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「転勤NG」人材に困惑する企業の選択肢、転勤手当100万円支給でも万事解決とはならないワケ

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転勤を「させるも地獄、なくすも地獄」の時代背景
仕事もプライベートも大切にする風潮が広がる中、会社は社員に24時間戦えと求めるどころか、転勤に応じてもらうのでさえも簡単ではなくなってきています。転居を伴う形で全国各地や海外に配置転換させられる転勤制度は、これまで人員手配策として有効に機能してきました。しかしながら、採用難の慢性化で売り手市場の傾向を色濃くする中、転勤を強制する会社は今後さらに働き手から選ばれにくくなるかもしれません。転勤を巡って、悩ましさを感じている会社は少なくないと思います。大成建設では、最大100万円の転勤手当を支給すると報じられました。一方で、転勤させることをやめ、勤務地を限定するという真逆の取り組みも見られます。会社は転勤と、これからどう向き合っていけば良いのでしょうか。転勤には長い間、断れない雰囲気がありました。恋人など心を通わせあった者同士が、転勤を機に離れ離れになるというのは、昭和や平成のドラマなどでよく目にした展開です。転勤には天からのお達しのごとく、絶対的な強制力がありました。ところが時代は変わり、いまや転勤を強制すると退職の原因にさえなりえます。さらに人口は減り続け、会社としては転勤に応じない社員に「キミの替わりはいくらでもいるぞ」などと強気に出ることも難しくなってきました。その半面、社員からすると徐々に転勤NGが主張しやすくなってきています。会社としては、転勤NGが主張しやすい雰囲気が世の中に広がるほど、転勤を受け入れてもらうのがより大変になります。では、転勤させるのはあきらめて、勤務地限定正社員を増やしていけばいいのかというと、そこにはまた別の悩ましい問題が生じます。転勤をさせるも地獄、なくすも地獄です。なぜ、転勤制度は地獄に挟まれてしまうのか。背景を確認してみましょう。

「勤務地限定正社員」の導入も一筋縄ではいかない理由
有無を言わさず配置転換権を行使する以外に、転勤を巡って会社が選択できる施策は大きく3つのパターンに整理されます。1つは転勤ありきで、できる限り気持ちよく応じてくれるよう社員に特別な手当を支給するなどして優遇することです。先に挙げた大成建設の事例はこのケースに該当します。しかしながら、相応の額の転勤手当を上乗せできるのは財力がある会社に限られます。また、お金は確かに魅力的な報酬ではあるものの、それで快く転勤に応じてもらえるとは限りません。例えば家族と共に過ごせる時間を何よりも優先したい人であれば、いくら手当てを積まれても転勤を拒む可能性があります。お金とは、欲するモノやサービスなどとの交換券に過ぎません。最も交換したい対象を犠牲にしてまで転勤に応じるという選択は、社員からするとナンセンスです。さらに、どれだけ高い給与がもらえるとしても、ハードワークで厳しいプレッシャーがかかり、ノルマもきついといった仕事であれば敬遠されます。それは、高給だからと誰もが管理職を希望するわけではないことからも分かります。手当てを増やすだけでは、根本的な解決策とはなり得ません。次の施策として考えられるのは、転勤ありきの組織体制を改めて、勤務地限定の正社員を導入することです。しかしその場合、人口が少ない遠隔地で欠員が出たりすると採用に苦労することになります。また、勤務地限定正社員の運用自体も一筋縄にはいきません。就業規則上に勤務場所の限定を明記するなど制度を整えることは決して難しくないものの、当初の想定と事業環境が変わったりすると運用上の問題が生じることになります。厚生労働省が運営する「多様な働き方の実現応援サイト」は勤務地限定正社員について紹介する中で、制度導入のポイントとして解雇について以下のように説明しています。〈事業所閉鎖等があった場合でも、直ちに整理解雇が有効となるわけではありません。配置転換等の解雇回避努力が求められます。配置転換が難しい場合には、代替可能な方策を検討しましょう〉業績が思わしくなくなった場合などは、勤務地限定だからと解雇してもよいわけではなく、配置転換が求められる可能性があるという、矛盾しているようにも映る状態が生じることになります。また、勤務地ではありませんが、職種が限定されている正社員の配置転換を巡っては、2024年4月に同意のない配置転換命令を違法とする最高裁判決が出たことも記憶に新しいところです。雇用期間も勤務地も職務も無限定ないわゆる正社員ではなく、だからといって無期雇用なので非正規社員とも言えない。そんな、正社員と非正規社員の中間的な雇用形態である勤務地限定正社員については、解雇ルールを含めた法制度の整備が追いつかないままです。ジョブ型雇用などと名称ばかりが独り歩きしている状況は見られますが、勤務地や職務などを限定した正社員の立ち位置が曖昧な状態のままでは、業績が思わしくなかった場合などにどう対処すればよいのかといったリスクを把握しきれません。会社としては思い切って導入しづらい面があります。

テレワークで対応できる職務を増やしてコストを最小限に抑える
最後3つ目の施策は転勤制度をなくすのではなく、テレワークできる環境を整えて転勤自体を不要にしてしまうことです。全社員を対象にこれが可能であれば、転勤問題は解決します。しかしながら、看護や介護といったエッセンシャルワーカーのように、現場に人がいなければ成立しない職務もあります。販売や医療、建設などの分野では、機材を遠隔操作して職務をこなす取り組みなども進められてはいます。ただ、いまのテクノロジーでは遠隔操作で解決できる職務の方が圧倒的に少ないのが実情です。以上3つの施策には、いずれも一長一短があります。中にはどれかを選択して上手く運用できているケースもあるとは思いますが、多くの会社にとってはどれも転勤対策の決定打とはなりえません。また、いまのところは上手く運用できているように見えても、5年、10年と月日が経つにつれて綻びが生じてくる場合もあります。最も現実的な選択肢としては、どれか1つの施策だけでなく、3つの施策を組み合わせた総合的対応策によって転勤を巡る課題を最小限にとどめることでしょう。できる限り多くの職務をテレワーク可能にすれば、転勤させなければならないケースを減らすことができます。するとその分、勤務地限定正社員を導入して、転勤NGを訴える人材でも採用したり退職を防止したりしやすくなります。もし遠隔地で欠員が出て現地採用が難しかったとしても、テレワークで対応できる職務が多いほど、勤務場所にこだわらず欠員分の人員を補充しやすくなります。それでも転勤してもらわなければならない状況が発生した場合のみ手当を厚くすれば、コスト上昇は最小限に抑えられます。

社員の採用・定着に不可欠な「総合的な転勤対策」のススメ
とはいえ、ほとんどの社員は力関係において会社より弱い立場です。転勤NGが言いやすくなってきているとしても、退職まで思い切るのは相当勇気がいります。エン・ジャパンの調査によると、転勤辞令を受けたことがある人のうち、転勤を理由に退職したことがあると答えた人の割合は31%。7割近くは甘んじて受けたことになります。ただ、この数字がずっと変わらないままとは限りません。当サイトで書いた記事(『会社の転勤命令は“大迷惑な悪魔のプレゼント”なのか、時には社員を解雇から守る「救い」となるワケ』/2024年4月10日公開)の中でも紹介したように、Indeed Japanの調査では2018年1月〜2023年4月の5年間に「転勤なし」をうたった正社員求人が3倍になっています。それだけ、転勤NG人材からすると転職先の選択肢が増えていると見ることができます。会社側にとって危険なのは、転勤NGの意思表示をする社員が増えつつあることを承知した上で「そう簡単に辞めたりはしないだろう」と高をくくってしまうことです。働き手側の価値観の多様化や慢性的採用難、人口減少などによって労働市場における力関係は徐々に変化し、社員が組織に合わせるスタンスから、会社が社員に合わせるスタンスへと移り変わろうとしています。さらには夫婦共働き家庭が増え、女性の正社員数も上昇傾向です。また男性の育休取得率が歴史的上昇を見せているように、家事や育児といった家オペレーションに対して性別関係なく取り組む「一億総しゅふ化」も進みつつあります。そんな時代に転勤を強制すると、社員の家庭は立ち行かなくなってしまいます。転勤の強制は、男性が仕事に、女性が家庭に100%の時間を費やすことが当たり前だった時代の遺物とも言えます。そんな実像と乖離した残像に見切りをつけ、総合的な転勤対策を進めることは、社員の採用と定着の両面において必要性の高い取り組みと言えるのではないでしょうか。

(2025.4.25 JBpress)

オフィスタ
作成: 2025/04/25 (金) 12:59:49
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