【真なる概要】
『醜男しこお』とは、「強くて逞しい男性」を意味する単語である。
要は「益荒男ますらお」「偉丈夫いじょうぶ」等と同じような意味の単語である。 (´^ω^`)おっ 嘘じゃないお
決して、ただシコシコしてるだけの男ではないのである。
《古代日本において》
古くは古事記において大オオ穴牟遅ナムチ神ノミコト(のちの大国主神オオクニヌシノミコト)が葦原の中つ国から、須佐之男命スサノオノミコトが治める根ねの堅州国かたすくにを訪れた場面。
娘である須勢理毘売スセリビメが、父に誰かと問うた際に「此は葦原アシハラノ色許男シコヲと謂ふ」と答えたという。
つまり、葦原中国の屈強な男だと答えたわけである。
また、根の堅州国と葦原の中つ国は文字通り世界が異なる訳で、単に強いのではなく「この世ならざる強さ」レベルである。
《そもそもシコとは…》
“色許シコ”と“醜シコ”で字が違うじゃねーか、という人もいるかもしれないが、この場合大事なのは音である。
それに、神代紀第八段一書第六にも大国主神の別名として、「葦原醜男」と挙げられているため、けして間違いではない。
要は「シコ」という音に「力強い・逞しい」という意味があり、それに「醜しこ」という字を充てたものと考えられる。
余談だが、相撲の力士が土俵を踏み固めるような動作である「四股しこ」。
これは元々その動作を「醜足しこあし」と呼び、大地を力強く踏みしめることで、悪霊を踏みしだき、邪を払う儀式の意味合いがあった。
それが略して「しこ」と呼ばれ、いつしか「四股」の字が充てられる様になったのである。
マンガ『バキ道』で第二代野見宿禰が
「醜にはもう一つの意味もあり」「「力強さ」や「頑丈さ」を表す言葉でもあります」
「故に――――力強く大地を蹴る 踏む」「この動作を「醜足」と称する」
「踏むことで土地に棲む邪気を払い――――――魂を土中深く沈め込む」
と語っていたのは、決して板垣センセーの創作などではないのだ。
なので「四股名」も、元来は「醜名しこな」である。
《現代での醜男》
ただ、現代ではフィクション作品などでも、この用法 ―ことに“醜男しこお”― が出てくることは、極めて稀。
漫画版「風の谷のナウシカ」の6巻で「(ナウシカの護衛として)蟲使いの全支族からひとりずつ醜男がよりすぐられたのだ」というセリフがあるくらいか。
そのシーンでは、欄外に「醜男…逞しい男のこと(古語)」と注釈がある。
【余談】
もちろん、「醜」には「みにくい」という意味での用法もある。
ただ、これも類稀なる力強さの表現であった「しこ」が、同時に付随するこの世ならざる恐ろしさから、みにくさやいまいましさを言い表す…と転じたものと推測されている。
男女を逆にした「醜女しこめ」という単語も存在する。
古事記で伊邪那美命イザナミノミコトを黄泉の国から追った泉津醜女ヨモツシコメが有名であろうか。
ただ、こちらに関しては(少なくとも現代社会においては)「力強い・逞しい」といった用法はまったくなく、「醜い女性」の意味でしか使われない。
最近だとこの娘が言われたのが記憶に新しいか。勿論意味合いは上記の通りなので、もれなく長男の怒りを買っている。
ただ、現代社会ではやはりこの単語は、『醜男ぶおとこ』と読まれてしまうことの方が圧倒的多数である。
口頭で言われたのならともかく、文字で「醜男」と言われても喜ばないようにしよう。