バッシャーーーーン!
そんな音を立てて、バスがガクンと傾き、前方を川へ落として停車した。
大量の水しぶきが河川から飛んで空を舞い、一部はバスの中に、それ以外は元の場所へ向かって落ちていく。
「アワワ、アワワ、アワワワワワワ……」
ラッキービーストが慌てて、そんな声を上げた。
「ど、どど、どうしたんですか!? 一体何が!?」
頓狂な声を上げたかばんが、バスの運転席へと身を乗り出してラッキービーストに聞く。
「バババ、バスガ、アワワワ、アワワワワワワワワワワワ……」
「ラッキーさんまでー?!」
【オープニング】
大量の水がしぶきとなって空を舞い、散った水がバスの中へとどんどん入り込んでくる。
「どどどどど、どうしたんですか!? 一体何が!?」
「何が起こったのだぁぁぁーーーっ!?」
つい先ほどの衝撃に、バスの中は徐々に混乱で埋め尽くされ、かばん達一行は揃いも揃って頓狂な声を上げた。
ラッキービーストはそんなかばんの問いかけに気付くと、アワワ、アワワワワなどという声を止めて、その問いかけに答えた。
「ハシガジメンカラセリアガッテコナカッタカラ、バスノシャタイゴト、カワノナカニハイッテシマッタンダ。」
「え、でも、自動で地面がせりあがって来るはずじゃ……!」
かばんは呟くように言った。
「ドウヤラシステムエラーガオキテイタヨウダネ。オカゲデジメンガセリアガレナカッタンダ。」
ラッキービーストは答えた。
そんなラッキービーストの答えに、かばんは言った。
「それじゃあ、そのシステムエラーを直しちゃえば……。」
だがその言葉を遮るようにラッキービーストは言った。
「ソレハデキナインダ。」
「え……?」
かばんは疑念の声を上げた。
「システムエラーノシュウフクニハ、ハシノシュウリヨウプログラムガヒツヨウナンダ。ボクハハシノシュウリヨウプログラムガソナワッテイナイコタイダカラ、シュウリスルコトハデキナインダ。」
ラッキービーストは答え、続けた。
「ソレニ、シュウリヨウプログラムヲインストールスルニシテモ、スデニゴコクエリアノデータシュトクトココマデノキロクニ、カナリノヨウリョウヲツカッチャッテイルカラネ。インストールモムズカシイヨ。」
「はあ……。」
かばんはラッキービーストの言葉を聞くと、疑念と困惑が入り混じるそんな声を漏らした。
あまりにも言葉が難しすぎて、言っていることはかばんにはあまり理解出来なかった。
だが、恐らくラッキービーストが言った言葉は、「無理だ」だという理解の仕方で誤りはないだろう。
「じゃ……、じゃあ……。何か他に手は……。」
酷く戸惑い、慌てふためきながら、辺りを見回すかばん。
何か思いついたのか、彼女はフレンズたちを見て合点が言ったかのように手をポン、とする動作した後、嬉々として話し出した。
「……そうだ。力持ちのフレンズさんに、向こうまでこのバスごと運んでもらうとか……。」
そんなかばんの提案に聞き耳をたてたのか、サーバルが耳をピクンと震わせてかばんのいる方向へと目を向けて手を挙げた。
「それなら私、出来るよ!」
サーバルの言葉にかばんは彼女のほうを一瞬振り返ると、ラッキービーストの方へ半分ほど向き直りながら言った。
「そ、それじゃあサーバルちゃんが……。」
「ムリダトオモウヨ。」
――が、そんなラッキービーストの言葉に、かばんの提案は遮られた。
「え? なんでー?」
サーバルが不思議そうな顔を浮かべながら、そんな疑問を声に出す。
すると、そんなサーバルの問いに答えるように、ラッキービーストは言った。
「サーバルノジャンプリョクデハ、ココカラムコウギシマデノキョリヲジャンプスルコトハ、ケイサンジョウデキナインダ。」
少しだけ間を空けて、ラッキービーストは続けた。
「ダイイチニ、モシモサーバルノジャンプリョクデムコウギシヘワタレタトシテモ、アンゼンニワタレルトハカギラナイヨ。ソレト、ココニイルミンナノチカラヲアワセタトシテモ、タリナイカモシレナイネ。」
「もし私と助手が空の方向にちょっと手助けしたとしても、流石にキツそうなのです。」
「なのですです。」
「そうなんですか……。」
少しだけ落ち込んで、かばんは俯いた。
そして再び考えた。
何か他に、川をバスごと渡る手段はないかと。
――そんな時だった。
バスの目の前、その水の表面がボコボコと形を変え始めた。
かばん達はその異変に気付き、その水の中を覗き込んだ。
「なんだろう……?」
「なになにー?!」
「なんなのだー?」
すると突然、一人のフレンズが水を纏いながら、水中から勢い良く跳躍し――空に舞った。
「な……何!?」
サーバルが驚きの表情を浮かべながらそう叫び、そのフレンズを見上げる。
そのフレンズは逆光に纏われ黒く見え、表情こそはあまり良くは見えなかった。
だが、なんとなく緑色をしていると、サーバルには分かった。
そしてそんなフレンズは彼女達が居ることに気付くと、驚き、慌てて空中でもがき始めた。
「危なぁ~いっ!」
フレンズは言った。
やがてそのフレンズの飛ぶ力は衰え、ゆっくりとスピードを落とし、かばんへ向かって落ちていった。
かばんはそのフレンズが自分の立っている場所に落ちる事に気が付き、驚いて悲鳴を上げた。
「う……うわあああああ!」
「どいて~っ!」
そのフレンズは慌ててそんな声を上げた。
だがそのフレンズがそんな言葉を放った時、かばんとそのフレンズの距離は既に1mを切っていた。
そして。
――次の瞬間、そのフレンズはかばんの足元数mm手前に着地し――
――勢い余って、かばんが避ける間もないまま、そのフレンズはかばんに覆い被さるように、巻き込んで倒れ込んだ。
「わあああああああ!」
かばんは突然の出来事に、驚きのあまり頓狂な声を上げた。
――その時、かばんの背中……そこにかかっている鞄は砂利だらけの川岸に衝突した。
鞄のお陰でかばんは怪我こそはしなかったが、もの凄い速さでぶつかる、という、その恐怖で一瞬意識が遠退いた。
「かばんちゃん、大丈夫?!」
慌てて、サーバルが駆け寄る。
かばんはふと気付くと、自身の身体の上に横たわるフレンズを見つめ、彼女の肩をポンポンと叩いた。
「ボクは大丈夫だよ。でもこの人は……えーと、…だ……、大丈夫ですか……?」
サーバルの心配に応えつつ、かばんは自身の身体の上に横たわるフレンズに、そう声がけた。
彼女はゆっくりと目を開けると、「やってしまった……!」とも言いたげな表情で取り乱しながら答えた。
「す、すみません!わわわ、私も大丈夫です!」
そのフレンズは答えると、上体を起こしてかばんの前に正座して座り込んだ。
「良かった~!」
サーバルは言った。
「ボクの後ろのが丁度良くクッションになってくれたからね。」
かばんは呟いた。
「本当に、すみませんでした……。」
一人のフレンズは言った。
「いえいえ、大丈夫ですって。……あのくらい、サーバルちゃんとあった時にありましたし。」
かばんは答えた。
「私……カッパって言うんです。……私、魚を追いかけるの好きで……。魚を捕まえる遊びをしていて……。……夢中になりすぎて……、あんな事に……。」
▼■■■■■▼ 未確認生物
■ ■ ■
■ ■ ■ カッパ
■ ■ ■
■■ ■ kappa
そのフレンズ……カッパはそう言うと、顔を赤らめ始めた。
それが何故かは……言うまでもないだろうが、先程倒れ込んだ際に、かばんの顔と自分の顔同士の距離がとてつもなく近くなっていたから……という理由である。
だが、かばんはそれに気付く事は無かった。
倒れた時の恐怖で、それに気付く余裕が彼女には無かったのだ。
「な、なにかお礼……いやお詫びの品を……。」
カッパが言葉を間違えながら言った。
「だからいいですって。」
かばんはカッパの言葉にそう答えた。
「……いえいえ。……そうだ、泳ぎ方でも教えましょうか。」
カッパは言った。
「今はいいですよ!」
突然の水泳練習の提案に、それどころの状況じゃないかばんと一行は、真っ向からその誘いを断る。
それに続いてかばんは思いついたように声を上げた。
「……そうだ。このバスを向こう岸まで持って渡れますか?」
「あっ、やってみます!」
カッパはかばんの問いにそう答えると、バスの車体に手を掛けた。
「動かしますね!」
カッパはそう言うと、後ろへ一歩踏み込んだ。
ズシーーーーン!
「動きました! その調子です! カッパさん!」
かばんはそう言うと前方を見た。
「……あれ?」
だがそこに、このバスを動かしているはずのカッパの姿はなかった。
その姿が見えないまま、数秒が経過した。
かばんは運転席からカッパがいるであろう場所を覗き込んだ。
――すると。
「ぶは……っ! すみませn……無理です~っ!」
カッパがそう言って、水面から顔を出した。
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「すみません……。力になれなくて……。」
カッパが俯き、申し訳なさそうに眉を八の字に傾けながら言った。
かばんはそんなカッパに、ニコリと笑い掛けながら言った。
「いえ。問題ありません。全然大丈夫ですよ。」
「で、でも……。」
カッパは呟いた。
結局あのあと、バスが沈み掛け、カッパはそんなバスに押し潰されそうになった。
バスはかばん達のお陰で引き上げられたが、そんな彼女達を向こう岸へ渡せなかった事、更にその上に迷惑までかけてしまった事に、カッパは責任感を感じていた。
するとそんなカッパの考えを逆転させるように、かばんは呟いた。
「本当はここに、橋がせりあがってくるはずなんですから。」
「……橋?」
カッパは呟いた。
そんなカッパの呟きに、かばんが答えた。
「はい。」
「それなら、上流の方にもあったと思います!」
カッパは言った。
「本当ですか!?」
かばんはカッパの言葉に、目を輝かせながら言った。
「モウヒトツノハシハ、ケイコクチホーニアルタキノチカクニアルヨウダネ。コノカワヲワタルニハ、ソコマデイドウシナイトイケナイヨ。」
ラッキービーストはそう言うと、バスを旋回させ始めた。
「途中に私の家が在るんで、私、その辺までだったら案内しますよ。」
カッパは言い、小さめの声で続けて言った。
「……魚を、捕まえながら。」
「……ラッキーさん。」
かばんは呟いた。
「カノジョノアンナイニシタガッテ、セイキルートデハナイミチヲハシルヨ。」
ラッキービーストは言った。
カッパは川へ飛び込み、水面から顔を出した。
「出発してください!」
「デモソノマエニ、バスヲイチドヒキアゲナキャダネ。チョウドココニイルゼンインガキョウリョクシタラモトニモドセルカモシレナイネ。」
「じゃあ、みんなで引き上げよう!」
ラッキービーストの言葉を聞くや否や、かばんはその場にいるフレンズ全員に声がけた。
「おー!」
「私も協力します!」
カッパもかばんの言葉に答えるように言い、再び水中へ身体を沈めて泳ぎ出した。
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「水、綺麗になってきましたね。」
かばんが、カッパの泳ぐ川の水を眺めながら言った。
「ジョウリュウニチカヅイテキタカラネ。モウシバラクジョウリュウヘチカヅイテイッタラ、ミズガトウメイニ……スケテカワノナカガミエルヨウニナルヨ。」
ラッキービーストが、かばんの言葉にそう答えた。
「へえーっ。」
かばんはラッキービーストの言葉を聞いて、川を眺めながら頷き、そう呟いた。
「……ん?」
かばんがそのまま川を眺めていると、1人のフレンズが視界に入った。
「ラッキーさん。一旦停めてください。」
かばんはラッキービーストに言った。
「ワカッタヨ。」
ラッキービーストは答えると、バスを停車させた。
カッパはその事に気付くと、泳ぐ事を止めて岸へ上がった。
かばんはバスを降りた。
「どうしたの?」
川岸へ上がり、バスへ近付いてきたカッパが、バスを降りたかばんに聞いた。
「いえ……。あのフレンズさんが……。」
かばんは答え、そのフレンズを指さした。
カッパは、かばんの指さしたそのフレンズを見た。
彼女はやや大柄の体のフレンズだった。
耳は円く、それを含んだ髪は黒く。
川を見ながら屈み込んで、時々その水面を手で打つ。
カッパはその行動で飛び散った水を見て呟いた。
「魚だ……!」
「え?」
かばんはカッパの呟きに、疑念の声を上げた。
「あのフレンズさん、泳ぎもしないで魚を採ってるんですよ!」
カッパはかばんの疑念の声に、目を輝かせながらそう答えた。
「そうですか……。」
かばんは頷いた。
「あの、別に急いでませんよね?」
カッパはかばんに顔を向けてそう聞いた。
「え……。いや……まあ。」
かばんは呟く様にそう答えた。
カッパはそんなかばんの答えを聞くと、ニコリと微笑んでそのフレンズへ身体を向け――泳ぎ出した。
――そんな時だった。
その、名も知らないフレンズが見ている水の中、そこで青い影が蠢いた。
そして、そこから飛び出した。
それはそのフレンズの図体を遥かに越える大きさの魚。
いや、良く見るとそれは魚ではなかった。
その魚に見えた生き物には、鱗や尾びれにあるようなような線がなかった。
ましてやその体は青く、その上美しく透けていて、たった一色だ。。
そう……。
それは大きな、魚型のセルリアンだった。
だが、セルリアンだとしたら、何故川の水に触れているのに動きが止まらないのだろうか……?
まあ、そんな疑問はあとだ。
早くあのセルリアンを倒さなければ……。
カッパはそう思い、そのセルリアンへ向かって走り出した。