ににんがし

【川原寝太郎&はったみさと】 / 57

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中学三年の夏
リビングのドアを開けた先で
何かを慌てて隠した母
手紙をね
問われもしないのに
手紙をね 毎月書いたんだ
岸壁に建つ鳥居が水面へ影を落としている
返事は滅多に来ないけど
お前が無事生まれたのは教えて貰えた
写真が欲しかったんだがな

病院らしい建物の方からチャイムの響き
あれが三回鳴るまでに戻らなきゃ
風が木々を渡り花を水面へ散らしてゆく

じゃあ、写真を撮ろう
と、スマートフォンを祖父へ向ける
この島では春が早く通り過ぎていくみたい
気がつけば参道の両側は雨のような花吹雪
蜂蜜のような陽差しに影は濃く、笑顔は淡い
送信先が空白のまま、画面を消した

桜がぜんぶ散り切ったら、
私たちにはそれぞれ新しい名前がつく
この海を渡ったことなんて、まるでなかったかのように
生徒と先生じゃなくなる日か
患者と先生じゃなくなる日
そんなものがぼくらにも来るだろうか

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