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「何故ですか?」
「ん?」
「何故………あなたはわたしに構うんですか?」
ことり、とワイングラスが机に置かれる。店内を流れるイタリア語で歌われたBGMは陽気だ。
それらがちゃんと耳に入ってくるくらい、ナナの所作は穏やかで、落ち着いていて、緊張を感じさせなかった。
「うーんとね。それは多分なんだけど、ステラちゃんが“普通”だからなんだと思うなぁ」
「普通………?」
意味が分からない。混血でありながら代行者。わたしほど普通から掛け離れたものもそう無いだろうに。
だが、ナナは聞き返したステラの言葉にうんと頷いた。
「聖堂教会………特に代行者だとか、聖堂騎士だとか、魔を討つ役目を主よりお預かりしている立場の人間はね。
ほとんど全員が気狂いよ。アタシも含めてね。まともじゃないんだなぁ、みんなさ。
でもね。ステラちゃんはちょっと違うよね。客観視してるというか、一歩距離を置いてるというか。
我らが主の教えを信じながらもどう自分の中に取り込むか、いつも考えてる気がするの。
アタシ、そういうの素敵だなぁって思うなぁ。アタシはもうそこには戻れないしさ」
───それは、魔との混血故に皆が到れるような清らかなるものにはなり得ない諦観から。
───それは、いつか魔に転じ得るかもしれないが故に自分自身を常に見つめ続ける恐怖から。
ステラにとってそれは誇れるものでは無かった。だから、ナナの言ったことを理解することはできなかった。
「………よく分かりません、あなたの言うことは」
「ん、それでいいと思うよ。それを教えてくれる人にいつか出会えたらいいね。アタシには無理だもん」
あっけらかんとした調子で言い、テナガエビのフリットをフォークで突き出したナナにステラは告げた。
「あなたは変な人です。ナンシーさん」
「ナナでいいよ~。むしろナナって呼んで~」
「………。………ナナさん」
「そうそう、やっぱりそっちの方がいい響きよね」
にっかりと笑ったナナの笑顔は本当に子供みたいに毒気がなくて、ステラはやっぱり変な人と口の中で呟いた。