茶番
ウルグアイ
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最初に話す人・オルドーニェス、のちの大統領
2番目に話す人・東方の賢人の最長老・人外化の技術を開発した
追憶 東方の賢人最長老との会話
「どうしてあなた方は聖遺物を分析し続けるのですか」
「神に近づきたいからです」
「科学技術ではダメなのですか?」
「科学技術は人間を外的に強化してくれます。しかし、内的には何もしてくれません」
「あなた方は人間という生き物を強化したいのですか?」
「その通りです」
「その先は?貴方ほどの方が何も展望を考えてないということはないでしょう」
「残念ながら、話せません」
「そうですか。例えばですが、全人類を強化するとして資源が足りないでしょう。あなた方の儀式を確認しましたが金などの貴重な金属を消費します」
「それで?」
「もし、一部の富裕層だけ強化されたら不平等ではないですか」
「民主運動家の考えそうな事です。前提として我々はそんなことは考えてないと前置きさせてもらいます。それで言うと、貴方はこの不平等問題を指摘する権利は無い。何故なら貴方は自らの豊かさを使って自分の教え子を強化している」
「その通りです。しかし」
「さらに言えば、世界には古龍種などと言う陣地を遥かに超えた悠久の存在さえいるのです。彼らは1000年はゆうに生きると聞きます」
「元から不平等だから何をしても良いと?」
「いえ、我々は平等を人類に近づけているのです」
「生物的強化より科学的強化の方が平等だと思えるのですが」
「本質的には同じモノです。しかし、貴方の知っている現代科学には一つ致命的な問題があります」
「何が問題なのですか」
「質問で返して悪いですが、オルドーニェスさん、貴方は神を信じますか?」
「半信半疑です。教会ではあると教えられましたが理科の先生はそんなものはないと一蹴しました」
「それがダメなのです。魂を理解しなければ人類はと」
「どうしました」
「すみません。なんでもありません」
「続きを伺ってもよろしいでしょうか」
「そうですね。魂を理解しなければ科学技術と我々の技術は同じものにはなれないのです」
「聖遺物はその点で特殊な存在なんですね」
「その通りです。目に見える世界と霊的な世界を完全な形で繋ぐ唯一のものですから」
「Vtuberという存在がAIに取って代わられる日は来ると思うか」
「どういうことだ?ボックス」
「私が前、Vtuberという存在について話をしただろ」
「それがどうしたってAIに繋がるんだ」
「あれは見た目は全てデジタルで作られているだろ」
「そうだな」
「だから、AIで再現するにはしっかり中身の筋肉を再現する必要のある実写のアイドルや配信者と違ってAIの言語モデルとの3Dモデルあとは簡単な表情モデルだけで再現できるのではと思うんだ」
「まあ、私の知る限りでも、欧州やアジアでもそのようなプロジェクトが成功を収めていたし、君の言葉が現実になりつつあるな」
「では、今ようやく技術的に実現し社会的に受け入れてもらえる事ができるようになったVtuberという存在はすぐにでも消えてしまうのだろうか」
「私にはわからん。私はアイドルとか詳しくないが、人間には人間の良さがあるのではないか」
「もちろんそうだ。しかし、配信者はリスナーとの一対一の対話はできない」
「AIならそれができると言いたいんだな」
「そのとおりだ。そうしたら、一対一の会話ができるAIに人間のVtuberは勝てないのではないだろうか、という話だ」
「しかし、アイドルには物語というものも重要じゃないのか」
「もちろんそうだ。しかし、身近にあるAIという存在には勝てないのではと思うんだ。オルドーニェス、君は本当はどう思っているんだ」
「ボックス、それほど難しい話じゃない。民衆に求められるものが残る。ただそれだけだ」
「では消える可能性は」
「半世紀後には産業としては消えてる可能性も充分高いだろう」
「君は良いのかそんな世の中で」
「良いでもなんでもない。私はそのような考えを持ってはいけないのだ」
「しかし、一人一人が必死に努力して作り上げた一輪の花のような新しい文化を産業革命の暴力で踏み躙って良いものか」
「君は手作業で作ったハンカチと機械が作ったハンカチの見分けがつくのか」
「つかない」
「そういう事だ。受ける人は誰が作ったかをそれほど気にしない。それが現実だ」
「しかし、君がさっき言ったように物語の重要性もあるじゃないか。AIには無いものだろう」
「AIが、使い手、受け手と共に成長する。それだけで充分な物語になるじゃないか」
「君はAIの存在をどこまで許すのかオルドーニェス」
「それは、君は私にAIを人間の仕事から遠ざけろというのか。非合理に従えというのか」
「そうではないが、AIの進歩のさせすぎも良くないのではないか。せっかくの努力の結晶のような新しい文化を踏み潰すような」
「君はさっきVtuberの構造的問題、一対多のの問題を話していただろう。そのような構造的な問題を指摘できるということはそれを改善する、それ以上のものを生み出せる方法があるということだ。それを行わないのは罪だ」
「それは君の勝手な倫理観じゃないか」
「ボックス、君の黒い噂は聞かないようにしてるんだ。それは君を買っているからだ。それでも私のやり方に介入してきた日には話は変わるぞ。一企業の一部門の都合を私に持ってくるんじゃない」
「わかった。やめた。君を私が動かそうとしたのがバカだった」
「次はタレイラントでも連れてきて私を説得するのか」
「その根回しはもうしたよ。失敗した。その気はないと言われたよ」
「あいつはAIに関するビジネスに投資して儲けているからな」
「知らなかったよ、本人から聞いたのか」
「いや、フッチェが教えてくれた」
「なるほど、私が知らないわけだ」
「君もフッチェに聞けば良いのに」
「彼は私の提示した条件じゃピクリとも動かないんだ。諦めたよ」
「そうか、また耳寄りの話があれば私の方から教えてあげよう」
オルドーニェス
ウルグアイ合衆国大統領、自由党党首。高い支持率を持っている。
ジョー・ボックス
自由党幹事長。元IT企業役員で今でも深い関係性であり続けている。
タレイラント
ウルグアイ合衆国外務長官
フッチェ
警察局長兼情報局長
モンテビデオの潜水艦基地。3階建のコンクリート製の建造物から数百人の海兵が出てくる。そして彼らは、吸い込まれるかのように桟橋に停泊している彼らの乗艦の潜水艦へ歩いていく。桟橋には、就役したばかりのアロガンシア級原子力巡航ミサイル潜水艦とモンゴロイド級攻撃潜水艦が並んでいた。
「アロガンシア級とモンゴロイド級の初めての遠洋航海がこんなこととなるとはな」
潜水艦基地から水兵たちを見下ろしながらベレンデル参謀長が言った。
「アロガンシア級どころか、我が国初の潜水艦の遠洋航海だ」
隣に立つモンテビデオ基地司令のバウアーが言う。海兵への命令の為、二人は潜水艦基地にいた。
「初の遠洋航海が初の戦闘にならなければ良いがな」
「北アメリカの奴らも空母打撃群を派遣したらしい。同盟国だぞ、どう対応する。中央はなんと言っている」
バウアーがベレンデルに質問する。
「まだ、北米は空母打撃群を派遣したと正式には言っていない。その中で、コンタクトは取れないとの事だ。少なくとも、国防省はそう言っていた」
「ビンソン委員長やオルドーニェス大統領はなんと言っている?」
「大統領は役割はただの観戦だと言っていた。あと、私がビンソン派じゃ無いことは知ってるだろう、ビンソン派の君が聞いてくれ」
「それもそうだな」
一瞬の静寂が両者に訪れる。そのとき、背後で声をかける瞬間を窺っていた部下が声をかける。
「アロガンシア級4隻、モンゴロイド級4隻、全8隻の出航準備が完了しました。基地司令の命令でいつでも出航します」
バウアー基地司令が命令を出すと、全艦がスクリューを回し始めた。ウルグアイ海軍潜水艦隊は初の遠洋航海に出かけた。
モンテビデオ特別行政区の中央部、アルティガス広場。ウルグアイ建国の父、アルティガスの乗馬した精悍な姿が青銅で作り上げられている。ウルグアイの建国記念日には1万以上の群衆の集まる、人気の観光地でもある。
しかし、その歴史的な広場は今、その原型をとどめていない。大理石で作り上げられた像の台座は割れ、警備ロボットの残骸がそこら中にころがされている。そして、ちぎれた腕、飛び出た内臓、体に突き刺さった石の破片、それらは地獄のような光景とさえいえるだろう。内戦を経験したモンテビデオ市民ならばその光景を見たことがあるかもしれない。爆弾の爆破された跡だった。日頃、ニュースを見たことのある人なら、ここ1週間世界中で連続して起こっているロシアのカルト宗教のテロだと直感的に確信するだろう。爆風は周囲のビルにもおよび、歴史的な石材で作り上げられたビルは石が割れ、ガラスは時折パラパラとビルから落ちてきていた。
騒然としている。悲鳴が聞こえる。騒がしい。血が見える。人の声のみが聞こえる。赤い。私の手か、とっさに目を覆った手だった。血だらけだ。休日だからと言ってこんなところに来なければよかった。
もう片方の手を持ち上げようとする。くにゃっとする感覚を感じる、危険だ。体が自然とこれ以上持ち上げるのを避ける。骨折だ、急に爆風に吹き飛ばされて手を突いたのがよくなかった。
突然、騒然さに異音が混じる。サイレンの音だ、救急車か警察か、爆発からすぐに警察が来るのはさすがモンテビデオだといえる。
ドン、突然耳元で音がする。ビルから石材が落ちてきた。あと1mずれていたら私の頭のある位置は石にとってかわられていただろう。危ないと思って立とうとするが、痛みが強くて足に力が入らない。周りを見るが、私より重症な人が多い。救急隊も私は一瞬目を通すだけで別の方向に向かっていく。
突然、強烈な音が聞こえてくる。重い音だ、その方向を見ると巨大な金属の塊が動いている。装甲車だ、第二次ウルグアイ内戦を思い出す。いやな記憶だ。
中から人が出てくる。ヘルメットとアーマー、見たことのない形の銃だ。最後に出てきた人は目に憶えがある。あの特徴的な服装はほかにはない、カロリーナ警護室長だ。ここも戦場か。私も、機関銃で肩を撃ち抜かれなければ彼女のように戦い続けていたのだろうか。なつかしい、狭く平和だった戦前。
ふと、私に今死ぬのだろうかという感情がわいてくる。こんな過去のことを考えながら死にたくない。寒い。ふと下を見ると、腹から血が流れている、急に痛みが強まる。死にたくない。足をばたつかせる。広場になる悲鳴がやまない、しかし私は叫べない、理性が急に強まる。なぜ、これほど私は冷静なのだろうか。
悲鳴の波を、涙の波が覆い隠すころ。私は目を閉じていた、もはや雲一つない青々しい空が憎ましく見えた。後ろに人の立つ音がする、そして私の肩を強くつかむ。驚き、私は目を開けてしまった。
「意識があるのですか」
私は驚いた。肩をつかむ力からてっきり男性だと思いこんでいたが、聞こえてきたのは女性の声だった。私はとっさに後ろをみようと顔を上へ向ける。
「あっ」
石片の刺さったからだを無理に動かそうとするのだ、体に刺さった破片が変に動き私の皮膚の表面をかき乱す。とっさに声が漏れてしまう。
「だいじょうぶですか、息できますか」
わたしの体の上に体を乗り上げる。それは、見たことのある顔だった。さっき、装甲車から降りてきた警護室長だった。
「できます」
私がかろうじて答えると、彼女は私の両脇に腕を通す。
「体持ち上げますよ、足に力入れてくださいね」
そういうと、90キロあると私の体を悠々と持ち上げる。
「歩けますか、あそこの装甲車まで歩きますよ」
運よく擦り傷で済んだ足は、彼女の支えのもと一歩一歩歩みを進めていく。立って見るアルティガス広場は寝てみる時より地獄だった。死体の前で泣いているのは親族だろうか友人だろうか。アルティガス広場の奥に見える、内戦のメモリアルモニュメントの死者たちの像が異様に私の目をとらえて離さない。ここが死体でおおわれるのは、第二次モンテビデオ大会戦以来だ。私は、負傷を理由に戦闘員ではなく医療要員として赴いた。そして、一人も救えぬままただここでの時間を通り過ぎさせていった。
「こちらに座ってください」
装甲車の隣に置かれた白い簡易ベッドに座らされる。正面にアルティガス像が見える。フレームだけになった像の持つ天高くそびえたつ剣は折れ、爆心地に突き刺さる。
りん…ニュース…くりかえ…えします…大統領は…へ第二次攻撃を…する…を決定し……た…我々は自由のために戦う……