龍二
店内は、このビル一階の総面積を占めているので、かなり広々としていた。店の奥には巨大なジオラマが造られていて、模型列車が数台、そのジオラマ内を勢い良く駆け巡っている。
初めてこの店を訪れたアドバンは、商品棚の豊富な品揃えに感心し、思わず見入っていた。雄一郎と龍二は、ジオラマを眺めながらもコーヒーを楽しめる喫茶コーナーに腰掛けて、雄一郎が常連客らしい親しげな口調でマスターに注文をした。
「マスター、コーヒー二人分頼む!」
店内の雰囲気に溶け込んだ雄一郎の声が響く。その声に応じるように、店の奥からコーヒーを淹れる音が聞こえた。
「で、何をしでかしたんだ? 詳しく話してみろ。」
雄一郎が言うと、龍二はしばらく黙ってから、ゆっくりと事の成り行きを話し始めた。そんな二人に全く無関心のアドバンは、ショウケースの中のNゲージをまるで宝石でも眺めるようにじっと見つめている。
時折、アドバンの様子を横目で確認しながら、雄一郎は龍二の話に耳を傾けていた。
「そりゃ、鬼頭会さんが怒るのも無理はないな。」
雄一郎が、龍二が反省するように、物事の道理をわかりやすく諭すように語る。
「俺がついていってやるから、一緒に鬼頭会に頭下げに行けるか?」
「雄一郎さんが一緒なら…」
「よし、分かった。じゃあ、これでこの件はお終いだ。」
その時、アドバンが店内を見回していたが、ふと雄一郎に声をかけられた。
「おーい、そこの赤毛の兄ちゃん!」
アドバンが振り返ると、雄一郎がにっこりと笑いながら言った。
「気に入ったゲージがあったら、持ってきてここで走らせて良いんだぞ!」
アドバンはその言葉に驚き、すぐにお気に入りのゲージを見つけると、ジオラマコーナーに向かった。
「FEF-3 蒸気機関車じゃないか。通だねー。」
雄一郎が感心したように言うと、アドバンが持ってきたのはアメリカのユニオン・パシフィック鉄道のFEF-3蒸気機関車だった。それをジオラマにセットすると、スイッチを入れて走らせた。
「お前さんも一緒にコーヒー飲みながら、鑑賞に浸ろうぜ。」
雄一郎が言って、アドバンを席に招いた。言われるままに着席したアドバンは、コーヒーを頼んだ。
「で、お前さん、名前は何て言うんだ?」
アドバンが自分の名前を告げると、雄一郎がしばらく考えた後、口を開いた。
「何か聞いた名前だぞ…」
雄一郎は、アフロがアメリカの友人を連れて来日するという話を聞いていた。それがアドバンだと気づき、思わず声をあげた。
「あー、もしかしてアフロのアメリカの友人の?」
アドバンがうなずいた。彼もまた思っていた。
(この人物、どこかで出会った気がする…)
その瞬間、アドバンは「ああー!」という顔をし、記憶が蘇った。
(昨日見た夢に出てきた兵庫さんだ…)
雄一郎の風貌、雰囲気、そして放つ独特のオーラ。そのすべてが、まさに夢の中で見た柳生兵庫そのものだった。