リンレイの美しさに下馬することも忘れて見とれ、狼狽し、次に馬から飛び降りる迫水だが、新旧では印象が異なる。旧版では、しどろもどろな迫水を観察する彼女の目に「ムッとした」感情が差したと同時に、こんなまずい受け答えは危険だと気付いた瞬間、迫水の体が馬の背から跳び、リンレイの直前に落ちて片膝を付く。その挙動はまるでリンレイを襲うかのように見えるほど、迫水の激情の迸る行動だ。
完全版では、その一瞬の複雑な感情の行き交いが省略されて迫水は狼狽して下馬し、リンレイを襲うように見えたその挙動も「乱暴、粗雑」とだけある。
「お会いしたかった。会えて嬉しいのです」
の台詞は、旧版では唇は震えているものの、逡巡を払って『なぜそう出来たのかは分からなかった』というほど、迫水の意思を押し出すもの。咄嗟のこの挙動のおかげで迫水はリンレイに負けなかったような文の印象。完全版では、
ふるえる唇に抗うようにしゃべったつもりだが、意識は感受されているのは明白だった。
迫水はやはり、形なしだった、という書き替え。ここも完全版のテレパシー描写の補足の上で、リンレイの独擅場のようになっている。
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この新旧は全く「読者の好みのちがい」のようになってしまうが、旧版の迫水は、この場でも格好いいんだよ。野獣みたい。「そう出来た」はポジティブだ。なんで、あえて格好悪く書き直すのか?のように睨んで読んでしまう。章の途中だが、今夜ここまで。