ヤマノスしゃべり場

SSスレ / 421

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早朝、草木も凍りそうな寒さの中、カチノ池から蛇神シロが顔を出した。
岸に上がったシロは、大きく伸びをしてから、池の畔にある石を見た。
湯飲みが一つ、石の上に置かれている。

何の変哲もない、ごく普通の湯飲みだが、シロはそれを気に入っていた。
その湯飲みは、大好きな婆っちゃが残していったものだった。
婆っちゃは、山に入る前によく池を訪れ、手を合わせていた。
水を入れた湯飲みを石の上に置き、握り飯などと一緒に供えてくれた。

しかし、熊が出没して以来、この辺りは立ち入り禁止になった。
婆っちゃも池に来ることができなくなり、湯飲みだけが残された。
今や、湯飲みにきれいな水を入れて供えてくれる人はいない。
だからシロは、時たま自分で水を替えていた。

いつものように湯飲みを傾けたところ、水が落ちてこない。
寒さで氷になっているのだ。
覗き込むと、氷の結晶が集まって固まり、一輪の薔薇を形成していた。

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