良い感じだ。では続きの文章を引き続き仕上げてくれ。
又八と武蔵は柳生の里へ向かって歩みだした。
その道の途中、二人の行く先に一人の武芸者が立ちふさがる。
「柳生兵庫!」
事前に柳生の情報を下調べしていた又八が、その風貌から柳生きっての剣豪、柳生兵庫だと覚った。
「柳生に勝負を挑もうって勇ましい武芸者が居るって聞いたんだが、お前さん達か?」
「お、俺はそんな恐れ多い事は、これっぽちも思っちゃいねーよ
ほ、ほんとだぜ・・
た、ただ、こっちにいる武蔵って奴がね、どうしても勝負がしたいっていうもんだから、案内しちゃったりしただけです」
又八は、そう説明すると隣の武蔵に子声でつぶやた。
「た、たけぞう、どうすんだ?」
アドバンは、闘将としての自身の血が騒ぐのを感じた。
「面白い、お相手願いますか?」
自分でも何を言ってるのか分からないが勝手に口から言葉が出てくる。
「ならばお相手致そう」
そういうと兵庫は、腰の刀に手を掛けて抜刀の姿勢を取った。
たけぞうも刀を抜き構えに入った。
二人が向き合い、その場の空気が一瞬にして張り詰めた空気に変わった。
その場にいた又八は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
1.5メートル程の間を挟んで二人の武芸家がその時を見定めていた。
静まり返った田舎の一本道。
風が吹き抜ける音だけが妙に大きく感じた。
(全くすきが無い・・・)
安易に切りかかれば、カウンターで一瞬で斬り返される。道場で目にした陽次郎やアフロの柳生の剣さばきの鋭さが脳裏に焼きついているアドバンだっただけに、兵庫のそれが動きに転じた時のイメージが鮮やかに脳裏に浮かぶ。
斬りつければ、間違いなくこっちが斬られる。そう悟った武蔵は、
「やめた! やめた!
勝負なんて馬鹿ばかし。 やめだやめだ!
又八! 温泉にでもつかりにいこうぜ!」
そういって刀を鞘に納めて振り返ってその場を去ろうとした。
その時、兵庫が言った。
「俺も丁度温泉に浸りにいくところだったんだ
良い温泉場がある、ついて来い」
今、世間を騒がせている武蔵という剣豪が、どれ程の人物なのか興味深々だった兵庫。剣を交える事は無かったが、武蔵の実力は今まで出会った武芸家の中でトップクラスであることは、十分観じ取っていた。というか、自分と同じオーラを武蔵に感じていた。
それは間違いでは無かった。辿りついた温泉で子供のように触れ合う武蔵と兵庫の姿に又八は嫉妬を感じる程にあっけにとられていた。
兵庫の方がいくつか年上にあたるだろう。まるで弟のように愛着を持って「武蔵!」と呼べは「兵庫さん!」と敬意を持って兄を慕うかのような武蔵。ふたりの絆が深く結ばれた一日だった。
その後、又八と武蔵は兵庫のはからいで柳生の里にしばらくお世話になることになった。
その時期、柳生の里には江戸柳生から丁度、柳生十兵衛が遊びに来ていた。十兵衛は宗矩の息子で兵庫はその宗矩の兄の息子で二人は従兄弟の関係にあたる。
兵庫や十兵衛、宗矩やその父、石舟斎、皆後世で小説や映画の主役として描かれる程の剣豪達で、それ以外にも柳生宗章や柳生連也斎など、柳生という一門からは、同時期に沢山の剣豪が存在した。これは歴史上他に類を見ることが無い。
なぜそこまで沢山の剣豪が柳生から生まれたかと言えば、それは柳生の剣術が単なる剣術に止まらず、仏法思想という深い思想によって築かれた優れた剣術だったからである。
「十兵衛、面白い奴を連れて来たぞ
竹刀を交えてみろ」
兵庫がそう言って武蔵を紹介した。兵庫の見立てでは、武蔵の実力は、十兵衛とほぼ互角。十兵衛にとっても良い刺激になるだろうと、道場で二人に一戦交えさせた。
「面白い、お前なかなかやるじゃないか」
十兵衛の剣の腕前は柳生の中でも郡を抜いており、わざわざ江戸から柳生の里まで遊びに来るのも、兵庫との稽古が目的であった。十兵衛の相手が務まるのは、柳生と言えども石舟斎に匹敵する強さと言われた兵庫ぐらいしか居なかった。
十兵衛と武蔵の稽古試合は、結局勝負がつかないまま終わった。
その頃、十兵衛が去った江戸城では、
「十兵衛はどこじゃ? 十兵衛を呼べい!」
と、退屈そうに窪田正孝似の将軍家光が、十兵衛を探し回っていた。十兵衛は家光の剣術相手として家光とは幼少の時から、兄弟のようにして育った。