柳生雄一郎
そんな夢を見たあくる日、アドバンは寺の掃除をしていた。いつもは閉まっている部屋の扉が少し開いているのに気付き、掃除をしようと何気にその部屋の扉を開けて入ってみて驚いた。
「こ、これは・・・」
部屋の中央に畳10畳程のジオラマが造られており、Nゲージの線路が無数に走っていた。部屋の棚にはNゲージの列車が綺麗に並べられており、その数は数え切れないほどの量だった。
「すごい! これは英国鉄道のClass800じゃないか! こっちにはニューヨーク・セントラル鉄道のE7Aもある!」
その瞬間、巌空和尚が静かに入ってきた。
「和尚の趣味なんですか?」
アドバンが尋ねた。実はこれらの鉄道模型は、和尚の甥にあたる雄一郎が子供の頃から鉄道に夢中だったからだ。職業上、妻を娶らなかった巌空は、雄一郎をいつも可愛がっており、彼のためにこの部屋を作ってあげたのだった。
「お前さんも好きそうだな、Nゲージ。」
アドバンの目が輝き、思わず微笑んだ。彼はその情熱を抑えきれず、レールを見つめていた。
「走らせてみてもいいぞ。」
「いいんですか!」
アドバンは嬉しそうに、好みの列車をレールに配置して、ジオラマのスイッチを入れた。腰を落とし、列車の目線で走るゲージを一生懸命眺めているアドバンの姿が、巌空和尚には雄一郎の姿と重なって見えた。
「あいつも帰ってくると、そんな風に飽きもせず何時間も眺めているんだよ。」
その気持ちがアドバンにはよく分かる。彼はその姿に共鳴し、しばらくその光景に没入していた。すると、和尚が語りかけた。
「北九州に雄一郎が良く行く鉄道模型の有名な店がある。時間を作って、お前さんも見に行ってみるといい。」
「良いんですか? 是非、行ってみたいです!」
アドバンはすぐに時間を調整し、翌日、その鉄道模型の店を訪れるために北九州へと向かった。通訳役のアフロを連れず、代わりに補聴器タイプの和英変換機を耳に装着し、スマホの英和変換ソフトを使うことにした。
その先に、彼の新しい冒険が待っていることを、アドバンはまだ知らなかった。