仏道の『阿頼耶識システム』

学術論文(仏教学) / 66

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法介 2026/06/15 (月) 07:57:04

世親(天親)の『妙法蓮華経憂波提舎(法華論)』における、「五何法」の具体的な定義と釈義が詳しく説かれている極めて重要な箇所です。
このテキストは、五何法のそれぞれに対して、「一乗(法華経の究極の立場)から見た解釈」と、「一般的な仏教教理(有為・無為など)から見た解釈」の二つの意味(又復有義)を重ねて説明しています。

以下に、原文の構造に忠実な現代語訳を記述します。

『妙法蓮華経憂波提舎』該当箇所の現代語訳## 【総論:五何法の提示】

「一には何等(いずれの)法か。二には云何(いかなる)法か。三には何似(いかなる性質の)法か。四には何相(どのような相の)法か。五には何体(どのような本体の)法か、ということである。」

【第一の解釈:法華経の一乗思想(仏の悟り)に基づく解釈】

  • 何等法者。謂聲聞法辟支佛法諸佛法故。
    「何等法(どの法か)」とは、声聞(しょうもん)の法、辟支仏(ひゃくしぶつ=縁覚)の法、および諸仏の法のことである。
  • 云何法者。謂起種種諸事説故。
    「云何法(どういう法か)」とは、[仏が衆生の機根に応じて]種々様々な事柄[の方便]を起こして説かれることである。
  • 何似法者。依三種門得清淨故。
    「何似法(どのような法か)」とは、三種の門[声聞・縁覚・菩薩の三乗の修行]に依って、[究極的には等しく]清浄[な境界]を得るということである。
  • 何相法者。謂三種義一相法故。
    「何相法(どういう相を持った法か)」とは、[三乗という]三種の義(意味・現れ)が、[究極的には]一つの相(一相・実相)の法であるということである。
  • 何體法者無二體故。無二體者。謂無量乘唯一佛乘無二乘故。
    「何体法(どういう自性・本体を持った法か)」とは、[現象の根本に]二つの本体が無いということである。二つの本体が無いとは、無量の乗り物(教え)があるようであっても、ただ唯一の仏乗(一仏乗)があるだけであり、[本質的に]二つの乗り物(大乗と小乗の区別など)は無いということである。

【第二の解釈:一般的な阿毘達磨・唯識等の教理に基づく解釈】

  • 又復有義。何等法者。所謂有爲無爲法等。
    「また、別の意味もある。『何等法』とは、いわゆる有為法(因縁によって造られた現象)や無為法(因縁を超えた絶対の真理)などのことである。」
  • 云何法者。謂因縁法非因縁法等。
    「『云何法』とは、いわゆる因縁法(原因と条件によって生じるもの)や、非因縁法などのことである。」
  • 何似法者。所謂常法無常法等。
    「『何似法』とは、いわゆる常住の法(永遠不変のもの)や、無常の法(移り変わるもの)などのことである。」
  • 何相法者謂生等三相法不生等三相法。
    「『何相法』とは、生・住・異・滅(あるいは生・異・滅)という[有為法の]三相を備えた法や、不生・不滅などの[無為法の]三相を備えた法のことである。」
  • 何體法者。謂五陰體非五陰體故。
    「『何体法』とは、五陰(五蘊=人間の肉体と精神の構成要素)を本体とするものや、五陰を本体としないもの(無為法など)のことである。」

【補足:四諦(苦・集・道)の教理による追加の解釈】

  • 又何似法者。謂無常法有爲法因縁法。
    「また、『何似法』とは、無常の法、有為の法、因縁の法のこと[を指すこともある]。」
  • 又何相法者。謂可見相等法。
    「また、『何相法』とは、[目で見ることができる性質などの]可見相(目に見える属性)を持った法などのこと[を指すこともある]。」
  • 又何體法者。所謂五陰能取可取。以五陰是苦集體故。又五陰者。是道諦體故。
    「また、『何体法』とは、いわゆる五陰における『能取(認識する主体・心)』と『可取(認識される対象)』のことである。なぜなら、[迷いの境界の]五陰は『苦諦(苦しみの現実)』と『集諦(苦しみの原因)』の本体だからである。また、[修道の境界における]五陰は、『道諦(悟りへの道・智慧)』の本体だからである。」

解説・まとめ

この箇所を読むと、世親がサンスクリット原典の5つの疑問(五何法)を、法華経の「三乗を統一して一乗に帰入させる(開三顕一)」というドラマチックな思想(前半の釈)へ見事に着地させていることが分かります。
同時に、それを当時のインド仏教の緻密な記号論・心理学(五陰、有為無為、四諦など)と整合性を持たせようと、二重三重の定義(後半の釈)を試みています。
智顗の「五重玄義」や「五仏性」の議論は、まさにこの世親が展開した「一乗(一仏乗)の絶対性」と「日常の現実(五陰・苦集諦)の分析」のダイナミックな交差を元にして組み立てられていることが、この原文から非常によく見えてきます。
もし、このテキスト内の特定の仏教用語(能取・可取、三種門など)や、世親の論理展開についてさらに気になる点がありましたら、ご遠慮なくお申し付けください。

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