「鍵なんてこの世から無くなればいいんだ。鍵こそがこの世の諸悪の根源だよ」
真顔で言うので冗談に聞こえない。
「これまた極端な物言いをするね。鍵に親でも殺されたのかい?」
「そうだよ、僕の両親はどちらも鍵に殺されたんだ」
「え……」
「母は間接的に、だけどね。火事だったんだけど、鍵が壊れていて開かなかったみたいなんだ。そのうちに一酸化炭素中毒で意識を失ったみたいで、苦しんだ跡は無かったのが救いだね。父は強盗に撲殺されたんだけど、犯人が使った凶器が鍵だった。僕はこの世から鍵が無くなればいいと思ってるよ」
飄々としたやつだと思っていたが、かなりヘビーな過去を持っているようだった。彼は独身だし、きょうだいはいないと言っていたので、この年ですでに天涯孤独なのか。嫌なことを思い出させてしまっただろう。自分の軽率な物言いを恥じた。
「それはまた……無神経なことを言った、すまない」
「なんてね。両親ともに健在だよ。憎まれっ子世にはばかるってやつかな。憎まれっ"子"なんていう年齢じゃないけど……」
……心が忙しい。尚も飄々とうそぶく彼に腹を立てる。
「お前、人が本気で心を痛めたというのに」
「わるいわるい。だけどさ、考えてもごらんよ。人の過去なんて星の数だけあって、皆が他人には見えない荷物とトリガーを持ちながら生きているんだ。どんな言葉が相手のかさぶたを剥がすか分からない。いや、もしかしたら血だらけの傷に塩をかけるのと同じかも。だから人にかける言葉には、慎重にならなくちゃいけない」
「確かに俺の物言いは軽率だった。仮にお前の親が生きているとしても避けるべき言い回しだった、すまない。だけど、相手が何を背負っているのかって、本当に見えないものだな。慎重になるったって、限界があるよ。例えば……そうだな、レモンとか、口紅とか、そういうものがトリガーになるかもしれない。見えないトリガーを避けるなんて、難しすぎる」
口紅、というところで微かに彼の顔が歪んだ気がした。そういえばなぜ俺は口紅なんてチョイスをしたのか。ああ、今日通ったデパートのショーウィンドウに飾ってあったんだ、などと思いを巡らせている間に、彼はいつもの飄々とした様子に戻った。
「だからさ。僕は人と話をするのがこわいよ。いつ何時、相手を傷付けるか分からないから」
「そこはもう、ある程度割り切るしかないだろ。相手には相手の荷物があるように、自分にも自分の荷物がそれなりにあるんだから、傷つけ傷つけられくらいで納得しておかないと」
ハッとした顔を見せる。何やらゴニョゴニョと呟いている。
「そうか……人を……るとはまったく……なことだ」
「何を一人でブツブツ言ってるんだ?そろそろメシ選べよ。何も頼まないで居座るやつみたいに見られるじゃないか」
「わるい。そうだな、僕はこのスパゲッティを選ぶとするよ」
似合わぬ晴れやかな表情が奇妙だが、いつも奇妙なやつなので放っておこう。すみませーん、と手を挙げると、いつもの店員がにこやかに駆け寄ってきた。
ポンと頭に浮かんだ会話が書きたかったやつ
途中の地の文は全部適当な後付け
何かの一場面の切り取り
たぶん"彼"は親にしんでほしいと常日頃思ってて、
だからスルスルと嘘がつけたんでしょうね どんな過去があったのかしら
主人公は無神経すぎて何も気づいてないやつ
これ今思ったけど
"彼"、シンシンで再生してることに気がついた
家森さんでも可 つまりは坂本さんぽい台詞回しを思い浮かべて書いてたっぽい