第1話「はまべちほー」
「デデデ、電池……バスノ電池が。」
ラッキービーストがそう言うと、海の上で動いていた、船に改造された“ジャパリバス”が停止した。
「ここで〜っ!?」
そんな止まったバスの中で、沖のど真ん中に取り残されたかばんがそんな悲鳴を上げた。
「あ、ヤバイよ! こっちも止まらなきゃ!わ、わ〜っ! ストップ! スト〜ップ!」
かばんの後ろで、こっそりと付いてきていた5人のフレンズの内の1人……サーバルが、彼女の下にいたアライグマとフェネックに、船を漕ぐことを止めるよう、そう促した。
そんなサーバルの言葉に応え、アライグマとフェネックは船を漕ぐ足を止めた。
ドシーン!
そんな重い音が、サーバル達の乗った船とかばんが乗った船がぶつかって鳴った。しかしそんな船に重傷を及ぼしそうな音に反して、あくまでもゆっくりとだったため、それぞれの船に目立った外傷は付かなかった。
「うわっ!?」
ぶつかったのに驚き、かばんはそう叫んだ。
そして、なんだなんだとかばんが後ろを振り返ると。
そこにはキョウシュウエリアで共に旅をし、何日、何十日間……いや、何ヵ月間も一緒に過ごした、親友のサーバル、それと……、今まで特に親しくしてきたフレンズ達……アライグマ、フェネック、アフリカオオコノハズク、ワシミミズク、それに、ロッジで漫画を描いていた、タイリクオオカミがいた。
「さ、サーバルちゃん! ……みんなー!」
かばんがサーバルを見て、驚きの声を上げる。
サーバルはそんなかばんに、無邪気に、笑いながら言った。
「えへへへへっ。ついて来ちゃった! みんなもかばんちゃんが心配なんだって!」
彼女のそんな笑い方、表情がかばんの涙を誘う。
「はい、帽子!」
サーバルがそう言い、かばんに帽子を差し伸べる。
「え、サーバルちゃん、要らないの?」
かばんは彼女に、そんな事を聞いた。
「うん! 私は、かばんちゃんと過ごせるだけでいいから!」
そんなサーバルの言葉に、かばんは一粒、大きな涙を流した。
かばんはその涙を人差し指で拭い、アライグマへと顔を向けた。
「かばんさん!」
アライグマが彼女の名前を、再び呼んだ。
「はい。……なんでしょう。」
かばんが優しい口調で、にっこりと笑みを浮かべながらアライグマに集合言った。
「アライさん、かばんさんが心配だったのだ~!」
「私はアライさんに付いてきただけだよー。」
アライグマ、フェネックがそんな言葉をかばんに口々に話す。
「我々は、お前たちが迷惑を掛けないように付いてきただけなのです。」
「そうなのです。勘違いはダメなのですよ?」
アフリカオオコノハズク、ワシミミズクがそんな「ツン」と「照れ」の混ざりあったような感情をうっすらと含め、そんな事を言う。
「あはは、分かってますって。」
かばんはそんな感情を軽く受け取りながら、微笑してそう言った。
そしてかばんは、もう1人のいる方向を振り向き、言った。
「タイリクオオカミさんは……何故……?」
そんなかばんの問い掛けに、タイリクオオカミは答えた。
「いやあ、漫画のネタになりそうだな。と思ってね。」
「そうですか……。あれ、じゃあ、アミメキリンさんは……。」
かばんがそう言うとタイリクオオカミは一息吐いて言った。
「アイツは……来ないさ。」
そんなタイリクオオカミの言った言葉に、かばんは戸惑いを隠さなかった。
「……え? なんで……。一番のファンだったはずじゃ……? タイリクオオカミさんの漫画をいつも読んでて……。」
かばんのその言葉を遮るように、タイリクオオカミは再び口を開いた。
「……彼女は言った。『遠くに行っても、ずっと応援してますから。』……って。」
かばんがその言葉を聞いて口を開こうとしたが、タイリクオオカミはその言葉をさらに掻き消すように、続けた。
「それに、『アリツカゲラさんの話し相手が居なくなりますからね!』ともな。」
タイリクオオカミのそんな言葉に、かばんは下を向いて少し微笑みながら言った。
「そうですか……。まあ、ある意味アミメキリンさんらしいというか……。僕も、そこまで良くはアミメキリンさんのこと、知りませんけど……。」
かばんが言ったその言葉を境に、波打つ音がより一層と際立って聞こえるようになった。
サーバルはその淀んだ空気をなんとか立ち直らせようと、口を開いた。
「……まあ、他の子は予定があって来れなかったんだけど、予定が一段落したら、来るって言ってたよ。」
「そうですか……。楽しみですね。皆さんが来るの。」
「またアライさんのときみたいに追いかけっこになったりしてー。」
「たしかに!」
アライグマの一言で、一斉にその場に笑いが訪れる。
……そんな話をしていると、海の表面が軽く盛り上がり、フレンズが水中から顔を出してきた。
そして、そのフレンズはかばんの顔を見て言った。
「なになに、どこいくのぉ~っ?」
そんなフレンズの顔を見て、微笑みながらかばんは聞いた。
「ああっ。あなたは、何のフレンズさんですか?」
続けてサーバルが、笑い掛けながらそのフレンズに言った。
「お友達になろうよ!」
波が砂浜を打つ。
ザザーン。ザザーン。
とても心地の良い音が、8人の周りで静かに鳴り続けた。
~けものフレンズ2~
陸に上がり、かばんとサーバル、アライグマにフェネック、アフリカオオコノハズクとワシミミズク、それとタイリクオオカミが浜辺へ足を着く。
まあ、アフリカオオコノハズクやワシミミズクは飛べるので、暑い砂浜にわざわざ足をつけずに飛んでいる訳だが。
そんなことはともかく、かばんらはその、フレンズを見つめて言った。
「あたしはマイルカ! マルカって呼んでね!」
▼■■■■■▼鯨偶蹄目マイルカ科マイルカ属
■ ■ ■
■ ■ ■マイルカ
■ ■ ■
■■ ■ Common Dolphin
はまべに着いて、一番に彼女は言った。
「データベースシュトクカンリョウ。データノロードヲカイシシマス。」
近くでラッキービーストがそんな言葉を発する中、かばん達は話を続けた。
「マイルカさん。……よろしくお願いします。」
「マルカだってば。」
マイルカ……、マルカのそんな言葉に、かばんは頭を下げながら言った。
「ああ、すみません。マルカ……さん。えーと。ここはどんなちほーですか?」
「ここははまべちほーって言うんだ。海に住んでるフレンズとかまあ、その他いっぱいいるよー。」
「は、はあ……。」
そんな大雑把な説明を終え、彼女はあっという間に海へと去っていった。
「じゃあねー!」
「ま、またー!」
彼女にそんな別れの言葉を言い、かばん達が振り向くと、そこには、ゴコクエリアのラッキービーストが居た。
キョウシュウエリアでは色は青だったが、ここでは緑だった。
それでも尚、前のラッキービーストの体の、面影が残っているような、そんな気がし、かばんはそのラッキービーストに抱きついた。
キョウシュウエリアで出会ったラッキービーストが、居なくなった訳でもないのに。
そんな、緑色のラッキービーストがかばんを見て声を上げた。
「あっ。ここにもラッキーさんがいますね。……そういえば、ラッキービーストを一つのエリアに2、3体設置しておいたの、忘れてましたー。……結局、キョウシュウエリアでの抵抗は、失敗に終わってしまいました。そして私達、パークの職員は、このゴコクエリアへ避難することになった訳ですが……。サーバルさん達……大丈夫でしょうか……。……まあ、あの子達なら、多分、大丈夫ですね。それに、いつまでも嘆いていても、仕方ありませんね。今はあの子達が、私が戻るまで生きていることを願うのみです。」
そして、そのラッキービーストはあの声を上げた。
「ハジメマシテ。ボクハラッキービーストダヨ。キミノナマエヲオシエテ――。」
そして、そんなラッキービーストの声と共に、かばん達が今まで一緒に旅をしてきた、もう一人(?)の方のラッキービーストの、99という文字が100へ変わった。
「ハマベチホーノデータロードガカンリョウシマシタ。……カバン。」
そんなもう一人のラッキービーストの呼び掛けに、かばんは答えた。
「はい。なんでしょう?」
すると、ラッキービーストは言った。
「ボクヲ、ソコニイルラッキービーストニ、トリツケテクレナイカナ。」
そんなラッキービーストの声に、かばんは答えた。
「え……。あっ、はい。」
そんなあどけない返事をし、かばんはその、緑色のラッキービーストの体に小さくなったラッキービーストを取り付ける。
「ゴコクエリアノデータベースヲシュトクチュウ。カバン。ボクノヨコニアルボタンヲオシテクレナイカナ。」
ラッキービーストのそんな無機質な声に、かばんは答える。
「あ、はい。」
そしてかばんは、ラッキービーストの横にあるその、小さなボタンを押した。
「データコード:12201714。データメイ:『Record of the journey of the Kyoshu』……データノイコウガカンリョウシマシタ。」
そんな声を境にその、小さくなったラッキービーストは声を出さなくなった。
「……ラッキーさん?」
かばんがそんな声を掛けると、緑のラッキービーストに元々あった似たような形状をしたものが光りだし、喋った。
「カバン、ボクハコッチダヨ。ウミノミズデヌレタカラ、コワレルマエニデータヲイコウシタンダ。モチロン、ゴコクエリアノデータモシッカリハイッテルヨ。」
それを見てかばんは、少し驚いた。
「ラッキーさん!?」
「モウマエノホウハトリハズシテクレテモカマワナイヨ。……モッテルノモジユウダケド。」
そんなラッキービーストの言葉を聞き、かばんはそれを取り外し、“かばん”へとしまい込んだ。
そんなかばんの動きを見届けた後、ラッキービーストは言った。
「ジャア、イコウカ。」
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わくわく水族館シードーナツあおやまおにいさん(くまもと) ※本当にある水族館
「えー。マイルカはですねー。ま、名前の通り、普通のイルカでしてー。水族館などで手懐ければ、大ジャンプだとか、輪くぐりだとかしてくれますねー。まー、あとはですねー。好物はまー、魚ですねー。鰯とか良く食べてて、ってかあまりに食べすぎて予算が……」
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「うーん……。」
「ボス、まだー?」
「どこまで行っても、“はまべ”ですね……。」
フェネック、サーバル、かばんの順に、それぞれがそんな言葉をガイド中のラッキービーストに放つ。
「モウスコシダカラ、ガンバッテアルイテ。」
ラッキービーストのその言葉に、かばんはふとあることを聞きたくなり、その口を開いた。
「……そういえば、はまべちほーは具体的にどんなちほーなんですか?」
かばんのそんな問いかけに、ラッキービーストは答える。
「ハマベチホーハ、オモニウミノチカクニスムフレンズナドガオオクセイソクシテイルヨ。……サッキノマイルカハ、ウミデアソンデイタヨウダネ。」
ラッキービーストはそんなことを、後ろ歩きで語り始める。
「はあ……。」
そんなかばんがよく分からない、といったような返事をした。
「ホントウハマイルカイガイニモイロイロナフレンズガイテ、サメ……オモニホホジロザメナドノチョットキショウガアラクテアブナイフレンズモイタリ、」
「ええっ……!」
かばんがラッキービーストの「気性が荒くて危ないフレンズ」という説明に戸惑い、そんな声を上げた。
危ないとはどういうことだろうか。とかばんは疑問に思うが、そんなかばんをお構い無しにラッキービーストは話を続けた。
「……ヒカクテキメズラシイドウブツノフレンズモフクスウイルヨ。」
「へえ。そうなんですか。」
珍しいフレンズさんか……。見てみたい気もするなあ……。
かばんがそんな事を考えていた時、ラッキービーストが足を止めた。
「アトハ……。ア、ソウコウシテイルウチニツイタミタイダネ。ソレジャア、ハイロウカ。」
目の前にあった古びた木の扉を確認して、ラッキービーストは言った。
ラッキービーストがピョコピョコと奥へ入って行く中、アライグマ達サーバルを除くフレンズが、かばんの肩をポンと叩き言った。
「かばんさん! アライさんはちょっとそこらを探検して来るのだ!」
アライグマはそんな事を言って明後日の方向へと走って行った。
「私もアライさんに付いて……待ってよアラ〜イさ〜ん。」
フェネックが話の途中でアライグマを追いかけに行ってしまうが、去り際に
「かばん。我々も少しこの辺を見回りして来るのです。後でその建物の中がどうなってたのか、教えるのです。」
アフリカオオコノハズクがそう言うと、かばんは頷いて言った。
「はい。」
「それじゃあ助手……。行くのです。」
アフリカオオコノハズクのそんな言葉に、
「分かりました。博士。」
ワシミミズクはそう言って彼女の背中に付いていった。
「悪いが私もついて行けない。ちょっとこの辺の物を絵のモデルに使いたいんでな。」
「え、あ……はい。分かりました。」
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かばんが目の前のドアノブを捻り、前へ押す。
「すみませーん。誰か居ますか~?」
扉を開け、一番にそんな声を出したのは、かばんだった。
……しかし、返事は無く、その沈黙の中からは水の滴る音が「ピチャ、ピチャ」と鳴っていた。
……暗すぎる建物内。
少しでも奥へ入ると、足先すら見えなくなる。
かばんはそんな光景に少しながら恐怖を抱いた。
しかしかばんは、そんな恐怖心にも負けず、奥へ奥へと進んで行った。
そして、その「ピチャ、ピチャ」という音の正体を見つけた。
「なんだ……。この音か。」
正体が分かり、かばんはホッと胸を撫で下ろした。
正体は水道から漏れ出て滴る水だった。
かばんは水道から漏れ出る水を、手に取った。
……そんな時。
「あれっ? 見かけない顔だな。」
突然聞こえたその声に、
「うわあああああ!!」
かばん達は驚き、悲鳴を上げた。
カチ、という音が鳴ったかと思うとあっと言う間に部屋に明かりが灯り、そのフレンズはかばん達の前に姿を現した。
「ははっ。驚かせてごめんよ〜。」
黄色いその眼を光らせ、そのフレンズは言う。
「こ、こちらこそ……騒がせてしまってすみません。」
「びっくりしたよー。」
かばん達二人が口々にそんな事を言い、少し間が空いてから、かばんはそのフレンズに問い掛けた。
「お名前は……なんて言うんですか?」
鋭い目付きでありながらも、優しい表情を浮かべ、彼女はかばん達を片目で見つめながらとても元気に言った。
「私? 私はホホジロザメってんだ! まあ、ホホジロとでも呼んでくれ!」
▼■■■■■▼ネズミザメ目ネズミザメ科ホホジロザメ
■ ■ ■
■ ■ ■ホホジロザメ
■ ■ ■
■■ ■ carcharodon carcarias
そんな事を言ってホホジロザメが目の前を改めて見る。
「……あれ?」
かばん達は……ホホジロザメの目の前から消えていた。
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その頃。
アライグマ達は。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ。」
荒い息を繰り返しながら走り続けるアライグマの傍らで、フェネックがその背中を追いかけながら言う。
「アライさーん。またやってしまったねえー。」
そんな声に、アライグマは立ち止まり、空に向かって叫んだ。
「ここは……どこなのだあ~っ!」
……彼女らは、完璧に迷子になっていた。