「プシュー……」
そんな音を上げながら、ジャパリバスはゆっくりと速度を緩め、停車した。
バスを運転していたラッキービーストはピョコッと運転席から降り立つと、かばんとフレンズ達のいる方へと体を向けて、胸のデバイスを光らせながら話し始める。
「ミンナ、キョウハオツカレサマダヨ。」
かばんはラッキービーストの言葉を聞いて、1日を振り返る。
今日は本当に、色々なことがあった。
かせんちほー下流では、エボシカメレオンと共に突然バスの中へと入り込んだカワウが、バスを暴走させ散らかったり……。
かせんちほー下流と上流を繋ぐ『たき』では、周辺を取り巻くセルリアンの対処に追われ……、その中で再び、「サンドスター・ロー」に関する疑問が生まれた。
片づけといい、セルリアンといい、今日はかなり大変な一日だった。
かばんは考えながら、サーバル達の様子を窺う。
「サーバルちゃん……みなさんも……眠そうですね。」
「流石に今日は……ふぁぁ……疲れたよー。」
かばんの呟きに、サーバルは重いまぶたを頑張ってこじ開けながら応える。
「私は、みんなほど疲れはないねぇ〜」
フェネックはかばんの言葉に答えるとチラッと横を見やり、スヤスヤと寝息を立てるアライグマを見つめる。
「もう…。食べきれないのだぁ……。」
口から涎を垂らしながらそんな寝言を上げるアライグマを見て、かばんとフェネックはクスクスと静かに笑う。
タイリクオオカミも、そんな二人につられてほほ笑みを浮かべる。
「我々は夜行性なので、もう少しは動けそうなのです。」
アフリカオオコノハズクが、涎を垂らすアライグマの席の後ろからひょっこりと顔を出しながら、いつもの顔つきでそんな言葉を発す。
「かばん達が疲れているなら、休んでやらないこともないのです。」
「結局疲れてるんじゃないですか!」
続くワシミミズクの言葉に、かばんはアライグマを起こさないように少し声を抑えながらツッコむ。
「トリアエズ、キョウハココデヤスムヨ。」
「はい!」
ラッキービーストの言葉にかばんは答えると、眠たげなフレンズ達を少し見つめ、そっと目を閉じた。
「今日はまあ、みんなおつかれって感じかなぁ〜」
いつも通りののんびりとした口調でフェネックが言ったあと、辺り一帯に静寂が広がった。
【オープニング】
……翌朝。
スヤスヤと眠るフレンズ達をよそに、かばんは目を覚まし、起き上がる。
右手で目を擦りながら、いつの間にか変わっていたバスの周りの背景を見渡すと、かばんはバスの点検に勤しむラッキービーストに目を向けた。
「オハヨウ、カバン。」
「おはようございます、ラッキーさん。」
挨拶を交わしたかばんは再び周囲を見渡すと、少しだけ眉をひそめてラッキービーストに問いかける。
「えっと……、ここは……?」
「ココハ、『カセンチホー』ジョウリュウノ、ドウクツノナカダヨ。」
困惑の表情を浮かべるかばんに、ラッキービーストは淡々と応える。
「ミンナガネテイルアイダ、スコシズツソトノカゼガツヨクナッテキタカラネ。コノバスニハマドモナイカラ、アンゼンナドウクツニイドウシタンダ。」
「なるほど……。」
かばんはラッキービーストの言葉を聞くと、風の音の鳴る方角へと耳を澄ます。
……なるほど。これは洞窟に移動して正解かもしれない。
耳を澄ますと、轟々と、風の音が吹き荒れる音がこれでもかと奏をなした。
外にいてこれでは、バスごと吹き飛ばされてしまっても不可解ではない。
「まだサーバルちゃんたちは……」
かばんはふと呟くと、フレンズ達の方を向いで見つめる。
「まぁ、まだ寝てますよね……。」
女の子らしからぬだらしない様相で、バス内で眠りこけるサーバル達を横目に、かばんは苦笑いを浮かべながらまた呟いた。
「マダマダ、ヨアケマデモナガイカラネ。」
「みんなが起きるまでちょっと暇だなあ……。」
かばんはそう言って頬を掻くと、洞窟の奥を見つめ気がついた。
「この先、なんだか少し明るいですね。」
洞窟の奥に、ほんのりと灯りが灯っているのが見える。
かばんは気になって、ラッキービーストに問いかけた。
「あれはもしかして、ラッキーさんが?」
「ボクハドウクツノナカニ、バスヲトメタダケダヨ。モシカシタラ、コノアラシニオワレテ、ホカニドウクツニハイッテキタフレンズガイルノカモネ。」
淡々と答えるラッキービーストにかばんは「あー……」と声を上げ頷きながら、一つまたラッキービーストに提案をした。
「一旦、ボクたちで奥まで行ってみませんか?……まだ嵐も止まなそうですし……。」
「二人とも、どこか行くの〜?」
ラッキービーストに語らうかばんの背後から、フェネックが音を立てずに顔を出す。
「フェネックさん、起きてたんですか?!」
かばんは思わずギョッとして大きい声を出しかけるも、フェネックであることに気がつくと声のトーンを落としてそう問いかけ、フェネックが淡々と話し始める。
「まぁ私はみんなほど疲れてなかったしねぇ〜。それより、かばんさんとボスはどこか行くの〜?」
日中はいつも眠たげな様相で動く彼女だが、今こうして夜彼女の顔をまじまじと見ると、元動物由来の夜行性の特徴が垣間見え、どこかやはり生き生きとした印象を憶える。
「多分聞いてたなら分かると思いますが……。」
かばんは一旦そう前置き、洞窟の奥――即ち、光のある方向を指差して続ける。
「あっち側に何か、光が見えませんか?」
フェネックがかばんの指さす方向をまじまじと見つめると、少しだけ腕を組んで言った。
「なるほど〜確かにこんな洞窟の中に光があるのは不思議だねぇ〜。」
「はい、もしかしたらフレンズさんとかがいるかもしれないので、今から行こうかと。それで……」
かばんはフェネックの言葉に返しながら、視線をサーバル達の眠る方向を向けると、少しだけ見やすいように首を傾けて言った。
「もし皆さんが起きたら、このことを伝えてもらうことって出来ますかね?」
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幾分かが経ち、かばんはラッキービーストを連れ、洞窟の奥にほんのりと光る灯りの方へと歩いていた。
「意外と遠そうですね…。」
かばんが呟き、ふと耳を澄ますと、ジャリジャリと靴の裏で響く土の音が洞窟内に響き渡る。
そんな光景に、かばんは「この洞窟内の空間はとても広いのだな……」と改めて感じさせられながらも、然しほんのりと光るそれが以前より明らかに近づいてきたことに気が付き、ラッキービーストに問いかける。
「意外とあの光って小さいんでしょうか……?」
そんなかばんの問いかけに、ラッキービーストは足取りを止めると、近くの壁に向かってある地図を写し始めた。
「ココハ、カツテ『ドウクツナイ・タンケンエリア』トシテ、コウカイサレテイタエリアダヨ。」
ラッキービーストが壁面に投影した地図には、迷路のように入り組んだ洞窟のルートが青白く浮かび上がった。
「ボクたちがイマイルノハ、コースノイリグチ付近。アノヒカリハ、アトラクションノエンシュツヨウノショウメイ、モシクハ、コースナイニアル『ヒカリゴケ』ノモノダネ。」
「アトラクション……。じゃあ、この先は道が整備されているんですね?」
かばんが少し安心したように尋ねると、ラッキービーストはレンズをパチパチと点滅させながら補足した。
「ソウダヨ。デモ、ナガネンノフウウヤ、チカスイノエイキョウデ、イチブノコースハクズレテイルカノウセイガアルヨ。ダカラ、アシモトニキヲツケテススモウネ。」
二人が地図を頼りにさらに奥へと進むと、光の正体がはっきりと見えてきた。
そこには、岩壁を削って作られた「受付カウンター」のようなスペースがあり、そこだけが古びたランタンの光でぼんやりと照らされていた。
「……あれ? 誰かいるみたいですよ。」
かばんが目を細めると、カウンターの奥からパサパサと羽ばたきのような音が聞こえ、天井の暗がりに何かがぶら下がった。
「――んん? こんな夜更けに、あたいの鼻をくすぐるこの気配……。誰かな、誰かな〜?」
頭上の暗がりから、どこか余裕を感じさせる、低めで艶のある声が降ってきた。
天井に逆さまにぶら下がり、大きな耳をピョコピョコと動かしながらかばんを覗き込んでいるのは、赤褐色の毛並みに包まれ、マントのような翼を持った、金色の目をしたフレンズだった。
「うわぁっ!? び、びっくりした……」
突然の登場にかばんが思わず後ずさりすると、彼女は逆さまのまま、不敵で、それでいてどこか優しげな笑みを浮かべる。
「あはは! 驚いた? 悪りぃね。けど、この暗闇であたいの鼻から逃げようなんて、百年早いよ。」
彼女はそのまま空中で器用に一回転して着地すると、翼のような袖を軽く払って胸を張った。
「あたいはテングコウモリ。夜遊びはコウモリの基本。この先の『暗闇探検』を最高に楽しくしてやるのが、あたいの役目さ。あんた、なかなかいい目をしてるね。……楽しみに覚悟しときなよ?」
▼■■■■■▼ 翼手目ヒナコウモリ科テングコウモリ属
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■ ■ ■ テングコウモリ
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■■ ■ Tube-nosed bat
捉えどころのない口調でそう言い放つと、彼女は「ついてきな」と手招きし、暗がりの奥へと歩き出した。
かばんとラッキービーストも、顔を見合わせてからその後を追う。