>> 70354(ヴァ擬人化)にまつわる長文妄想
やわらかな明るさに瞼を刺激され、ぼんやりと意識が輪郭を持ち始めた。いつもの癖で目覚まし時計を見やる。アラームをセットした時間にはまだなっていないようだった。 もう少し寝ていよう、と無意識に考えた脳みそはしかし、いやいやもったいないよ! という心の声に完全にたたき起こされた。そう、もったいないのだ。なぜなら今日は特別な一日だから。バンカラ街という新天地での暮らしを、初めて迎える日だからだ。 さて、ここに越してきた理由というのは他ならない、ナワバリバトルに通いやすくするためだ。 ハイカラスクエアへ旅行に行ったとき、我儘を言ってナワバリ体験教室に参加させてもらったのだが、それがあまりにも楽しかったことが事のはじめ。そして高校を決める頃合いになって、大発展したバンカラ地方が特集された番組を見てしまったことが決意のトドメ。やはり僕は我儘を言って、なんとかこちらの高校に進学させてもらったのだった。 幸い始業にはまだ何日かの猶予がある。この間に少しでも多く遊んでおきたい。 ──ともかく、バトルに参加するにはブキを手に入れなければ。カンブリアームズというらしいお店に行けばあるはずだ。………………あるはずだった。 ウキウキで向かった僕を出迎えたのは、「臨時休業」の文字が書かれた掛札と、沈黙するガラス窓の扉。呆然と立ち尽くす僕の後ろを、二人組のイカがナワバリバトルについてらしい話をしながら駆けていった。 あんまりだ、こんなの。今日は特別な一日になるはずだったのに。 肩を落としながらアパートに戻ると、自室の隣のドアの前で、廊下の柵にもたれながらたそがれている女の人がいた。 「お、おはようございます」 朝っぱらからたそがれてるってなんなんだ。ていうか見るからに大人なのに、仕事は? などなど様々な思いが一斉に脳裏をよぎったが、とりあえずご近所さんっぽいから挨拶はしておいた。 「ん。おはようございます……おや。見ない顔」 「昨日越してきました」 「そうかそうか。最近多いんだ、バンカラデビューする子たち。ようこそバンカラへ」 どうやら普通に話せる人ではある模様。改めて背格好を見ると、バンカラの人にしては少し異質な感じがする。パリッとした白いブラウスに、左右非対称の赤いリボン。ボトムスのシルエットも相まって華奢な感じのする体格で、ペン先を模したピアスはその人のことをなんだかとても賢そうに見せた。 「ところで少年、新天地での暮らしが始まったというのに、随分浮かない顔だね。ホームシックかい?」 女の人がにやつきながら訊いてくる。どうやら思いっきり顔に出ていたらしい。 「ええと、ホームシックではないんですけど──」 その人が随分気さくに喋るものだから、ついつい話してしまった。ナワバリバトルをしに来たこと。早速デビューしたかったのに、お店が閉まっていてブキを手に入れられなかったこと。 「ふうん、なるほどねえ」 女の人は少し考え込む風な素振りをしたあと、無言で部屋のドアのほうを見つめた。 「あの……」 「ちょっと待ってて」 大人びた笑顔を見せながら僕のほうを振り返ったその人は、ひらりとドアに向き直り、そのまま部屋の中に消えてしまった。 だいたい五分ぐらい経過しただろうか。待てどうんともすんともいわないドアを見つめるのもさすがに嫌になってきた頃、「お待たせえ、ごめんごめん」と間抜けな声と共に女の人が出てきた。右腕には僕の背ほどにもなりそうな大きさの、金属の道具を抱えている。 「あの、それは」 「ヴァリアブルローラー。ナワバリバトルで使えるよ」 「え、ちょっと」 問答無用で金属の道具、もといヴァリアブルローラーを渡されそうになって、一歩後ずさった。 「……使ってみてほしいんだ。自分のブキを持つまでの仮でいいからさ」 「そんな、申し訳ないです」 「ううん、逆、逆。これは私の我儘だから」 ええ……と小さな声が漏れ出たが、ヴァリアブルローラーは気づけば自然に僕の手元におさまっていた。ここまで言われると、さすがに断るほうが申し訳ない。 「じゃ、じゃあ、ちょっとだけお借りします。ありがとうございます」 僕がそう答えると、少し下がっていた女の人の眉尻がパッと上がり、そしてすぐに安心したような表情になった。 「ありがとう。……よろしくね」 よろしく、かあ。この人はきっとこのブキをすごく大事に使っているのだろう。借りてしまった手前、とにかく丁寧に扱わないと。 僕はヴァリアブルローラーに目を落とした。黒い樹脂でグリップ性の上げられた持ち手。側面が赤いボックス状のパーツ。そしてローラーと呼ばれるブキ種に特有の、円筒型の本体。ローラー部は以前テレビで見たローラーの半分ほどの長さしかない。その代わり、ペン先を模した巨大なパーツが堂々と存在感を示している。 「それじゃあ、行ってきます」と僕が言ったのと、「もう使ってもらえない」みたいなことを女の人が呟いたのは、ほとんど同時のことだった。 「え、すみません。なんて……」 「なんでもない。少年、たくさん塗ってこい!」 僕の質問はとびきりの笑顔にさえぎられた。今日は特別な一日──と呼ぶにはかなりヘンテコだが、少なくとも忘れられない一日にはなりそうだ。
「隣に住んでたのが人外だった系ボーイミーツガール」。私の好きな言葉です。 このあと初陣は中継がある試合でもなかったのになぜか試合内容全部知ってるお姉さん編とかバンカラマッチ編とかおにぎり編とかフェス編とかフォイル編とかジムに乗り換えて以降戻らなくなった本来の持ち主編とかあるんだよ、きっと
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>> 70354(ヴァ擬人化)にまつわる長文妄想
やわらかな明るさに瞼を刺激され、ぼんやりと意識が輪郭を持ち始めた。いつもの癖で目覚まし時計を見やる。アラームをセットした時間にはまだなっていないようだった。
もう少し寝ていよう、と無意識に考えた脳みそはしかし、いやいやもったいないよ! という心の声に完全にたたき起こされた。そう、もったいないのだ。なぜなら今日は特別な一日だから。バンカラ街という新天地での暮らしを、初めて迎える日だからだ。
さて、ここに越してきた理由というのは他ならない、ナワバリバトルに通いやすくするためだ。
ハイカラスクエアへ旅行に行ったとき、我儘を言ってナワバリ体験教室に参加させてもらったのだが、それがあまりにも楽しかったことが事のはじめ。そして高校を決める頃合いになって、大発展したバンカラ地方が特集された番組を見てしまったことが決意のトドメ。やはり僕は我儘を言って、なんとかこちらの高校に進学させてもらったのだった。
幸い始業にはまだ何日かの猶予がある。この間に少しでも多く遊んでおきたい。
──ともかく、バトルに参加するにはブキを手に入れなければ。カンブリアームズというらしいお店に行けばあるはずだ。………………あるはずだった。
ウキウキで向かった僕を出迎えたのは、「臨時休業」の文字が書かれた掛札と、沈黙するガラス窓の扉。呆然と立ち尽くす僕の後ろを、二人組のイカがナワバリバトルについてらしい話をしながら駆けていった。
あんまりだ、こんなの。今日は特別な一日になるはずだったのに。
肩を落としながらアパートに戻ると、自室の隣のドアの前で、廊下の柵にもたれながらたそがれている女の人がいた。
「お、おはようございます」
朝っぱらからたそがれてるってなんなんだ。ていうか見るからに大人なのに、仕事は? などなど様々な思いが一斉に脳裏をよぎったが、とりあえずご近所さんっぽいから挨拶はしておいた。
「ん。おはようございます……おや。見ない顔」
「昨日越してきました」
「そうかそうか。最近多いんだ、バンカラデビューする子たち。ようこそバンカラへ」
どうやら普通に話せる人ではある模様。改めて背格好を見ると、バンカラの人にしては少し異質な感じがする。パリッとした白いブラウスに、左右非対称の赤いリボン。ボトムスのシルエットも相まって華奢な感じのする体格で、ペン先を模したピアスはその人のことをなんだかとても賢そうに見せた。
「ところで少年、新天地での暮らしが始まったというのに、随分浮かない顔だね。ホームシックかい?」
女の人がにやつきながら訊いてくる。どうやら思いっきり顔に出ていたらしい。
「ええと、ホームシックではないんですけど──」
その人が随分気さくに喋るものだから、ついつい話してしまった。ナワバリバトルをしに来たこと。早速デビューしたかったのに、お店が閉まっていてブキを手に入れられなかったこと。
「ふうん、なるほどねえ」
女の人は少し考え込む風な素振りをしたあと、無言で部屋のドアのほうを見つめた。
「あの……」
「ちょっと待ってて」
大人びた笑顔を見せながら僕のほうを振り返ったその人は、ひらりとドアに向き直り、そのまま部屋の中に消えてしまった。
だいたい五分ぐらい経過しただろうか。待てどうんともすんともいわないドアを見つめるのもさすがに嫌になってきた頃、「お待たせえ、ごめんごめん」と間抜けな声と共に女の人が出てきた。右腕には僕の背ほどにもなりそうな大きさの、金属の道具を抱えている。
「あの、それは」
「ヴァリアブルローラー。ナワバリバトルで使えるよ」
「え、ちょっと」
問答無用で金属の道具、もといヴァリアブルローラーを渡されそうになって、一歩後ずさった。
「……使ってみてほしいんだ。自分のブキを持つまでの仮でいいからさ」
「そんな、申し訳ないです」
「ううん、逆、逆。これは私の我儘だから」
ええ……と小さな声が漏れ出たが、ヴァリアブルローラーは気づけば自然に僕の手元におさまっていた。ここまで言われると、さすがに断るほうが申し訳ない。
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけお借りします。ありがとうございます」
僕がそう答えると、少し下がっていた女の人の眉尻がパッと上がり、そしてすぐに安心したような表情になった。
「ありがとう。……よろしくね」
よろしく、かあ。この人はきっとこのブキをすごく大事に使っているのだろう。借りてしまった手前、とにかく丁寧に扱わないと。
僕はヴァリアブルローラーに目を落とした。黒い樹脂でグリップ性の上げられた持ち手。側面が赤いボックス状のパーツ。そしてローラーと呼ばれるブキ種に特有の、円筒型の本体。ローラー部は以前テレビで見たローラーの半分ほどの長さしかない。その代わり、ペン先を模した巨大なパーツが堂々と存在感を示している。
「それじゃあ、行ってきます」と僕が言ったのと、「もう使ってもらえない」みたいなことを女の人が呟いたのは、ほとんど同時のことだった。
「え、すみません。なんて……」
「なんでもない。少年、たくさん塗ってこい!」
僕の質問はとびきりの笑顔にさえぎられた。今日は特別な一日──と呼ぶにはかなりヘンテコだが、少なくとも忘れられない一日にはなりそうだ。
「隣に住んでたのが人外だった系ボーイミーツガール」。私の好きな言葉です。
このあと初陣は中継がある試合でもなかったのになぜか試合内容全部知ってるお姉さん編とかバンカラマッチ編とかおにぎり編とかフェス編とかフォイル編とかジムに乗り換えて以降戻らなくなった本来の持ち主編とかあるんだよ、きっと