●問題2
1.セリグマン(10章)
1998年に、アメリカ心理学会の会長であったセリグマンはポジティブ心理学を提唱した。ポジティブ心理学は、従来の精神的な弱さや障害を中心に研究してきた心理学に対し、これまで見過ごされがちであった人間の精神機能のポジティブな側面にも注目している。このように、ポジティブ心理学とは、人間の精神機能のポジティブな側面とネガティブな側面をバランスよく研究することで、人々の幸福感の強化を目指し、どのような要因がどのように幸福感の向上に関わっているのかを解明するというものである。また、ポジティブ心理学の中核には、楽観主義という概念がある。セリグマンは、楽観的説明スタイルには大きく3つのスタイルがあるとしている。第1に、不幸な出来事に遭遇したときに、それは「一時的」なものであり、永続するものではないと考える説明スタイルである。第2に、不幸な事態は「特定的」な原因によるものであり、普遍的な原因によるものではないとする説明スタイルである。第3に、不幸な出来事は「外向的」な原因も考えられ、必ずしも自分だけに原因があるのではないとする説明スタイルである。この考え方は、「うつ病」や「不安症」などの精神的治療において、効果的であるとされている。しかし、セリグマンは第3の説明スタイルに、自分の責任を他のものに転嫁する危険性も含まれていることを示唆している。また、うつ病や不安症を必ずしも楽観主義によって治せるとは限らない。このように、楽観主義には限界があること、楽観主義は現代人に自己のアイデンティティや目標や希望を与えるべく、発展する必要があることをセリグマンは指摘した。セリグマンは心理学史上、人々の精神疾患を治すためのほか、人生をどうすれば幸せにできるのかについて研究することに貢献した人物である。
出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/55/1/55_178/_pdf/-char/ja
アニーシャ・ニシャート・鈎治雄(2018)「楽観主義と現実的楽観主義」『教育学論集』第70号.2018年3月.201-212.
2.エリクソン(7章)
エリクソンは、発達の各時期に自我の葛藤が存在し、時期ごとに葛藤を乗り越えポジティブな自我の働きが優勢になることで健全な発達が送れると考えた。それが、自我発達理論である。彼は、人の誕生から死ぬまでの生涯発達をライフサイクルと呼び、乳幼児から老年期までの8段階に設定した発達段階モデルを提唱した。このモデルは、漸成的発達という、身体の各器官が各々固有の発生時期に沿って、段階を踏んで徐々に作り上げていくことである発生学の考えを取り入れている。そして、人の心理社会的な発達も適切な条件が整えば、誰もが漸成的な法則に沿って発達していくと仮定し、その発達段階ごとに固有の発達課題を、漸成的図式を用いて示した。漸成的図式では、右上に向かう対角線上の乳幼児期から老年期までの各段階において、成長を支える肯定的な面と、試練を示した否定的な面の両方の危機が強調され、それぞれの段階で危機に直面し、葛藤を解決していくことが成長にとって重要だと考えられている。例えば、青年期において、肯定的な面として「アイデンティティ」、否定的な面として「同一性混乱」が設定されている。一方、解決できずにアイデンティティの危機が何らかの形で存在した場合、その段階が終わってもまたそれぞれの段階に適した形でアイデンティティの危機が存在することを漸成的図式は示している。つまり、段階ごとの課題を乗り越えられないと、安定した人格を保つことが困難になり、他の段階にも影響を及ぼす。したがって、人格の安定には前の発達の段階での課題をこなせたのかが関わってくる。また、エリクソンは「自分が自分であること」「自分が誰であるか」を知っていることを「アイデンティティ」という語を用いて説明した。このアイデンティティとは、自分だけが納得していれば良いわけではなく、他者や社会から是認されているものであり、他者に対する自己の存在の意味として自己と社会との相互性の中に位置づけられたものでなければならない。つまり、自分がほかの誰とも違う独自の存在であるという感覚の斉一性、過去から現在にわたって自分が時間的に連続しているという感覚である連続性があることが重要である。最後に、エリクソンのアイデンティティの概念は彼の、父親を知らないこと、祖国ではないアメリカで生活することによる、「自分とは何か、自分はどこに属しているのか」という問いに長く向き合ったことで形成されたものだ。「エリクソン」という名字は、養父の名字であるホンブンガーから改名し、自分のエリクという名前に「ソン(son=息子)をつけたものである。そして彼は、「自分自身をエリクソンの息子にし、自分が自身の創始者になるほうがいい」と述べたという。エリクソンは心理学史上、人の発達段階を8つに設定し各段階で課題があること、アイデンティティの概念を提唱したことで、発達心理学や精神分析に貢献した人物である。
出典:小山隆之(2022)「心理学検定 基本キーワード 【改訂版】」『実務教育出版』 2022年11月5日.
中道圭人・小川翔大(2021)「教育職・心理職のための発達心理学」『ナカニシヤ出版』2021年3月31日.
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