第一話 旅立ちの二人
(この世界に、問題という問題は山ほどあるけど)
マリンは、言い訳、あるいは現実逃避のように、そんなことをふと、思うのだった。
(問題に対する回答が、必ずしも存在するってわけじゃあ、ないのかもねーー例えば、今とか)
ポケモン勝負において、巻く舌もないほどに、圧倒的な力の差というものがあるのなら、果たしてマリンは簡単にその勝負を放棄できたであろう。
しかし、今彼女がおかれている状況は、そうではなくーー絶妙に、あるいはゆっくりと気圧されるように、詰めを狙われているような。
とにかく、なんとか打破できそうなところはあるのだ。ただ、『どのようにして打破するのか』という問いに対し、マリンは答えを出すことができないのである。
(無いもんかしらね、答えって)
全ての問題に対し適切な回答を求めるのは、傲慢なのかもしれない、と彼女は思う。
(むしろ、怠慢、かなあ)
そこまで考えが流れたところで、マリンはいけない、と首を回す。
(まあーー適切じゃあないかもしれないけどさ、一応の答は出てるんだよねえ)
ふう、と息をついてから、彼女は自分の左胸に付いている、モンスターボールの形をしたバッジを握り締めた。
(やれるだけやろうーー足掻けるだけ足掻こう。なにより、負けるのは嫌だし)
とある日の昼、ビアンカタウンでのことだった。
001
僕を呼び起こす声がしたので、飛び起きてみると、それは目覚まし時計の機械音だった。
どうして、普段使っていない目覚ましが、今日に限って?
目覚ましのアラームを止めるのと同時に、その疑問は解決した。
「ああ……そっか」
今日は、旅立ちの日なのだ。
ベッドから降り、カーテンを右にずらすしてみれば、予想通りか、強い日差しが部屋に入る。
旅をする間、いつもこんな日のもとに晒されることになると考えると、少し嫌気もさすが、そのうち慣れるだろうと、僕はカーテンを締めた。
着替えるのだ。今日のために準備した服がある。
服を着替え、部屋を出、一階に降りると、母とマリンがそこにはいた。
「あら、ラグナ。おはよう」
「おはよう、母さん」
続けて、双子の(多分)妹のマリンが挨拶をしようとするが、彼女は朝食のパンを口に突っ込んだままいったので、
「んあ、あうあおあおう」
ちょっと意味が分からなかった。
「うん、おあおう」
そういって、僕はマリンの隣に座る。机上には僕の分の朝食が用意されていた。
これがしばらく食べられなくなるのかと思ってみると、なるほど少し感慨深いものが、そこからは感じられた。
「ついに出発だね」
牛乳で口の中を空にしたらしいマリンが、そう呟いた。
「そうねえ。そういえば、お母さんも、あなたたちと同じくらいの頃、旅に出たのよ」
その話が母の口から出るのは、果たして何回目だろうか。ただ、断る理由もないので、僕は聞き流すように聞くーーマリンも同様の考えのようだ。
「ホームシックってやつかしらね。半年もしないうちに、家に帰っちゃったけど」
あなたたちはちゃんとしなさいよね、と笑いながら言う。
「だってほら、博士から貰うんでしょ?ポケモン図鑑」
「そうだよー」マリナが、(学習したのか)ちょっとだけパンを口に放り込んでから、そう言った。
「ちょっとだけ、面倒だけどね」僕が言った。
「ふふ……目的があるって、いいことじゃない」
目的、かあ……。僕は息を吐くようにそう呟いた。
僕には夢があるのだ。
『ポケモンリーグのチャンピオンを倒し、サザン地方の頂点に立つ』




