100日が過ぎた時の祝福も随分と昔の様に思える
あの日から後も私は教主の仕事を毎日粛々とこなしていた
進軍による領土拡大、喧嘩場の観戦、こっそり金庫破りをし、お菓子の様な姿の妖精を叩き、モナティアム各所を荒らし、エルフィンの頰を引っ張り、台帳の不備をネルに疑われエシュールへの援助も兼ねてエルフィンにパンやケーキなど買い与えていないと嘘を吐き、フリックルと地上地下観光を楽しみ、バターやコミーと村で過ごし、エレナやアメリアと自販機荒らしへの露骨な皮肉や郷愁を交えコーヒーやモナティアムでは禁止されているぶどうジュースを楽しみ、時にはエレナの寝室でお互いの爛れた心を慰め合った
時計の針が0時を回る頃、宴会場の疎な使徒達の話し声を聞き窓から満月の浮かぶ夜空を眺めヨミが喜びそうだ、とぼんやり眺めながら鍋にインスピレーションという建前に従い食材を放り込む
もうエルフィンすら寝る深夜だというのにふと私の前に小さな黒い影が座った、きっと夜食でも食いに来たのだろう、はにかむ様な恥ずかしげな笑みを浮かべるギデオンの頭を撫でながらモナティアムの物とは非なるアニマル缶を出してやる
私の前で度々見せてくれる嬉々とした表情で缶を開ける様子を眺めていればふとギデオンの口から星を見るのは好きかと尋ねられた
その言葉に自然と窓に目が行く。この数多の光に私の故郷は、ささやかながらも私の全てがあったあの星は輝いているのだろうか
そう思えば目頭が熱くなった、ギデオンにはバレない様にわざと落とした万能スパイスを拾う様に目を拭う
今胸に拡がる郷愁は100日が近づき、過ぎた頃から自然とエレナを除く使徒達には、詩になるならと故郷の事を話していたエピカにすら伝えなくなっていた。あそこまで盛大な祝祭の後にはどうしても、あの時のエルフィンの姿を思い出せば尚更この郷愁を晒すのは憚られた
落としたスパイスを拾い上げ、かつて私の祖先が文明の始まりを築いた、きっとこの世界ではただ在り、侘びた存在だったのだろう黒曜石の竜の頭を撫でる
嬉しげな笑顔を浮かべるギデオンに君と見るなら悪くない、と数秒前の問いに応える
共に見ようと嬉々として答えてくれるギデオンに喜びと微かに、しかし確かに心が軋む音が聞こえた
この郷愁は最早エレナの様な特異な出自以外には話す事は無い。このエーリアスで生きる為にも、捨てるにも己の郷愁はあまりに大き過ぎる、ならば心の奥底に沈めるしかないのだ
膝に座り頭を撫でられるギデオンの、かつての地球文明の始まりを担った鉱石の重みと、愛しい使徒としての温もりは茨の様に私の心を蝕んだ
叶うなら、帰りたい。アイスや白い飯すらもエーリアスでは私の食い慣れた味ではないのだから
1⬛︎⬛︎日目の教主の日記より抜粋
怖いよおじさん!下線付きテキスト