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歌詞が流れる中で、彼の心は次々と揺さぶられる。特に終盤に差し掛かったところで、拓郎の歌声が静かに、しかし力強く紡いだこのフレーズが流れた――
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古い船には新しい水夫が 乗り込んで行くだろう
古い船を今動かせるのは 古い水夫じゃないだろう
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この歌詞が、アドバンの脳裏に鋭い刺激を与えた。
彼は思い出した。かつて自分が軍に入隊したばかりの頃、教官から繰り返し叩き込まれた「戦争のルール」――「勝者こそが正義だ」「力こそが全てだ」「戦場では情けは無用」。それらの教えを忠実に守り、彼はここまで歩んできた。
だが、近年の任務で感じた違和感。それは、これまで信じて疑わなかった「戦争のルール」そのものが、時代遅れの古びた船のように感じられる瞬間だった。
そして、それは単に戦争の話だけではなかった。
アドバンは、自分が築き上げてきた「正義」「信念」という土台が、実は「古い船」であることを痛感する。自分が信じてきたものが完全に間違っているわけではない。だが、それが絶対的な正しさでもないことを、彼は徐々に理解し始めていた。
それに気づいた時、ふと思い出したのは雄一郎が以前語っていた言葉だ。
「固定観念ってやつは厄介だ。頭に染みついてるから、自分じゃ気づかねぇ。けどな、一度そこから目を背けて、別の角度から見てみろ。案外、違う景色が広がってるもんだぜ。」
アドバンの視界に浮かぶイメージは、船。先人達が長い間操縦してきた「古い船」は、これまで荒波を越えてきた。しかし、その船が今も安全に航行できるとは限らない。波は変わり、風向きも変わった――もはや「新しい水夫」、つまり新しい視点が必要な時代に突入しているのだ。
古い船を動かし続けようとするのは、これまでの既存概念、固定概念への執着に過ぎない。だが、新しい水夫、つまり新しい視点であれば、古い枠に囚われず、柔軟に新しい方法を模索することができる。
この気づきは、彼に大きな変化をもたらした。
アドバンは心の中でこう考えた。
「これまで俺たちは、坂の上からの視点――自分たちが正義だという視点で世界を見ていた。だが、坂を下りてみると、そこには別の景色がある。それは、俺たちがかつて見下ろしていた人々の視点だ。そしてその視点に立てば、俺たちの『正義』がどう映るのかを知ることができる。」
戦場では、敵も味方も同じように命を懸けている。それぞれの正義があり、それぞれの信念がある。だが、上からの視点では、自分たちの正しさばかりが際立ち、相手の視点に気づくことはできない。坂を下りて、相手の目線で物事を見る――それが「新しい水夫」の視点ではないだろうか、と。
アドバンは自分の胸の奥で、徐々に自我への執着が解けていくのを感じた。新しい視点を持つことで、これまで見えなかった「未来」への道が開けていくように思えた。
曲が終わり、モニターが静かにブラックアウトする。
しかしアドバンのこころの中では新たな決意が芽生えていた。
その時、無線が突然響いた。
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「アドバン、敵部隊が接近中だ。指示を!」
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アドバンはDVDを手に取り、深呼吸した。そして、無線機を握りしめる。
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「全員、準備につけ。アフロとマリーを全力で守りにいくぞ!」
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その声には、これまで以上の覚悟と静かな力強さが込められていた。