プリズム
タニス・リー作品の日本での認知事情は、翻訳由来からだと1982年からになる。英語の出版物をまめに読んでいる読者がいたら初期のジュブナイル作品はだいぶ出ていてバースグレイブ三部作が完結、入れ替わりに書かれた『闇の公子』が「平たい地球」としてシリーズ化しすでに第三作の『惑乱の公子』まで書かれたところ。
わたしは日本のSF/FT作家では神林長平もたびたび周回している。先日、『プリズム』(1986)を読み返したけど、この連作中「ブラック・ウィドゥ」は闇の城に棲む黒と青の王の部下、青の将魔ヴォズリーフが人間世界に飛来して残虐をはたらく話で、人間に対して慈悲の欠片もない傲岸で横柄な妖魔貴族の美しき佇まいといい、その文体筆致といい読むたびリー(の浅羽訳)を連想する。
神林先生が当時それにインスパイアされてのことかは知らないが、80年代の近い時期にこうした趣味のものが創作受容される空気だけでも想像して面白い。「平たい地球」はいわゆる剣と魔法のヒロイック・ファンタジーの枠に収まらないが、アズュラーンを主人公(主神)とした創作神話ではある。ダンセイニやラブクラフトみはない。
『プリズム』連作は連作の各編に「色」をテーマに掲げていることもあり、タニス姉貴よりよほど色彩表現あふれる。神林作品のFT的要素、妖魔的存在の活躍は直接には『敵は海賊・海賊版』(1983)に遡る。上の、青の将魔ヴォズリーフの名はサガフロ2の「将魔」のネタ元でもある。
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あまりこのスタイルは神林作品には用いられないが、ずっと後になって『猶予の月』(1992)、『ラーゼフォン 時間調律師』(2002)などに幾ばくかの残響が感じられるとも思っていた。それは今度読み返す。