空に棲む魚の話
歯ブラシには「豚の毛らしい」と補足されている(新)。富野作品では歯ブラシは大事なので読者は憶えておくといい。
商家のあるじキャプランからのバイストン・ウェルの世界についての講義のうち、
空の燐について。夜空には星のように見える「リン」というものについて、迫水は「燐」「鈴」「鱗」の漢字の連想をして、旧版では「鈴」が正しいのではないかという感性を示す。それが好きだなと思っただけ。
完全版では、「鱗(うろこの字)」と思ったときにキャプランとハロウが魚のようなイメージを送ってくる。とくに説明はない。
『リーンの翼』中にあるか忘れたが、バイストン・ウェルの言い伝えのうち、空の燐のまたたきはコモン界より上の界ウォ・ランドンの海を泳ぐ深海魚の鱗の光だという説がある。手元では『オーラバトラー戦記』にその話がある。
『ガーゼィの翼』の巫女ハッサーン・サンは世界をわりと即物的に現象として(物語でなく)捉えていて空の燐のことはエネルギーの塊としてイメージしていた。それも、魂の光の集まりだというが……。バイストン・ウェルの太陽と月とは、燐の大きな塊で、昼の太陽は「太陽」と呼ばない。燐の光という。夜の月は、とくにこだわらずに月と呼ぶことがあり、満ち欠けもする。
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特攻人形のことは、この1巻の序盤でまだ書くことではないけど、ここまでも迫水は日本軍の当時の姿勢態度等がバイストン・ウェルに来て客観的に見えてしまったために、やがて故国である日本との精神的な繋がりが切れがちになっていく。自覚的に、なんとか日本人としての意識を保とうとするが。
のちに続々とバイストン・ウェルに落ちてくる地上人と情報交換するようになれば、ますますその時代認識を補強でき、あの戦争はなんだったか、自分はなぜ死地にやられなければならなかったのかと自問すれば今は異邦の流謫者として正確に説明できてしまう。特攻人形の印象は後にはほとんど忘れるが、微かに微かに留めていて、そういうものを最近ここでは風土と呼んでみていた。ここの通読している間にもわたしは風土なる言葉を全然思い出さなかったので、それはそれで意外だった。