その昔、「ワイルド7」という漫画があった。
八百(はっぴゃく)という男がいた。
彼は常にクールに、ダンディーに、男の世界を魅せていた。
八百のバイクには、クランクケースの下に二本の補助タイヤがあり、
まるでヤモリのように壁を這い上がることができた。
あの独特の走り――もう見ることはできない。
だが今。
ロンの走りはまさに、そのヤモリ走法を彷彿(ほうふつ)とさせていた。
しかしロンのハーレーには補助タイヤなど存在しない。
では、なぜバイクは壁を駆け上がるのか――?
ロンは潜伏中に、基地の隅々まで調べていた。
エレベーター支柱のレール幅を計り、
自分のバイクのホイールと合う溝を探し出していたのだ。
そのレールめがけてバイクを縦にウイリーさせた状態で突っ込む事で
前後2本の車輪ホイールを同時に食い込ませていた。
レールに強引に嵌りこんだ車輪は、
金属が激しくこすれ合い、
異常な発熱で真っ赤になり、
火花と激しい金属音を耳障りに上げながら、
バイクを重力に逆らい、上へ上へと突き進める。
金属と金属が擦れ合い、火花を散らす。
轟音(ごうおん)とともに、真っ赤に焼けたホイールが唸りを上げる。
――重力を嘲笑うかのように。
ロンとハーレーは、真っ直ぐに上へと駆け上がっていった。
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