若干怪しくなってくるほど。給仕の女性が振り返る。あの天沢朔久主任をしてあの優しい言葉を言わしめるという珍事を引いた事にさえ、気付いているのかいないのか。確かに花郷息吹は人の死に慣れてなどいなかったし、慣れることが出来ないとも思っていた。しかし、心配されずとも、然様な極限までの無理をするような男でもなかった。
 
「ええ、ええ。惚れた女性の希望やお願い事というのは、代替も妥協も効かない喜びです。天沢主任も……」
 
 分かるでしょう、といいかけて、分からなさそうだな、と言葉を呑み込むのもそれはそれで失礼な気がして、誤魔化すように口許を拭った。別に食べこぼしてもいないが、心なしか仄かに甘い香りがする。
 だから遮る咳払いは、ある意味好タイミングだったと言えるかも知れない。
今回の件について。この豪華客船に特務課の自分達が乗せられている意味について。この、〝平穏で静かな〟船旅に、異能力事件解決のスペシャリスト達が揃って張り込まねばならない理由。また、そう予測するに至った根拠。
 
「……俺に聞きますか?」
 
 つい五秒前まで惚気話にうつつを抜かしていた脳内お花畑野郎とは別人のような怜悧な眼差し。しかし口調は穏やかに、僅かに首を傾げて卓上で指先を組んだ。仕事の時の花郷に戻った。息吹が「俺」と言えているのは、ある程度は相手に気を許しているけれど、まだ格好つける余裕がある証拠だ。
 
「さて。どうでしょうね。少なくとも、まだ我々は何か隠し事をされている。本来なら任務に当たる前に当然知らされているべきだった何かが欠けているようにも思えますよ。仮説が提示されないまま、いきなり実験が始まるみたいに。……でもそれは、こんな情弱窓際部下なんかに聞くよりも、もっと諸事情に精通していそうな〝誰かさん〟にでも尋ねた方が良いのではないですか?」
 
 自嘲するように僅かに口角を上げて、淡く柔らかな色の目が真っ直ぐに見詰めている。言うまでも無く、それは天沢朔久が先ほどから受け売りにしているほうの〝真宮さん〟のことだ。聞けるはずが無いと彼は言うだろうが、彼が本当に聞きたいのは息吹の見解では無くあの人の言葉なのだろう、ということぐらいは分かっているつもりだ。
 素直に、聞けば良いのに。答えてはくれない、答えられないとはぐらかされるのだろうが。その背を追って問うてくれる存在のいじらしい愛しさは、教育者になったことがある者なら分かるだろう、失ってから気付いたのでは遅い。
 それに、実際、彼が何かを知っていて仲間内にさえ黙っているのでは無いか――という懸念を息吹はずっと抱いている。ハーヴァの仕事で乗船すると言っていた妻の話に因れば、〝エイスケ〟さんは別行動で〝真宮家の者〟として乗船しているらしいのだから。もしも彼がどんな事情であれ妻を騙して危険に巻き込む気でいたのなら、仮令ハーヴァとの共闘提携中であろうと何だろうと容赦する気は無い。個人的怨恨で正体がばれようが何だろうが殴るぐらいのつもりはある。息吹が乗船した理由、それは勿論、業務命令には絶対抗えない雇われの身であるからに他ならないが、その本業以上の目的としてこの船の何処かに居る彼女の安全を守りたい。それが総てと言っても過言では無い。今現在は到底何も起こりそうに無い、凪のような平和な静けさに包まれているが。その間にも危険をできるだけ索敵したい(そして対策を立てたいというよりは密かに全力で回避したい)とこの状況を見据えている。
 
>天沢朔久様

 

1104
皇 朝陽 2025/06/24 (火) 22:50:03

【 天沢朔久 / アムピトリーテー号・カフェラウンジ 】
 
 直属の部下の心情を慮った朔久の言動はどうやら杞憂だったようだ。それくらい、近しい人物の死を経験した息吹の様子は普段と変わらないものだった。けれど、他人には見せられない心内で感じているものは計り知れないだろう。ただ、朔久はそれを気にかける人間ではなかった。否、そこまで他人の感情の機微に敏感な人間ではなかった。
 
「…………、」

 相手が何を言おうとしているのかを察せないほど鈍い朔久ではないが、それを指摘したとして自身が得る利益は何もない。
 朔久自身、特定の異性と深く心を通わせたことはないに等しかった。それこそ、近くでその関係性を見てきた瑛介と杏朱のように。だからこそ、ここまで息吹を夢中にさせる相手のことを素直に凄いと思う。自分にはそこまで魅力的に想える相手はいない。そして、将来的にもきっといないだろうことは分かりきっている。
 
「――――俺はお前にこそ、その真意を尋ねたいと思っている。何故なら花郷 息吹(お前)真宮 瑛介(あの人)己角 迂可(俺の相棒)は同義ではない。違った特徴や性質を持つ人間だからこそ、その直観的なものを信じたいと思う」

 そう紡いだ朔久の表情には迷いと同時に覚悟が見て取れた。きっとそれは後戻りは出来ないという覚悟なのだろう。今もなお〝父親〟だと強く思っている羽生 太久朗を自らの手で逮捕した時と同じように、自身が追い掛け続ける背中が必ずしも正解ではないのかもしないという覚悟だ。何故なら一之瀬 杏朱の言う通り、真宮 瑛介という人物は一連のアンヴプカ事件の黒幕に近しい存在なのかもしれないという可能性を完全には否定できないのだから。奴等に狙われているかもしれないという事実と同時に。

 けれど、特務課を去った後の彼をよく見てきた霧島 圭吾の言う通り、信じたいという本音が朔久にもあった。それは彼らを似ていると証言した共通の知人――林野 雄司――による証言と、実際に瑛介と圭吾の双方と対面したことのある経験によるもので。根拠を示せと言われれば主観しかないのだが、それでも双方を信じたいという強い思いがあった。
 故に、自身や瑛介をよく知る人物とは異なった視点での意見を求めていたのだ。いつでも味方をしてくれる――同じ人物を師に持つと言っても過言ではないくらい、自身の思いを汲んでくれる相棒の己角 迂可とはまた違った視点を。

「俺の性格や言動故に伝わりづらかったかもしれないが、俺はお前や駒鳥――教育に直接携わった後輩――をそれなりに評価している。主任という立場上、表立ってそれを口にすることは出来ないが、正直なところ各方面で頼りにしている。だからこそ、真宮さんではなくお前に敢えて問うたんだ。今回の件に関して、何か違和感はないかと」

 照れくさいや苦手だという思いと同時に、主任としての立場が朔久の本音に制御(ブレーキ)をかけているが、普段から息吹や花のことは――本人達に伝わっているかは抜きにして――贔屓めに評価してきたつもりだ。これまで言葉にして伝えてはこなかったが、部下たちの中では特に頼りにしている。ただ息吹の言う通り、自身の中で最も大きな存在は他でもない瑛介だということもまた事実なわけで。
 
>>花郷息吹さん、ALL

1105
皇 朝陽 2025/06/25 (水) 00:09:53

【 真宮英太郎 / アムピトリーテー号・バー&ラウンジ→ 】
 
 様々な思惑が交錯する社交の場――――曰く、退屈な交流へと戻った英太郎は当たり障りのない笑みを浮かべながら目前の来賓達と言葉を交わす。その内容は酷く典型的なもので、英太郎の遺産や異能力研究所という特別な機関に対する媚び売りだった。こんなつまらない時間を過ごすくらいなら早く息子に会いたい。そんな思いすら芽生えるほどに。
 
 すると、英太郎を取り囲む人混みの中を我関せず進みゆく人影が現れる。緑がかった黒髪に茶色の瞳を持つ彼はそのまま悠然とした足取りで英太郎へと近づいてゆく。そして、恭しく一礼すれば彼の耳元へと顔を寄せた。

「…………瑛介君について目撃情報はあるのですが、未だ姿を確認できておらず、お連れすることが難しい状況です。誠に申し訳ございません」

 その男――行方 陀芴から紡がれた言葉は英太郎の実子である瑛介に関する事柄で。どうやら彼はディナー後からずっと瑛介を探していたらしかった。恐らくそれは彼自身の思いというよりか英太郎の頼みによる行動だったのだろう。もちろん、彼自身も久しぶりに瑛介に会いたかったのかもしれない。何故なら彼は英太郎に長年仕えている秘書であり、瑛介のこともそれなりに知っている存在だからだ。

「苦労をかけてすまないね。これだけ広い船だから無理もないだろう。けれど、どんなに広くとも明後日までは閉鎖空間であることに変わりはない。ならば、明日の夜に期待するとしよう」

 そんな陀芴からの報告を受けた英太郎は申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。けれど、そこには希望があった。きっと息子は自分と向き合ってくれるだろう、という希望が。それを根拠のない自信と言われてしまえばそれまでだが、英太郎は信じていた。愛する妻の忘れ形見である瑛介と分かり合えるその日を。

 しかし、その前にやるべきことがある。

「――――陀芴くん、すまないが私はひとつ老いぼれの心残りを解消せねばならない。後のことはお願いできるかな?」
「あまり人前に立つのは得意ではありませんが、貴方さまのお役に立つことこそ、私の本望で御座います」
 
 恭しく一礼する陀芴を残して英太郎はその場を後にする。自身の姿を追い掛けようとする者も多数いるだろうが、彼らのことは信頼する秘書に任せておけば良い。それよりも自分にはやるべきことがある。それは――――、

「もしもし、ご苦労様。急なお願いで申し訳ないのだが、劇場(シアター)に来てくれないだろうか? すまないね、よろしく頼んだよ」

 誰かに電話をかけたかと思えば、要件だけ早々に伝えて通話を切る。そして再び別のダイヤルへと発信をすれば、今度は諭すような口調で言葉を紡いで。

「先程は楽しい会話をありがとう。ところで、今から時間はあるかい? ちょうど彼女の時間も空いたところでね、もし良ければ劇場(シアター)に来てくれないだろうか?」
 
>>(一之瀬杏朱さん)、ALL

1106
カーネル 2025/06/26 (木) 23:51:04

【 怪島我流 / アムピトリーテー号・ボーリング場 】
 
 
 
「 あーどうっすかね?オレ達みたいに遊んでる感じじゃねぇと思うっすけど……オレも一度バーってところを行ってみたかったすけど、流石に未成年じゃマズいっすからね。オレがいると茶羽さんしか行けないし……しかし、こうも何事も起きない方が良いかもしれないっすよ?」 

  
 
 この豪華客船にはbarや酒が楽しめる場所もあるが、未成年の自分が緊急時以外でそこに行く事は許されず、仕事で来ているので、会社の看板を背負ってる以上行けないのなら別の場所で時間を潰すしかなく。同行している彼女は問題ないが、思えば一緒に行動して良かったのだろうかと思う。別のメンバーのように一人の方が行動もしやすいんじゃないかと思うも、そもそも荒事が起きなければいいだけの話である。ここは豪華客船の海上、船が沈むような事が起きなければ、比較的安全とも言える。
 うち以外にも特務課も来ている。重要な人物達の護衛等だろうから、もし騒ぎを起こすなら喧嘩売っているようなもので。
 
 
「 へへ、どうも。茶羽さんこそ、上手いじゃないっすか。そういえば前から思ったんっすけど……ーー茶羽さんって、どうして異能力者試験受けたんすか?」
 
 
 そんなこんなで二人っきりのボーリングを楽しんでいる。彼女は上手い具合にスペアを狙ったので、パチパチと拍手をしつつ、次は自分の番だが席を立つ前に、彼女に質問を投げかける。彼女の簡単な前歴や特技も知っている。彼女の異能力は正に味を体現としたものとなっている。
正直に料理に関する道に戻っても良かったんじゃないかと思いながら、自分のボールを持ち、構えて、放つ。ゴロゴロと勢い良く転がるボールは綺麗に真っすぐ、ピンに当たるも残ったのは右端の一本。
カーブなんてよくわからないからと、次は右端に立ち、真っすぐ放つも若干コースが外れていき、ボールはガーター。倒した数は9とスコアに表示されて、まあいいかと思いながら席に座る。
 
 
 
>>鷲獅子 茶羽

1107

【鷲獅子茶羽/ボーリング場】

「私が異能力者試験を受けた理由……?
資格取得が趣味だから……かな
あの時は特に仕事をやめて落ち着いてから時間を持て余していたし、仕事を見つけるのに何か役に立てばいいかなって
いろいろと難しかったけど……自分が得意なことに関わる能力で本当に良かった。」

そういえば豪華客船のバーならではの限定カクテルはあったりするのだろうか?
まだあまり詳しくはないけども、カクテルなどのお酒もいろいろ種類やレシピを勉強してみたくはあるけども……今は別の資格勉強をしているからその後で考えよう

この趣味が無ければ今頃はこうした仕事ではなく別の職についていたのかもしれない、なんならここまで自由に働けず前と同じような仕事をして、また体を壊していた可能性のほうが高いように思える……

そんなことをぼんやり考えつつも自分の番になるともう一度、曲がることを考えながら少し真ん中寄りで投げる
そうすると先程よりもより左にカーブをして、ガーターまではいかないものの奥のピン一本を倒して2投目へ

「うゎめっちゃ曲がった……」

やっぱり曲がるとはいえ曲がる度合いがよく分からない
今度は安牌を狙って右から狙いをつけて投げてみる
するとなんとなく察してはいたが玉はさっきよりかは曲がらずに、なんなら真っ直ぐに近く転がり右側のピンを数本倒して終了。

やっぱり自分の投げ方って本当、どうなっているのやら……

>怪島我流、周辺All

1108
真白蝶々 2025/08/04 (月) 22:30:10 修正

【 一之瀬杏朱 / アムピトリーテー号・劇場 】

 大地を取り巻く第三のもの(アムピトリーテー)〟、海の女王の名前を冠したこの大型豪華客船には、その名に相応しい荘厳な劇場が備えられていた。無限のさざ波のごとき天鵝絨(ベルベット)緞帳(どんちょう)、ずらりと並ぶワインレッドの椅子は座り心地も抜群だ。壁面には銀の三日月と黄金の雲、優雅に飛び立つ白い鳥たち、そして青く麗しき黄昏時の風景が描かれている。
 ただ今回の航海で劇場が使用される予定は無かった。歓談と交流、情報交換、計略と密約。乗客たちの旅の目的は明確、故に彼らは演劇や演奏を楽しむ時間すら惜しいのだろう。

 にも関わらず、だ。空白であるその場所に近づく人影ひとつ。彼女(・・)は端から見ても地に足がつかないように見えた。何かを期待して、わくわく、そわそわ。表情からも足取りからもそんな様子が見て取れる。
 やがて彼女は躊躇なく、本来であれば施錠されているだろう重厚な扉を押し開いた。

 劇場内は暖房も作動しておらず冷え冷えとしている。何故か緞帳は上がっており、がらんどうの舞台を照らすのは上座と下座にそれぞれ1つずつ、それはそれは眩い円形照明(ピンスポットライト)
 明るい広間(ロビー)から暗い劇場に入った彼女の視界は一瞬ぼやける。しかし彼女の眼球は捉えていた、上座側の明かりの中で彼女を待つ人物の姿を。

 
 
 客席に背を向けて立つ、懐かしく愛おしい影。
 ロイヤルネイビーのタキシードと、チェスターコート。
 ずっとずっと待ち望み、待ち焦がれた、〝彼〟は。
 
 ────儚い恋心がみせた幻。
 
 
 瞬きした時、夢みるまでに求め続けた人の影は呆気なく掻き消えた。
 ああ、なんということだろう、代わりにいま舞台上(そこ)に居るのは。

「お久しゅうございます」

 灼熱の焔を連想させる(あけ)の着物。姿(それ)そのものが高く高く夜空まで焼き尽くす火柱に思えて。
 静寂で満たされた空間に響く声は、決して声を張っている訳でもないのに、本職の俳優のようによく届く。

 彼女(・・)はゆっくり振り返った。

────────────────────

 遡ること数十分前。

「一之瀬です」

 寒々しい甲板で電話を取った彼女の耳に、深みのある滑らかな声が流れ込む。

「先程は楽しい会話をありがとう。ところで、今から時間はあるかい? ちょうど彼女の時間も空いたところでね、もし良ければ劇場シアターに来てくれないだろうか?」

 電話の相手は先ほど別れたばかりの真宮英太郎だった。何かあったのかと目を細める彼女だったが、彼の提案を聞けば硬質な声も緩んで。

「もちろんです、お気づかいありがとうございます」

 踵を返すその背中を、冷めた海風が押す。

────────────────────

 あまりにも艶やかに。不気味なくらいにこやかに。振り向いた女は笑っていた。全く底の見えない眼をして。くっきりくちびる吊り上げて。彼女は悪夢。彼女こそが。

「良い夜ですね、若菜さん」

 一之瀬杏朱は微笑んだ、青き逢魔が時の()の下で。

>>(?→真宮英太郎)、三好若菜、周辺ALL

【すっかりお久しぶりになってしまってごめんなさい】

1109
カーネル 2025/08/31 (日) 08:07:18 修正

【 怪島我流 / アムピトリーテー号・ボーリング場 】
 
 
 「 資格取得っすか……異能を資格扱いするのも珍しい感じがするっすね、異能に対して怖がる輩はいるってのに。特にオレのモンストルムだって、あれを初見で怖がらねぇやつなってなかなかいないっすよ。茶羽さんくらいの異能だったら、怖いとか思わないっすよね。」
 
 
 
 彼女が何故、異能を持つようになった理由を聞くとそれも一つの答えなのだろうと納得した。資格といえば資格だが、異能自体も自分で選べるわけじゃないんで、役に立てるものかもわからない。しょうもない異能だったら、彼女とは便利屋の仲間として、出会うことはなかっただろう。未だに異能自体を全ての人間が受け入れてるわけでものない情勢、特に自分のは近寄りがたく、怖がれやすい。まあそれが強みなのだから、否定する気もない。恐れられる事こそ、怪物の名に相応しい。

しばらく運動も続いてるので、水分補給をしようと席を立つと次を投げようとしている彼女に問いかける。
 
 
 
「 ……何か飲みたいものあるっすか? 」

>>鷲獅子茶羽

1110

【鷲獅子茶羽/ボーリング場】

「どんな能力であれ、次にどんなことを仕事にしようか参考にもなるかな……って、結局のところまた料理や食に関わる能力だったわけだけども……。兄にもまた食関係なの??って
そうそう、私、兄も弟も何人かいるからあまり詳しくはないけども小さいときは戦隊ものとか怪獣ものとかちょっとだけ一緒に見てたからかな
我流さんの能力は怖いというよりかっこいいなって」

思えば小、中、高と姉とは違って自分は少女漫画とかより兄や弟たちと少年漫画やアニメを見ている傾向にあったように思う
逆に今のほうが可愛いものにも興味を持ちつつあるような、主に妹の影響で

その傾向があってか異能力というものも、石を媒介して扱うこと自体も、なんかかっこいいしおしゃれって思ったりして……

「弟も割とかっこいい系を期待されてたからね……、私だからまた食かぁみたいな感じになってるけども使いようによってはかっこいいはずなんだけどね
料理好きだからミチクサのお手伝いとかするけど料理とは違った方向で能力を使っていろんなことができるのはなんかこう、使いどころを考えるのは楽しいかも」

久しぶりのボーリングで結局力が入ってしまっていたのだろう、少し腕が疲れてきたきがする
一旦次を投げようとするのをやめてボールを置いて少し体を伸ばしつつ言葉を返す。

「自販機、何があるかな??ちょっと休憩して見てみようかな……」

>怪島我流、周辺All

1111
皇 朝陽 2025/10/04 (土) 00:35:57 修正

【 三好若菜 / アムピトリーテー号・客室付近の廊下→劇場 】
 
 海と地震を司る神であり、オリュンポス十二神の一柱としても知られるポセイドン。その息子――トリトンの母である海の女王(アムピトリーテー)。その名を冠する豪華客船の一等客室(スイート)付近の廊下に彼女はいた。
 どうやら明晩に開催される仮面舞踏会に向けて、偉大なる主人の衣服を整えていたらしい。否、明晩のためというよりも乗船から今宵の晩餐(ディナー)まで着用していた洒落た普段着の片付けをしていた、というほうが的確だろうか。五年前の出来事がなければ、きっと仕えていた主人はその子息であったろうに。

 けれど、彼女はそのことを気にしないようにしていた。最愛の人が選んだ道を応援できないのは哀れなことだと。それでも人間という生き物はやはり愚かなもので、彼の父や自身の想いに蓋をすることはできなかった。ただ、彼を追い続ければ追い続けるほど、そこにある変わらぬ事実を突きつけられるだけという真理は何一つ変わらないのだが。
 
 そんな彼女――三好 若菜のもとに主人から突然の依頼が舞い込む。それは客船内の劇場(シアター)に来てくれないかというものだった。

「かしこまりました、これより向かいます」

 何用だろうかと考えるより先に、まさかという期待に胸が弾む。彼と最後に会ったのは羽生 太久朗が逮捕されたショッピングモールだ。あの時は警察庁警備局特務課の課長――皇 帝の姿もあったため、込み入った話ができなかったが、今回呼び出された場所はこの船旅では使用しないと聞いている劇場(シアター)である。つまり、期待通りの人物がそこにいるのならば――――。
 駄目だ、一度落ち著け。そんな都合のいい展開があるわけない。そう自身に言い聞かせながらも自然と足取りが軽くなるのを感じる。そこにいたのはただの恋する乙女だった。
 
 高鳴る胸をなんとか抑え、重厚な扉を押し開ければ冷え冷えとした風が吹きあたる。その冷たさに一瞬だけ身震いを覚えながら、三好は円形照明(ピンスポットライト)の当たる先を見た。
 そこに居たのは深い夜の海を思わせるようなタキシードを着たではなく、地獄の業火を思わせるような着物を纏った彼女――一之瀬 杏朱であった。刹那に捉えた彼の姿は幻想でしかなかったようだ。そのことに落胆を覚えつつも三好は杏朱からの挨拶に一礼する。

「良い夜……そうですね、久しぶりにあなたとお話ができるという意味ではそうかもしれません。お元気そうでなによりです」

 不気味なまでに艶やかでにこやかな笑みを浮かべる杏朱を見つめながら、一歩また一歩と歩み寄る。暗い客席から明るい舞台(ステージ)へと上がれば、初めて彼女と対等(・・)に向き合った気がした。無論、それは三好の思い込みでしかなく、実際のところは変わらず土俵にすら立てていないのだが。

「――――お屋敷にいらっしゃらなくなったのは瑛介さんが原因ですか? なんて、あなたはきっと知っているんですよね、瑛介さんが今の道を選んだ理由(わけ)を」

 真宮 瑛介が何の前触れもなく特務課を退職した理由も、実の父である真宮 英太郎と絶縁した理由も知らないが、真宮 瑛介と一之瀬 杏朱の間に生じた深い溝については何となく予想がつく。自身の知る彼女は〝正義〟に忠実であり、そこから逸れることを良しとしない。故に瑛介の行動が恐らく彼女の逆鱗に触れたのであろう。
 ただ、三好は知らなかった。瑛介が生涯の想い人にさえもその理由を告げていなかったことを。
 
>>一之瀬杏朱さん、ALL

 
 
【 多忙につきレス遅くなりすみません……! 】