「その高官の没後、息子の代で家は落ちぶれてしまったんじゃよ。
“氷花ヲ弄ブガ如ク、堅久ノ兆シニ非ザルナリ”
氷が溶けて消え去るように、栄光は長続きせんというわけじゃ」
ヤエが、くっくと笑った。
「じゃあ、おら、見ねえ方が良かっただか?」
シロが、眉を八の字に下げた。
ヤエは一瞬、しまったという顔になったが、すぐに咳払いをした。
「まあ、それは心がけ次第じゃ。精進に励んでさえおれば、
ヌシの夢はきっと叶おう。ワシやミヨシらも協力するでの」
「うん!」
シロの笑顔を見て、ヤエも喜ばしく思った。
氷の像は、なぜか翌日からぱったりと現れなくなった。
それでもシロは、変わらずに婆っちゃの湯飲みを大切にしている。
立ち入り禁止となったカチノ池を訪れる者は、誰もいない。
しかし、池の畔に置かれた湯飲みの水は、いつもきれいであった。
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