取り合えず、仕上げてみた。
法介創作バージョン。
第二部 イメージの詩
ティルトローター機V-22オスプレイの中、特殊部隊「Destiny」の指令室は無数のモニターが並び、電子音が響く。アドバンはわずかな休息の時間を過ごしていた。その手元には、雄一郎から渡された1枚のDVDがある。ラベルには、大雑把な字で「いい刺激になるぞ」とだけ書かれている。
雄一郎がそう言うのだから、きっとただの音楽ではないだろうとアドバンは興味をそそられ、コンソールにそのDVDをセットした。
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画面に映し出されたのは70年代の日本を代表するフォークシンガー、吉田拓郎のライブ映像。曲名は「イメージの詩」。静かなギターのリフに合わせて、拓郎の力強い歌声がスピーカーから響き始めた。
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これこそはと信じれるものが この世にあるだろうか
信じるものがあったとしても 信じないそぶり
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その冒頭の歌詞に、アドバンの心は瞬時に掴まれた。信じるものが本当に存在するのか――そんな問いは、これまでの彼の生き方を根底から揺さぶるものだった。
自分はこれまで、「正しい」と信じるもののために戦ってきた。仲間を守るため、国家の平和を維持するため――だが、その信念の下で、いったいどれだけの命が奪われたのか。その中には、無関係な市民も、幼い子どもたちもいた。アドバンの胸には、戦場で目にした数々の悲劇が次々と蘇る。
瓦礫と化した街、泣き叫ぶ人々、そして敵味方を問わず容赦なく奪われる命。それでも、自分は戦い続けてきた。信じるもののために。それが「正しい」と思い込むことで、何とか心の平静を保とうとしていた。
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悲しい涙を流している人は きれいなものでしょうね
涙をこらえて笑っている人は きれいなものでしょうね
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悲しみの涙をこらえてアドバンは戦い続けて来た。しかし拓郎は「涙をこらえて笑っている人」と言う。信じるものを守るために戦う自分は、本当に正しいのだろうか?
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いいかげんな奴らと口をあわせて 俺は歩いていたい
いいかげんな奴らも口をあわせて 俺と歩くだろう
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皮肉に満ちたような歌詞の響き――しかし、その奥に込められた真理が胸に突き刺さった。いかげんなあの龍二の顔が即座に思い出された。しかし、そんないいかげんの龍二とさえも本気で向き合っていた雄一郎の存在。「正しさ」とは何なのか?「正義」とは一体なのか?
戦場では、敵兵を100人倒せば英雄として称えられる。しかし、平和な日常で1人を殺せば、それは殺人者として裁かれる。同じ「命を奪う」という行為でありながら、戦時と平時ではその評価は正反対だ。戦争が生む善悪の基準、そしてその「いいかげんさ」に、アドバンはずっと気づいていながら目を背けていた。
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歌詞が流れる中で、彼の心は次々と揺さぶられる。特に終盤に差し掛かったところで、拓郎の歌声が静かに、しかし力強く紡いだこのフレーズが流れた――
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古い船には新しい水夫が 乗り込んで行くだろう
古い船を今動かせるのは 古い水夫じゃないだろう
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この歌詞が、アドバンの脳裏に鋭い刺激を与えた。
彼は思い出した。かつて自分が軍に入隊したばかりの頃、教官から繰り返し叩き込まれた「戦争のルール」――「勝者こそが正義だ」「力こそが全てだ」「戦場では情けは無用」。それらの教えを忠実に守り、彼はここまで歩んできた。
だが、近年の任務で感じた違和感。それは、これまで信じて疑わなかった「戦争のルール」そのものが、時代遅れの古びた船のように感じられる瞬間だった。
そして、それは単に戦争の話だけではなかった。
アドバンは、自分が築き上げてきた「正義」「信念」という土台が、実は「古い船」であることを痛感する。自分が信じてきたものが完全に間違っているわけではない。だが、それが絶対的な正しさでもないことを、彼は徐々に理解し始めていた。
それに気づいた時、ふと思い出したのは雄一郎が以前語っていた言葉だ。
「固定観念ってやつは厄介だ。頭に染みついてるから、自分じゃ気づかねぇ。けどな、一度そこから目を背けて、別の角度から見てみろ。案外、違う景色が広がってるもんだぜ。」
アドバンの視界に浮かぶイメージは、船。先人達が長い間操縦してきた「古い船」は、これまで荒波を越えてきた。しかし、その船が今も安全に航行できるとは限らない。波は変わり、風向きも変わった――もはや「新しい水夫」、つまり新しい視点が必要な時代に突入しているのだ。
古い船を動かし続けようとするのは、これまでの既存概念、固定概念への執着に過ぎない。だが、新しい水夫、つまり新しい視点であれば、古い枠に囚われず、柔軟に新しい方法を模索することができる。
この気づきは、彼に大きな変化をもたらした。
アドバンは心の中でこう考えた。
「これまで俺たちは、坂の上からの視点――自分たちが正義だという視点で世界を見ていた。だが、坂を下りてみると、そこには別の景色がある。それは、俺たちがかつて見下ろしていた人々の視点だ。そしてその視点に立てば、俺たちの『正義』がどう映るのかを知ることができる。」
戦場では、敵も味方も同じように命を懸けている。それぞれの正義があり、それぞれの信念がある。だが、上からの視点では、自分たちの正しさばかりが際立ち、相手の視点に気づくことはできない。坂を下りて、相手の目線で物事を見る――それが「新しい水夫」の視点ではないだろうか、と。
アドバンは自分の胸の奥で、徐々に自我への執着が解けていくのを感じた。新しい視点を持つことで、これまで見えなかった「未来」への道が開けていくように思えた。
曲が終わり、モニターが静かにブラックアウトする。
しかしアドバンのこころの中では新たな決意が芽生えていた。
その時、無線が突然響いた。
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「アドバン、敵部隊が接近中だ。指示を!」
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アドバンはDVDを手に取り、深呼吸した。そして、無線機を握りしめる。
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「全員、準備につけ。アフロとマリーを全力で守りにいくぞ!」
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その声には、これまで以上の覚悟と静かな力強さが込められていた。