かとかの記憶

宇宙説話 / 51

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katka_yg 2025/12/20 (土) 19:42:27 修正

ダーマ上人

金星のスペース・コロニー群とフォトン・バッテリーの列を遡ってその源流に、太陽電池パネルの出力を塞いで堰き止めてしまっているダーマ上人という者がいた。ダーマ上人はその昔、ラライヤ・マンディ事件の時代にレコンギスタしたマン・マシーンの一柱であったが、騒乱の世の鎮定に功あったにもかかわらず、そののちはアステロイド帯の守護に任ぜられ、辺境宇宙に逼塞すること幾世紀にわたった。強大なパワーと知性を有する高徳の上人(オーバーマン)は、一方でまた自恃の深さゆえに宇宙の闇の永久の作業労働の報いなき虚しさを疎み、いつしか怨みを積もらせて、ついには教権に牙をむいた。

底なしにエネルギーを吸い取るダーマ上人の偉大力はヘルメス文書を知る天人(ジェントルマン)の予想も絶し、ビーナス・グロゥブのフォトン・バッテリーの生産は滞り、このままではいずれ太陽系の人類は困り果てるという事態になった。お湯のシャワーも使えなくなる。金星の天人らは語らい、一人の美女を上人のもとに差し遣わした。

褐色の肌の彼女は、歴史上の人類女性の誰よりも美しい。優しくしなやかな、並外れた突然変異(ムタチオン)的な艶姿、天界にあっては天界の安定を危うくするほどの。この危急のとき、道心堅固なダーマ上人の節操を蕩かすものは彼女の愛らしさしかないと思われた。……

祠にむっつりと座り込む上人に美女は言葉巧みに近づいていって、モビルアーマーの装甲ハッチをするすると撫でさすった。彼の頑なな身の守りもユニバーサル・コードで紐解き、解放された内部に這い込むと、操縦座に就いて、あれこれと戯れ始めた。

ハンプティ・ダンプティみたいな形をしたもののことをスペースノイドの間で俗にダルマサンという。こうした、戯れかかる魅力の快さに上人がたまらずに腰を浮かせたときに、フォトン・バッテリーの電源を堰き止めて鎮座しているところから転げてしまったので、太陽系の全エネルギーは再開した。

ダーマ上人は美女の手管に欺かれたことを知り愕然となったが、そのときには遅く、道心も堅い装甲も破れかぶれになってしまっていた。あたら千年の斎戒(ディシプリン)も烏有に帰す……。

美女は逃れていった。(まろ)びつつ、宇宙の星々の間を逃れていく。

ダーマ上人の身は卵殻のように割れて、上人の身の内より這い出ずるダッハーク王の上体が別れて六臂となり、阿修羅となった半身の、肩から生えだす四本の紫色の稲光はたちまち荒れ狂う四頭の大蛇と化し、大蛇は逃れゆく美女の跡を追って宇宙(そら)を覆った。

今や正体を現した黒歴史の怪物の凄まじさ、恐怖は筆舌に尽くせぬ。美女(雲の絶間姫)は、天界のロザリオ・テンに嘆願の手を伸べ、天人達に救いを求め祈ったであろう、泣いたでもあろうが、この任務においてはもとよりその成否にかかわらず、生きて帰ることは決してあるまい。かわいそうな美女でもあった。

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