スペース・コロニーにサル
ジオン戦争のあと、スペース・コロニーの街々に不思議な少年が現れた。襤褸のような衣をまとって歩く薄汚い風体は戦争難民と思われたから、人は皆避けて通るところ、少年は身軽な身のこなしで道から塀、街灯にまで飛び移り、あっけに取られる人々を見下ろして笑うのだった。
民家や飲食店から食物を盗んだり、あとに汚物を残していくといった苦情が積もり、やがて自警軍の警官に追われることになったが、少年は街路を巧みに逃げ回った。地下道に潜ってしまうと、コロニーの地下に巡る整備通路の網の目の隅々まで知り尽くしていて手に負えなかった。軍のザクが大勢出動した捕物の末、ついに捕らえられてみると、難民の少年と思われていたのは野生のニホンザルであった。
スペース・コロニーに動物の種類は少なく、コロニーの日系コミュニティの人々の中にも野生のニホンザルを見たことのある人はその頃ほとんどいなかった。地球に棲むはずのサルがどうしてコロニーに紛れこんでいたのか、コロニー外壁の真空にまで飛び出していってどうして平気だったのか、そうしたことは、捕らえたところで皆わからなかった。
(サイド六、〇〇八〇年代)
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