かとかの記憶

宇宙説話 / 15

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katka_yg 2025/06/27 (金) 19:02:27 修正

モビルスーツに魅了された若者

ある若者が地球連邦軍の基地の近くを通りかかると、塀の隙間から偶然に、軍の新型モビルスーツの姿が見えた。モビルスーツの見事な造型は装甲を貫いて輝き出すかに見え、若者は以来、モビルスーツに対して抑えがたい思いを抱くようになった。悶々として夜も眠れぬ日々が何週間も続いたあと、若者はすっかりやつれ果ててしまい、このまま死ぬのならいっそのこと、軍に入隊して、少しでもモビルスーツの近くで死のうと思い、志願の手続に及んだ。前世に奇縁があったのか、若者の少なからずニュータイプ的な素質はニタ研の目に留まり、やがて基地内の研究所で特別な訓練を受ける身分になった。

若者はサイコミュを使った機械操作に抜群の成績を挙げた。胸の裡なる思いはひた隠しにして訓練に励んでいたが、ついに念願の新型モビルスーツの実機試験におけるパイロット候補になると、もはや情念は留めようがないほどに高まった。その夜、若者は格納庫に忍び込むと、静かに待機しているモビルスーツの膝元に近づき、夢に見たあの美しい機体をひとしきり存分に堪能した。そして、コックピットに這い入っていった。翌朝には、新型モビルスーツが格納庫内で無惨なまでに穢されているのが知られることとなったが、パイロット候補の若者の姿は、どこにもなく、コックピットにはただ得体のしれない白いどろどろの粘性体がわだかまっているのが発見されたばかりだった。(宇宙世紀〇〇九〇年頃)

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