モンテビデオ特別行政区の中央部、アルティガス広場。ウルグアイ建国の父、アルティガスの乗馬した精悍な姿が青銅で作り上げられている。ウルグアイの建国記念日には1万以上の群衆の集まる、人気の観光地でもある。 しかし、その歴史的な広場は今、その原型をとどめていない。大理石で作り上げられた像の台座は割れ、警備ロボットの残骸がそこら中にころがされている。そして、ちぎれた腕、飛び出た内臓、体に突き刺さった石の破片、それらは地獄のような光景とさえいえるだろう。内戦を経験したモンテビデオ市民ならばその光景を見たことがあるかもしれない。爆弾の爆破された跡だった。日頃、ニュースを見たことのある人なら、ここ1週間世界中で連続して起こっているロシアのカルト宗教のテロだと直感的に確信するだろう。爆風は周囲のビルにもおよび、歴史的な石材で作り上げられたビルは石が割れ、ガラスは時折パラパラとビルから落ちてきていた。 騒然としている。悲鳴が聞こえる。騒がしい。血が見える。人の声のみが聞こえる。赤い。私の手か、とっさに目を覆った手だった。血だらけだ。休日だからと言ってこんなところに来なければよかった。 もう片方の手を持ち上げようとする。くにゃっとする感覚を感じる、危険だ。体が自然とこれ以上持ち上げるのを避ける。骨折だ、急に爆風に吹き飛ばされて手を突いたのがよくなかった。 突然、騒然さに異音が混じる。サイレンの音だ、救急車か警察か、爆発からすぐに警察が来るのはさすがモンテビデオだといえる。 ドン、突然耳元で音がする。ビルから石材が落ちてきた。あと1mずれていたら私の頭のある位置は石にとってかわられていただろう。危ないと思って立とうとするが、痛みが強くて足に力が入らない。周りを見るが、私より重症な人が多い。救急隊も私は一瞬目を通すだけで別の方向に向かっていく。 突然、強烈な音が聞こえてくる。重い音だ、その方向を見ると巨大な金属の塊が動いている。装甲車だ、第二次ウルグアイ内戦を思い出す。いやな記憶だ。 中から人が出てくる。ヘルメットとアーマー、見たことのない形の銃だ。最後に出てきた人は目に憶えがある。あの特徴的な服装はほかにはない、カロリーナ警護室長だ。ここも戦場か。私も、機関銃で肩を撃ち抜かれなければ彼女のように戦い続けていたのだろうか。なつかしい、狭く平和だった戦前。 ふと、私に今死ぬのだろうかという感情がわいてくる。こんな過去のことを考えながら死にたくない。寒い。ふと下を見ると、腹から血が流れている、急に痛みが強まる。死にたくない。足をばたつかせる。広場になる悲鳴がやまない、しかし私は叫べない、理性が急に強まる。なぜ、これほど私は冷静なのだろうか。 悲鳴の波を、涙の波が覆い隠すころ。私は目を閉じていた、もはや雲一つない青々しい空が憎ましく見えた。後ろに人の立つ音がする、そして私の肩を強くつかむ。驚き、私は目を開けてしまった。 「意識があるのですか」 私は驚いた。肩をつかむ力からてっきり男性だと思いこんでいたが、聞こえてきたのは女性の声だった。私はとっさに後ろをみようと顔を上へ向ける。 「あっ」 石片の刺さったからだを無理に動かそうとするのだ、体に刺さった破片が変に動き私の皮膚の表面をかき乱す。とっさに声が漏れてしまう。 「だいじょうぶですか、息できますか」 わたしの体の上に体を乗り上げる。それは、見たことのある顔だった。さっき、装甲車から降りてきた警護室長だった。 「できます」 私がかろうじて答えると、彼女は私の両脇に腕を通す。 「体持ち上げますよ、足に力入れてくださいね」 そういうと、90キロあると私の体を悠々と持ち上げる。 「歩けますか、あそこの装甲車まで歩きますよ」 運よく擦り傷で済んだ足は、彼女の支えのもと一歩一歩歩みを進めていく。立って見るアルティガス広場は寝てみる時より地獄だった。死体の前で泣いているのは親族だろうか友人だろうか。アルティガス広場の奥に見える、内戦のメモリアルモニュメントの死者たちの像が異様に私の目をとらえて離さない。ここが死体でおおわれるのは、第二次モンテビデオ大会戦以来だ。私は、負傷を理由に戦闘員ではなく医療要員として赴いた。そして、一人も救えぬままただここでの時間を通り過ぎさせていった。 「こちらに座ってください」 装甲車の隣に置かれた白い簡易ベッドに座らされる。正面にアルティガス像が見える。フレームだけになった像の持つ天高くそびえたつ剣は折れ、爆心地に突き刺さる。
りん…ニュース…くりかえ…えします…大統領は…へ第二次攻撃を…する…を決定し……た…我々は自由のために戦う……
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モンテビデオ特別行政区の中央部、アルティガス広場。ウルグアイ建国の父、アルティガスの乗馬した精悍な姿が青銅で作り上げられている。ウルグアイの建国記念日には1万以上の群衆の集まる、人気の観光地でもある。
しかし、その歴史的な広場は今、その原型をとどめていない。大理石で作り上げられた像の台座は割れ、警備ロボットの残骸がそこら中にころがされている。そして、ちぎれた腕、飛び出た内臓、体に突き刺さった石の破片、それらは地獄のような光景とさえいえるだろう。内戦を経験したモンテビデオ市民ならばその光景を見たことがあるかもしれない。爆弾の爆破された跡だった。日頃、ニュースを見たことのある人なら、ここ1週間世界中で連続して起こっているロシアのカルト宗教のテロだと直感的に確信するだろう。爆風は周囲のビルにもおよび、歴史的な石材で作り上げられたビルは石が割れ、ガラスは時折パラパラとビルから落ちてきていた。
騒然としている。悲鳴が聞こえる。騒がしい。血が見える。人の声のみが聞こえる。赤い。私の手か、とっさに目を覆った手だった。血だらけだ。休日だからと言ってこんなところに来なければよかった。
もう片方の手を持ち上げようとする。くにゃっとする感覚を感じる、危険だ。体が自然とこれ以上持ち上げるのを避ける。骨折だ、急に爆風に吹き飛ばされて手を突いたのがよくなかった。
突然、騒然さに異音が混じる。サイレンの音だ、救急車か警察か、爆発からすぐに警察が来るのはさすがモンテビデオだといえる。
ドン、突然耳元で音がする。ビルから石材が落ちてきた。あと1mずれていたら私の頭のある位置は石にとってかわられていただろう。危ないと思って立とうとするが、痛みが強くて足に力が入らない。周りを見るが、私より重症な人が多い。救急隊も私は一瞬目を通すだけで別の方向に向かっていく。
突然、強烈な音が聞こえてくる。重い音だ、その方向を見ると巨大な金属の塊が動いている。装甲車だ、第二次ウルグアイ内戦を思い出す。いやな記憶だ。
中から人が出てくる。ヘルメットとアーマー、見たことのない形の銃だ。最後に出てきた人は目に憶えがある。あの特徴的な服装はほかにはない、カロリーナ警護室長だ。ここも戦場か。私も、機関銃で肩を撃ち抜かれなければ彼女のように戦い続けていたのだろうか。なつかしい、狭く平和だった戦前。
ふと、私に今死ぬのだろうかという感情がわいてくる。こんな過去のことを考えながら死にたくない。寒い。ふと下を見ると、腹から血が流れている、急に痛みが強まる。死にたくない。足をばたつかせる。広場になる悲鳴がやまない、しかし私は叫べない、理性が急に強まる。なぜ、これほど私は冷静なのだろうか。
悲鳴の波を、涙の波が覆い隠すころ。私は目を閉じていた、もはや雲一つない青々しい空が憎ましく見えた。後ろに人の立つ音がする、そして私の肩を強くつかむ。驚き、私は目を開けてしまった。
「意識があるのですか」
私は驚いた。肩をつかむ力からてっきり男性だと思いこんでいたが、聞こえてきたのは女性の声だった。私はとっさに後ろをみようと顔を上へ向ける。
「あっ」
石片の刺さったからだを無理に動かそうとするのだ、体に刺さった破片が変に動き私の皮膚の表面をかき乱す。とっさに声が漏れてしまう。
「だいじょうぶですか、息できますか」
わたしの体の上に体を乗り上げる。それは、見たことのある顔だった。さっき、装甲車から降りてきた警護室長だった。
「できます」
私がかろうじて答えると、彼女は私の両脇に腕を通す。
「体持ち上げますよ、足に力入れてくださいね」
そういうと、90キロあると私の体を悠々と持ち上げる。
「歩けますか、あそこの装甲車まで歩きますよ」
運よく擦り傷で済んだ足は、彼女の支えのもと一歩一歩歩みを進めていく。立って見るアルティガス広場は寝てみる時より地獄だった。死体の前で泣いているのは親族だろうか友人だろうか。アルティガス広場の奥に見える、内戦のメモリアルモニュメントの死者たちの像が異様に私の目をとらえて離さない。ここが死体でおおわれるのは、第二次モンテビデオ大会戦以来だ。私は、負傷を理由に戦闘員ではなく医療要員として赴いた。そして、一人も救えぬままただここでの時間を通り過ぎさせていった。
「こちらに座ってください」
装甲車の隣に置かれた白い簡易ベッドに座らされる。正面にアルティガス像が見える。フレームだけになった像の持つ天高くそびえたつ剣は折れ、爆心地に突き刺さる。
りん…ニュース…くりかえ…えします…大統領は…へ第二次攻撃を…する…を決定し……た…我々は自由のために戦う……