海と花束BBS

せらスレ / 3300

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seller♪☆ 2026/05/07 (木) 09:39:18

第1の村の補足

 その村の夜明けは、残酷な「音」から始まる。 広場に置かれた古びた箱から、エマが「黄金の札」を引き当てた。「あら、また私? 運が良すぎて怖いわね」 彼女が勝ち誇ったような声を上げる。その背後で、数百人の村人たちが石のように黙り込み、うなだれた。彼らにとって、今日という日は再び「存在しないもの」として振る舞う、長くて暗い一日の始まりだった。 この村のルールは絶対だ。陽が昇ってから沈むまで、活動を許されるのは「主(あるじ)」に選ばれたたった一人。あとの者は全員、共同住宅の寝室で「寝たフリ」をしなければならない。  もちろん、生命維持のための活動は公式に認められている。だが、それは「トイレと食事を最短時間で済ませる」ことが条件だった。 エマが優雅に食堂で紅茶を味わっている横を、数分おきに誰かが影のように通り過ぎる。彼らは一言も発さず、冷えたパンを数分で胃に流し込み、逃げるように寝室へ戻っていく。主であるエマの自由を邪魔することは、この村で最も重い罪だった。 そんな中、青年カイルは限界を迎えていた。 彼はもう二年も、くじを引き当てていない。二年の月日を、彼は一日のうちのわずか数十分だけ活動し、残りの二十数時間を暗い天井を見つめて過ごしてきた。(もう、耐えられない) ある日、カイルに幸運が訪れた。いや、不幸の始まりだったのかもしれない。彼はついに、黄金の札を引き当てたのだ。 主となったカイルは、村人たちが寝室に消えるのを見届けると、村の境界にある森へと走り出した。「逃げ出した」と気づいても、誰も彼を追うことはできない。住人たちは全員、ルールによって「寝たフリ」を強制されているからだ。カイルは背後に、数百人の沈黙の視線を感じながら、自由を求めて未知の外界へと飛び出した。 夜通し走り続け、喉が焼けるような渇きを覚えた頃、カイルは隣村の明かりを見つけた。

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