砂の王
『砂の王』は古川日出男さんのプロフィールには載っていないデビュー作品で、ゲームボーイの『ウィザードリィ外伝Ⅱ』を原作にしている。ウィザードリィはコンピュータRPGの古典タイトルだが、漫画や小説化、「ウィザードリィ友の会」のようなファンブック展開ではドラクエ等に遅れた。その一端のノベライズ。
しかしながら、この物語を読み進めるにあたって、ベースとなったゲームをプレイしている――あるいは知っている必要は全くない。
序文を寄せているベニー松山氏によると当時、すでに夥しい数のゲーム小説が出版されているが、単なるゲームのリプレイ、体験日誌にとどまらず文章で物語を語る小説としての最低限の条件に達しているものは少ない。
しかしそこに今、確実に足場となるであろう大きな玉が投げ込まれようとしている。
『砂の王』は間違いなくこの混沌としたジャンルに基盤を築いてくれるだろう。そしてストーリーテラーとしての力に溢れ、研ぎ澄まされた文体の牙を持つこの新鋭らしからぬ新鋭作家・古川日出男が、必ずや自ら踏み固めた足場の上に金字塔を打ち立てると僕は信じてやまない。
と書いてある。ここでいわれる流麗かつ重厚な文体によって綴る幻想物語には、わたしはリーの平たい地球を連想するものがあって、それは『砂の王』が千夜一夜物語のような東方世界を舞台にしているから、だけではないだろう。結局、『砂の王』は続巻が出ることなく終わったが、後に新規に書き下ろしとなった『アラビアの夜の種族』になると、タニス・リーかのような気配はもうない。
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小説家としてあらためてデビューした古川日出男氏の初期の作品には、「マジック・リアリズム」のワードが著書案内にしばしば添えられていて作中にも言及される。ファンタシイ(FT)よりは純文学の作家でマジック・リアリズムを追及する者であるとの売り出しだったようだ。
1960か70年代頃にマジック・リアリズムの作家はフェミニズムの作家とも親和性があった。マジック・リアリズムは日本では定期的に流行語になり、1990年頃に一回復活している。アンジェラ・カーターが亡くなった頃でもある。
ただ、古川作品の作中で実際には、ストーリーテリングの妙技よりは「異能者設定による能力者バトル」のことを言っていると思え、わたしは00年代の初頭で今のところ読み返しが滞っている。