野獣とモビルスーツを誤認
ジオン戦争以後の地球では、多くの武装勢力が割拠して暴虐であった。救世軍の一団がメコン川のほとりに至ると、密林の迫る狭い土地に隠れるように作られた小さな集落では葬儀が行われていて、荼毘の煙が上がり、村人達の泣き声が聞こえてきた。集落に近い谷には、ジオン軍の残党のモビルスーツが住むという噂があった。夜ごとにモビルスーツは村にやってきては、若者をさらい、無惨に食い殺していく。救世軍の人々が、どうしてそんな恐ろしい土地に住み続けているのかと訊ねると、村人の口々に答えるには、「どんなにむごいモビルスーツの害も、強制移民法を楯に過酷な税と暴力がまかり通る都市の暮らしよりもましだ」とのことで、これは中世以前の、あまりに無法にすぎる酷い現状である。
救世軍の人々がガンタンクを押し立てて進んでいくと、やがて例の谷間に差し掛かるところで、案の定、ジオンのモビルスーツが姿を現し、まさかりを掲げて走ってくるのが見えた。こちらは用意万端、一斉射を見舞えば、たちまち巻き上がる土砂と爆風の中にモビルスーツは見えなくなった。塵煙が収まって確かめると、あとに、全身が毛皮に覆われた体長二メートルあまりの類人猿の死骸が見つかった。怪物は牙をむき出し、凄まじい形相で死んでいた。
野生動物とモビルスーツとは往々にして誤認されるものである。ジオン軍の地球侵攻以来、数十年にわたって、地球に怪モビルスーツ出没の噂が広まる一方、野生のゴリラやウェンディゴが目撃されたとき、それらがモビルスーツと誤認されていた可能性がある。(宇宙世紀〇〇九〇年頃)
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「救世軍」とは説話に登場する地球上を遍歴する騎士のような武装集団をいう。ジオン軍残党を救世軍として語ることもある。