『ヴィクトリア朝時代のインターネット』
トム・スタンデージ著
服部 桂訳
ハヤカワ文庫NF
レビュー
・スチームパンク、近代初期(19世紀後半~20世紀初頭)に興味がある、特に執筆するなら一読の価値あり。船や馬で数日~数カ月かかった距離の情報伝達が、「一瞬」で済む電信の前と後とでの情報伝達速度、範囲の違い、それに伴う世の中の変化がよく分かる。ただ、欧米に関する本なので、欧米の近代史に疎い者からは、ついていきづらい面もあった。また日本関係も、本文中は「日本」の名がわずかに出てきて、訳者作成の年表に少々記述がある程度。
・電信の仕組みが十分に理解されていなかった頃に、「ザワークラフトを電報で送ってほしい」「(受け取った電報が)息子と筆跡が違う」などと言ってくる人に、電信局がどう説明し、理解を得たかを書いてほしかった。
・モールスが「電信のコミュニティーに別れを告げた」とあったが、その理由や意味を記述してほしかった。発明から一線を退き、「隠居」するなのか?
(付言)『大津事件 ロシア皇太子大津遭難』
尾佐竹 猛 著
三谷 太一郎 校注
岩波文庫
レビュー
直接の通信史関係の本ではないが、1981年(明治24年)のロシア皇太子殺害未遂事件である「大津事件」に際して、発信者、宛先、発信日時を事細かに挙げた電報が多数引用されている。よって、事件当時「最先端の通信手段」だった電信が国家危急存亡の秋にいかに活用されたかがよく分かる一冊。『ヴィクトリア朝時代のインターネット』との併読もおすすめする。
ただし、電報文の引用は「句読点・濁点・半濁点付きの漢字仮名交じり文」だが、原文は「句読点・濁点・半濁点なしの『全文カタカナ』」であることには留意。
(付言2)モールス信号での電報の参考動画
『ヴィクトリア朝時代のインターネット』の時代では、人手でモールス信号で電報を送信していた。以下の動画がその雰囲気をつかむために参考となる。





