第2話「れすとらん」
「フレンズの皆さん。お早う御座います。今日は、とても良い天気ですね。」
そんな明るく、はっきりとした、すき通ったような声――ミライの声だ――がパーク中に響き渡り、それと同時に、夜行性ではないフレンズたちが身支度をし始め、それぞれの場所へ向かう。
街中で仲間との会話を楽しむフレンズ達も居れば、一人で黙々と、勉強に励み続けるフレンズも居る――まさに十人十色。
それぞれがそれぞれ、お互いの特性を理解しあって、寄りそう。
のけものは、本当に一匹もいない。
「そんなあの頃が、今まで生きてきた中で一番幸せだった」と、そのフレンズは、青く澄み渡る空を見つめながら、その光景を脳内に浮かべながら思った。
「さあ……行きますか。」
そのフレンズはそう言った。
そしてゆっくりと、かつ静かに、その場所へ向かって、歩き出した。
【オープニング】
広大に広がる花畑の中を、1台の“バス"が走る。その“バス"はボディが黄色く、その上にはこげ茶色の水玉模様がまるで重なり合ったり、重なり合わなかったり、さらに、そのバスの先頭につく猫のような耳が、バスに1つのデザインを見出だしていた。
その中では、8人のフレンズと、1匹のラッキービーストが乗っていた。
「それにしても、さっきは大変でしたね。」
かばんが、他の7人のフレンズに語りかけるように言う。
――時間は少し遡り。
朝。
かばんが目覚めると、外から騒がしい声が聞こえた。
かばんは窓の外を眺めた。
外には、8人のフレンズが話をしながら、座っている姿があった。
そんなフレンズ達を見たかばんが目を擦りながら、フロントへと向かう。
「オハヨウ。カバン。」
物陰から顔を出し、ラッキービーストはかばんにそう言った。
「あっ。ラッキーさん。おはようございます。」
かばんが寝ぼけながらそんな返事をすると、ラッキービーストが目を緑に光らせて言った。
「……カバン。ヤッテモライタイコトガアルンダ。」
「はい。」
かばんはラッキービーストの言葉に、そう答えた。
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「うんしょ、よいしょ!」
そんな声を出しながら、かばんを除いた、サーバル、アライグマ、フェネック、アフリカオオコノハズク、ワシミミズク、タイリクオオカミ……それと、ホホジロザメの8人が、船に改造されたジャパリバスを引き上げた。
「そのまま、こっちへ!」
ズシーン!
と、その重い音が辺りに鳴り響き、それが地に降ろされる。
「これをどうするのです?」
アフリカオオコノハズクがかばんに聞いた。
するとかばんは、ラッキービーストに目を向けて言った。
「えと……ラッキーさん。 これをどうすればいいんですか?」
するとラッキービーストは、無機質な声でかばんの問いに答えた。
「コレヲ、モトノ“バス”ニモドシテホシインダ。……タシカ、バスノウシロニタイヤガアッタハズダケド。」
かばんはラッキービーストの放った“たいや”という単語に疑問を浮かべ、ラッキービーストに問い返した。
「“たいや”……って、何ですか?」
かばんが言うと、ラッキービーストは目を緑に光らせ、壁に何かを映し出し、言った。
「マルクテシカククテ、アナガアイタ、コレノコトダヨ。」
その壁に映し出された、ラッキービーストがタイヤと呼んだ物。
それは、黒く、円い形をした図太い輪っかの中に、細長い楕円の穴がいくつか空いた、白い、鉄で作られた物が入れ込まれた大きな物だった。
かばんは、それに見覚えがあった。
「あ。これなら見た事あります。」
かばんはそう言って、バスの方を振り向き、運転席の後ろ側に近づく。
「これ……ですかね?」
かばんが言って、その物を指指す。
「コレダヨ、コレダヨ。」
ラッキービーストが、ピョンピョンと無邪気に跳ねながら言った。
「……良かった。」
かばんがそう言い、胸を撫で下ろす。
「それで、これを何に使うんでしょうか?」
かばんが聞くと、ラッキービーストは“たいや”の解説をし始めた。
「タイヤトイウノハ、ジャパリバスノヨウナクルマトヨバレルモノヲ、リクノウエデウゴカスタメニツクラレタモノナンダ。」
そんなラッキービーストの説明の一文を聞き、かばんは「ああ!」と言い、自らで考えた推測を言い出した。
「つまり、これをジャパリバスに付ければ陸でバスが動かせるようになるってことですね!」
「ソウダヨ、ソウダヨ。」
そんな言葉を発しながら、ピョンピョン、ピョンピョンと、ラッキービーストが跳ねる。
「……ア。」
跳ねていたラッキービーストがまるで何かを思い出したように突然止まり、また言い始めた。
「デモ、アトタイヤハイツツヒツヨウダネ。カバン、ホカニタイヤハナイカナ。」
かばんはラッキービーストの言葉に、こう答えた。
「……ありませんね……。」
そんなかばんの言葉に、ラッキービーストは言った。
「ジャア、ミンナニテツダッテモラオウカ。」
そしてかばんは、ラッキービーストのその言葉に、コクリと頷いた。
「っていうことで、みなさん、これと同じ物を見付けて下さい。」
かばんはそう言って、タイヤを指指した。
そんなかばんの言葉に、アフリカオオコノハズクと、ワシミミズクが答えた。
「何言ってるのですか?」
「それはそこの袋の中に入ってるのですよ。」
アフリカオオコノハズクの続けてワシミミズクはそう言うと、一つの袋を指指した。
かばんはそんなワシミミズクの言葉に、袋へ近付き、それを開けた――。
――そこには、タイヤが三つ入っていた。
「これをどこで?」
かばんはそう、ワシミミズクに問い掛けた。
「ここに来るちょっと前(※12.1話「ばすてき」参照。)に、アライグマとフェネックに探すよう、命令したのです。」
ワシミミズクがはそう答えた。
そしてアフリカオオコノハズクと共にこう続けて言った。
「「我々は島の長なので。」」
そんなハモりも他所に、アフリカオオコノハズクが続けて言った。
「それで、アライグマとフェネックの二人が見付けてきたタイヤを、我々がその袋に入れたのです。」
かばんはそのアフリカオオコノハズクの言葉を聞き、アライグマとフェネック二人の居る方向を向いて言った。
「そうですか。……ありがとうございます。アライグマさん、フェネックさん。」
そんなかばんの言葉に、躍起になったアライグマは心して答えた。
「どういたしましてなのだ!」
続けてフェネックも、淡々と述べた。
「私はアライさんと同じ事をしただけだよー。」
「わ、我々には感謝はないので……」
「博士さんも、助手さんも、ありがとうございます。」
少しだけ嫉妬したのか、アフリカオオコノハズクが嫉妬したような面持ちで続けたが、かばんはアフリカオオコノハズクの言葉を遮りながら、彼女と、ワシミミズクの居る方向を見て言った。
かばんからの言葉を受け取った後に、二人は頬を赤らめてタジタジとした。
「さあ、タイヤを着けましょう。」
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――とまあ、そんなこんなでバスにタイヤを着け終わった。
「ホホジロザメさん。手伝って下さって、どうもありがとうございました!」
かばんはバスの窓から、そんな言葉を発してホホジロザメにお辞儀をすると、彼女に向かって手を振った。
ホホジロザメも、そんなかばんに答えるように手を振った。
「……どう致しまして。」
――
――――
―――
「ツイタヨ。」
ラッキービーストがそんな言葉を発し、ブレーキを掛けた。
バスがゆっくりと速度を落とし、停車した。
かばんはバスが完全に停車したのを確認すると、バスから降り、その建物を見た。
「わあ!」
その建物を見て、かばんはそんな、歓喜の声を上げた。
かばんはその建物へ近付くと、ラッキービーストにこう聞いた。
「これは、なんて言う建物なんですか? ラッキーさん。」
そんなかばんの問いに、ラッキービーストはこう答えた。
「ココハレストラントイウタテモノデ、インショクテントヨバレルミセノヒトツナンダ。」
かばんはラッキービーストの言った“いんしょくてん”という言葉に疑問を持ち、ラッキービーストにこう問い掛けた。
「いんしょくてん……って、なんですか?」
ラッキービーストは、そんなかばんの問いにこう答えた。
「インショクテントイウノハ、ノミモノヤタベモノヲテイキョウスル、ミセノコトダヨ。」
「へえーっ。」
かばんはラッキービーストの言葉に頷きながら、そんな声を発した。
そして、こう続けた。
「あ、つまり、アルパカさんのジャパリカフェも飲食店ってことですか?」
そんなかばんの問いに、ラッキービーストは尾を揺らしながら答えた。
「ソウダヨ。」
かばんは、ラッキービーストのそんな答えを聞くと、ドアに手を掛けて、引いた。
「誰か、居ますかー?」
かばんはドアの横から顔を出しながらそう聞いた。
「はーい。」
そんなか細い声が返ってきた。
そんな中、かばんに他の7人のフレンズ達と出てきたサーバルが聞いた。
「どう? 誰かいた?」
「うん。でも……。」
サーバルの問いに、かばんはそう言ってその中を再び見た。
レストランの中。
……そこはまるで台風でも通ったかのように……、ぐちゃぐちゃになっていた。
キャベツはバラバラに飛び散り…….
ソースは、床にこぼれていた。
「なんですか? 何か用でもあるんですか?」
再び、奥からそんなだらけたような声が聞こえた。
そのフレンズは面倒臭そうに顔を上げた。
そして、どんどんシルエットが露になってきた――。
「用がないから帰ってくだ――……って、サーバルさん!?」
そのフレンズは、なぜかサーバルの顔を見て、彼女の名前を呼んだ。
「え……?」
サーバルは、そのフレンズが突然自分の名前を呼んで来た事に戸惑い、そんな声を漏らした。
「わ、私の事、知ってるの!?」
サーバルは自身の戸惑い、そして驚きをそんな言葉にして、そのフレンズにぶつけた。
「はい。知ってますよ。姿も、声も、表情だって。」
そのフレンズはサーバルの問いに、そう答えた。
そして、こう続けた。
「もしかして……、忘れ…ちゃいましたか? 菜々さんのことも、他の皆のことも……。」
そのフレンズはそう、悲しげに言った。
「え? 忘れたって……。それに、菜々さんって、誰の事?」
サーバルは彼女にそう聞いた。
そのフレンズはそんなサーバルの言葉に、眉を八の字にして言った。
「いえ、もう良いんです。今の話は……、忘れて下さい。」
そんな二人の会話。
かばんはこっそりと、サーバルに聞いた。
「知ってるフレンズさんなの?」
サーバルはかばんのそんな問いかけに、かばんのように小さな声で答えた。
「ううん。まったく知らない子。」
かばんはサーバルの言葉を聞くと、そのフレンズに、敢えてその話題には触れないで、こう問いかけた。
「あの……。ところであなたは、何のフレンズなんですか?」
かばんのそんな問いかけ。
その問いかけに、そのフレンズはかばんへと目を向けて言った。
「……ああ。 そういえば言うの、忘れてましたね。」
そして、こう続けた。
「私はコアラと言います。雑食です。あ、怪我とかしてたら、パップあげますよ。」
▼■■■■■▼ 双前歯目コアラ科コアラ属
■ ■ ■
■ ■ ■ コアラ
■ ■ ■
■■ ■ Phascoalerctos cinereuse
サーバルは、その名前に聞き覚えがあった。
だが、どうしても全て思い出せない。
そしてサーバルには、もう一つ気になる事があった。
「パップってなに!?」
そんな サーバルの唐突な質問に、コアラが嬉しそうに顔を上げた。
コアラさんって、けっこう表情がコロコロ変わりますね……。
かばんがそう思う最中、コアラはサーバルに、自身の腹部のポケットから、ジャパリまんが小さくなったようなものを取り出して、言った。
「これのことですよ。」
「なにそれなにそれ!」
サーバルが、コアラが取り出したそれを見つめながら聞いた。
コアラは目を輝かせながら言い始めた。
「それが実はですね! 私の……。」
コアラがそこまで言った時、ラッキービーストがとても甲高く、大きな音を鳴らし始めた。
「ボスー!」
サーバルが、コアラの声が聞こえない、といったようなトーンで、ラッキービーストにそう言った。
ラッキービーストはその、甲高くて大きな音をピタリと止めると、サーバルの方を向き、こう言った。
「ヨノナカニハ、シラナクテイイコトモアルンダヨ。」
ラッキービーストのそんな言葉に、サーバルは落ち込み、ガックリと項垂れた。
そして、そんな落ち込むサーバルに、かばんはこんな言葉を掛けた。
「サーバルちゃん、諦めよう。」
かばんは再びコアラの方に振り向くと、彼女にこんな質問をした。
「あの、ところであなたは、何をしていたんですか?」
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横浜市立金沢動物園 あかざかおにいさん(かながわ)「えー。コアラはですねー。日中から良く木に登ってまして、ユーカリなどを食べてゆったりと過ごしている、とても可愛らしい動物ですね。ちなみにユーカリには毒があるんですが、コアラは体内でその毒をも無効化する事が出来るんですよ。そこがまあ、コアラの滅茶苦茶格好いい所なんですよね。あとはー、親のコアラはお腹の袋に子供を入れて、守ったりしてますね。まあこれは他の動物にも同じようなのがいるんですけどね。」
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「ところであなたは、何をしていたんですか?」
かばんは彼女にそう聞いた。
彼女はそんなかばんの質問に答えた。
「あの、ここで店の営業をするために、料理を作ろうとしてたんですけど……。」
彼女の答えに、かばんは再度聞き返しす。
「それで、どうしたんですか?」
かばんが聞くと、彼女は少し眉を潜めながら言った。
「何回やっても失敗しちゃって……。文字も読めないし……。」
かばんは彼女のその言葉を聞くと、ニコリと笑みを浮かべながら言った。
「なら、ボクが料理の作り方を教えてあげますよ。」
「本当ですか!?」
コアラはかばんの言葉に、嬉しそうに笑いながらそんな声を上げた。
かばんはそんなコアラを見ると、周りを見渡して彼女に聞いた。
「調理場はどこですか?」
コアラはそんなかばんの質問に答えた。
「あ、こっちです。」
それがある場所へと向かい、歩き出した。
コアラが、カウンターの横にある扉から入り、かばんもそれに付いていくように扉から入る。
かばんは扉を閉める前に後ろを振り向き、サーバル達に声を掛けた。
「皆さんは、あそこに座ってて下さい。」
このままでは料理がままならない。
かばんは今までの経験から、それが分かった。
何故分かるかって?
それは、アフリカオオコノハズクとワシミミズクの二人が、躊躇もなくだらだらと涎を垂らしているからだ。
かばんは扉を閉めると、調理場の中を見回した。
そこには、ほぼ全ての調理器具が揃っていた。
だが、火を着けるような物がない。
かばんはその事に気付き、コアラに聞いた。
「あの、火を着けるようなものって、どこにあるんですか?」
コアラはそんなかばんの問いに、眉を八の字にして答えた。
「それが……。いくら探しても、見つからないんですよね……。」
すると、かばんの横にいたラッキービーストが、それの方向を見ながら、彼女達に言った。
「コレダヨ。コレダヨ。」
かばんはラッキービーストの向いている方向を見て、こんな声を上げた。
「これは……?」
それは、一見ただの真っ黒な四角い箱。
しかし真上から見ると、白い輪が二つ描かれ、その一方には「IH」という文字が書かれていた。
さらに、その輪の手前には、ボタンや時間などが設定できるパネルが着いていた。
かばんがそれを見つめていると、横にいたラッキービーストが言った。
「コレガ、ヒノカワリニナルヨ。」
「え……?」
予想外のラッキービーストの発言に、かばんは驚き、声を漏らした。
「ど、どうやって、使うんですか?」
たどたどしく質問を返すかばんに、ラッキービーストはいつも通りの淡々とした声で返す。
「モジヲミレバ、ダイタイワカルデショ。」
そんなラッキービーストの言葉に一度冷静になったかばんは、再びそれをしっかり見ると、頷いてコアラに聞いた。
「レシピの本を見せて下さい。」
かばんの言葉に、コアラはレシピ本を差し出した。
まず、一ページ目を開いた。
そこには、料理の基礎、厚焼き卵のレシピが載っていた。
かばんがフライパンの中心が輪の中心に来るように置き、サラダ油を垂らした。
「玉子、ありますか?」
かばんがコアラに聞いた。
コアラは彼女の言葉に、卵一ダースを手渡した。
手際よく、的確にかばんが玉子の殻を割り、ボウルへ中身を流し込む。
そんな作業を終えると、かばんはボウルへ入れた玉子に調味料を加え、味付けをした。
そして、その内のほんの少しを指にとって舐め、その味によって健康に支障をきたさないか、美味しいと感じられるような味付けであるかなどを確認した。
……味付けは完璧だった。
かばんはフライパンの底面にサラダ油が均等に行き渡るように、フライパンを何度か小さく傾けた。
そしてかばんは、割った卵をフライパンへと流し込んだ。
流し込んだ瞬間、「ジュー。」そんな気持ちの良い音がして、調理場に玉子の焼ける、とても良い匂いが広がった。
ある程度焼けたことを見兼ね、かばんはまだ生の部分が薄く残っている表面と、その裏側をくっつけるように、ヘラを器用に使って巻いた。
そして完全にその部分がくっついたことを確認すると、急いでそれをフライパンからまな板へと移し、包丁で一口分に切った。
それを切り終えると、かばんはそれを皿へ移した。
「次は……サラダですね。」