『善悪無記』
産まれたばかりの赤ちゃんには
思考は働かない。
生きていく中で思考は築かれていく。
一つ一つの経験が積み重なり、
その人の世界が立ち上がっていく。
その世界は、
時に温かい記憶によって広がり、
時に痛みや不安によって歪む。
幼い頃は、親の愛情を一身に受け、
世界はやわらかく、光に満ちているように感じた。
しかし成長するにつれ、
〝自我〟が芽ばえ、自分だけの視点で世界を見はじめる。
そこで出会う言葉や出来事は、
時に心を励まし、時に鋭く傷つける。
「なぜ自分はこうなのか」
「どうしてわかってもらえないのか」
そんな問いを重ねるうちに、
世の中の厳しさや生きづらさに心はしょげ、
身も疲れ果ててしまう。
だが、その試練を耐え忍んだ者だけが見ることのできる世界がある。
痛みは、決して無意味なものではない。
刺さる言葉も、折れそうになる日々も、
それらはすべて心を深め、命を燃やす薪となって、
生き抜く力へと変わっていく。
「なんで自分はこうなんだ」
「どうして自分だけが…」
「なぜこんな目にあわなければならないのか」
その時は答えが見えず、
ただ苦しみの中でもがき続けるしかなかった。
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