まるで昨日の夢の続きかのように、アドバンと雄一朗、そして龍二の三人は鉄道模型の話で盛り上がっていた。店内では列車が走り、ジオラマの中で小さな世界が広がっているが、その話題に対する熱量は実際の列車に負けず劣らずだった。龍二も鉄道模型が大好きで、よくこの店に来ていた。彼と雄一朗はここで出会い、親しくなったのだ。
最初、雄一朗が刑事だと知ったときは龍二も驚き、焦った。だが、雄一朗は刑事という職業に囚われず、一人の人間として龍二に接してくれた。それが彼にとって大きな支えとなり、雄一朗は兄のような存在になった。家族がいない龍二にとって、雄一朗のような存在は貴重で、心を許せる唯一の人間だった。
アドバンはその後、空観寺の雄一朗のジオラマ部屋の話をした。
「あの部屋、いいだろ? 自由に使ってくれ。」
雄一朗はアドバンにそう言い、そして、龍二を連れて鬼頭会の事務所へ向かうべく車を走らせた。
雄一朗は今、北九州の暴力団対策本部長として北九州県警に勤務しているが、本来は警視庁に所属しており、剣術特別指南役という立場にある。日本の警察では、柔道と剣道の習得が義務付けられており、雄一朗はその道でも圧倒的な実力を誇っていた。全国大会に出場し、十連勝の記録を持つ彼は、大会側からの要望で特別顧問となり、全国の県警剣道部の指導を行っていた。そのため、警視庁は雄一朗のために「剣術特別指南役」という新たな肩書きを設けたのだ。
そんな雄一朗が、車内で静かに会話しながら事務所へと向かう。やがて、鬼頭会本部事務所に到着し、雄一朗はまるで自分の家にでも帰るかのように、堂々と事務所に入って行った。鬼頭会の構成員たちは、組長でも迎えるように彼に会釈し、すぐに彼を歓迎した。その後ろから、龍二はびびりながらも必死についてきた。
事務所のドアを開け、雄一朗が堂々と声を上げる。
「健造と太一はいるか?」
すると、事務所内から健造と太一が現れ、すぐに雄一朗を迎え入れた。
「雄一朗さん、こちらにどうぞ。」
健造と太一、雄一朗と龍二の四人が奥の来客の間に入って行った。健造と太一は事務所の中堅幹部で、若手の構成員を仕切っている存在だった。
「こいつから事の成り行きは聞いたよ。お前らが怒るのも無理は無い。俺からもこっぴどく言って聞かせた。本人も深く反省している。なぁ、龍二?」
雄一朗が語りかけると、ソファに座っていた龍二は、突然床に正座して、土下座をして謝罪した。
「健造、太一、これでも気が治まらねぇってのなら、好きなだけこいつを殴り飛ばしな。ただな、心から反省してる奴を殴り飛ばす意味ってあるのかなぁ? って俺は思うぜ。」
雄一朗が冷静に言うと、健造と太一は思わず納得した様子で頷いた。
「雄さんの言うとおりです。間違いに気づいて、二度とこんななめた真似やらかしてくれなきゃ、それでいい。」
「じゃ、そういう事で今回の件はこれでお終いってことでいいな。」
その一言で、場の空気が落ち着き、龍二も肩の荷が下りたようにほっと息をついた。
事が収束した後、雄一朗は龍二を連れて、また新たな一歩を踏み出すのだった。