空調機に隠れ住む巨大モビルスーツ
サイド六の学校に通う中学生の一行がスペース・コロニーの気象制御機器の見学に出かけた。円筒コロニーの大気循環を補っている送風機の偉容を点検通路から見上げる見学者のうち、一人の少女が奇妙なものに気づいた。
手すりの向こうに見ているものは、数百メートル離れた空隙の彼方にあって回転を続ける巨大な送気ファンとその補助機器群である。その一つが、少女の目にはどうやら、膝を抱えてうずくまる大きな人型に見えてきたようだった。空想的で、他愛のないことながら、彼女はその印象を手早くスケッチに留め、帰宅して後も、紙片を取り出してとりとめない想像を重ねていた。
その夜の夢に、空調機から少女へのメッセージが届いた。それによると、機械はかつて宇宙戦争の頃にスペース・コロニーに運び込まれた秘密兵器の一種であり、現在は空調機に偽装しているものの、本来の姿を表せば全長一〇〇メートルに及ぶ巨大なモビルスーツになる。作戦は決行されぬままに現在も空調機として過ごしている彼は、年月を経て初めて彼の存在に気づいた彼女に、サイコミュ的な感応を通じてこうして呼びかけているのである。
夢を通じて、空調機と少女との不思議な感応対話は数年間続いた。高校を卒業するまえに、少女は空調機の気持ちを励まし、空調機として今まで出来なかったこと、してみたいことをしてみるよう勧めてみた。
夢の便りはそれからやや間があって、最後に届いたメッセージは、コロニーを離脱した空調機は尚、健在にして、現在は太陽系を後に別の恒星を目指す旅路への加速中とのことである。夢の交流で得た精神波の記憶と生体パターンを次の星へと携えていくのだという。
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