地球再生の物語
汚染された地球にピアー一家が住んでいた。地球塔の遺跡で弟たちは互いに身を寄せ合い、支えあって暮らしていたが、日に日に汚染は強まり、この星に残る最後の人類が死滅を迎えるのも間近と思われた。
歴史の伝えるところによると、地球上にかつて栄えた人類の文明はその繁栄の極点にいたって瓦解し、七日七晩にわたって全ての都市を焼き尽くして世界を終末に至らしめた。終末を生きのびたピアー一家は大気中の毒素を遮蔽した地下壕に住み、地上に出るときは防毒マスクとぼろきれをまとい、殺人的な太陽光線を避けて夜間のわずかな時間に活動する、みじめな生活をしている。一家の歴史では、このような現在の惨状は過去の人類の驕りが招いた罰であり、いつの日か遠い未来に世界は再生し、ピアーの弟たちは許されて再び地上に栄えるだろうと予言されていた。
弟の一人が八ノ地教を信じ、再構成システムのある地下への挑戦を思い立った。ほかの弟たちは、再生システムなんか存在しない、それはただの噂か、あったとしてもとうに風化しているだろうと弟に説いたが、いくら言い聞かされても弟は信じず、弟たちに別れを告げて旅立った。若い弟には希望と、自信があった。塔地下への闇はそんな弟に禁忌の扉を開いた。亡霊の徘徊する地下801階を踏破し、灼熱のヒルトン炭坑の奥底に再構成システムの中枢はあった。
システムのコアに少女が眠っている。まばゆいほどの裸身を、ガラスポッドの中に浮かべて。――待っていたわ、長い間ずっと。弟の脳裏に声が届いた。地球再構成システムの制御を少女の姿をした生体が担っていることは伝説にも語られていない。地球中心核に近いその空間で、弟は、テレパシーで語られる人類の歴史と、地球再生への道のりを聴き取った。その中には『
――ひとりぼっちで、君は寂しくないのか?
と尋ねた。ガラスの向こうで、少女は寂しげに微笑した。それから弟は少女と別れて地上に帰った。システムの発動する地鳴りが遠い哮りのように響き始めていた。
地球再構成システムは千年をかけて惑星の土壌と大気を改良する。その長い年月、ピアー一家は弟どうしで子を作り、数を増やして、子孫たちは再生する大地の上に広がっていった。それから千年の時が経つと、その頃には地球は再び汚染され、荒廃していた。千年前と同じようにピアーの弟たちは互いに争い、殺し合って数を減らし、絶滅寸前に追い詰められていた。
はじめの頃、地上によみがえる植物群の拡大とともに、ピアー一家は住み家の集落を広げ、町をつくった。資材として、燃料として、畑地としてピアー一家は再生していく森を伐採していき、森林の再生と伐採との競争のすえにやはり森林を滅ぼしてしまった。同じように動物や鳥や虫を滅ぼし、産業の発展とともに海を、大気をよごし、その間絶えず一家の弟同士でいがみ合った。弟たちは各陣営に分かれて戦争した。再構成システムの約束する楽園回帰を上回るほどに、ピアー一家の
そして残ったのは、吹きわたる乾いた風……みるかぎりの荒野と、わずかに地球塔の廃墟にしがみつき生きる人々のわびしい暮らしがあるだけ。今も、地球再生の予言は伝わっていたが、千年の不毛な歴史を知る弟たちは、ふたたび再構成システムを求めることを躊躇った。ピアー一家は、人類はついに歴史から何も学ばないことを学んだが、人が学ばないことは、もとより既知の通説であった。その自認は、あらためて世界を滅ぼした後に人の心も蹂躙しつくした。
くり返す愚行、人間が救いようがないこと――は、止みがたいこととして、もはや語らない。必至である。現在をどうにか生き延び、人類の延命のためにはシステムをよみがえらすしかない。
根本的にはなんの解決でもないにせよ。幼い弟の一人が地球塔地下への挑戦を決心し、システム中枢への道を下った。かつて彼の弟がたどった道をたどり、彼はあのガラスの中の少女に会った。テレパシーで語り、教えを享け、愛することと再生の約束を交わした。立ち去るとき、彼はやはり彼女にむかい、
「君は、寂しくないの?」
文中の「八ノ地教」というのは、シーメルの『故郷と八つの地を我らに!……』という、地上再征服思想のこと。