名無しのイカ
2023/04/17 (月) 00:38:01
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(8号の設定だけど)タコボーイはしっかり者の変声期辺りの少年らしいので、明るいけど私生活だらしないイカガールお姉さんのお世話を文句を言いつつもやってあげるイカタコカプを妄想しました。
寝ます。
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凍結されています。
ほう…「うわ酒くさっ!」「ペットボトルぐらいちゃんと洗っておいてくださいよ」とか言いつつテキパキお掃除するタコ君と「だって君が全部してくれるじゃ〜ん」「ねぇ〜朝早いんだし眠いでしょ?もうちょっと寝よ〜?お姉さんのベッド半分貸してあげるからさぁ〜」とか寝起きのとろんとした目でベッドに寝転がったまま溜め息吐きつつ掃除するタコ君の背中を眺めるイカお姉さんですか…
たいしたものですね
文句を言いながらも早朝にお姉さんのお部屋に来てしまうボーイくん
眠気を理由にベッドへと誘うお姉さんイカちゃん
飲酒要素も添えてトラブルフラグの備えも良い
たった数行の会話でこれだけの広がりを持たせるとは超人的なラブコメ愛と言うほかない
今日一日頭から離れなかったじゃないどうしてくれるの
音もなく開いたドアをくぐり、数字が書かれたボタンを押す。ドアが閉まります、と機械的な声が狭いスペースに響き、分厚いドアが閉じる。一拍置いて、鈍くこもった機械音が鳴り始めた。たった四階だ、数秒で箱は動きを止めた。機械音声とともに、自動ドアが開く。物言わなくなったそれから抜けだし、少年は廊下を歩む。道の突き当たり、角部屋のドアの前に立つ。リュックから鍵を取り出し、ノブの穴に差し込む。軽く回せば、ガチャリ、と重い音が光差し込むコンクリートの世界に響いた。鞄たちを抱え直し、少年は部屋に入った。
カーテンが閉められた室内には、電灯を点けずとも惨状が広がっていることが容易に分かる匂いが立ちこめていた。アルコールと砂糖の匂いに、ほのかに香水が香る。慣れたはずの悪臭だというのに、思わず酒くさ、とげんなりとした声を漏らした。
脱ぎ散らかされた服と転がる缶、雫残るペットボトル、油汚れが残るプラスチック容器が散らばる床をそろりと進んでいく。そうでもしないとゴミを踏みつけてしまうほどの荒れようだ。わずかに残った足の踏み場をつま先立ちで渡り歩き、少年は窓へと近づく。二重になったカーテンに手を掛け勢い良く開いた。シャ、と軽い音とともに、薄闇に包まれた部屋は光に満たされた。
そのまま窓を開け、少年はゆるりと振り返る。陽光差す部屋は、相変わらず凄惨な有様をしていた。はぁ、と溜め息を吐き、来た道を慎重な足取りで戻る。玄関へと向かい、ブーツやパンプスが詰め込まれたシューズボックスの中から、大容量のビニール袋とほうき、地域指定のゴミ袋を取り出した。部屋に戻り、ビニール袋に、プラスチック容器、缶、ペットボトルを別々に放り込んでいく。捨てる前に洗わねばならないし細かい分別もしなければならないが、そんなのは後回しだ。今は床が見えるようにするのが最優先である。
んぅ、と寝惚け声が窓辺からあがる。ゴソゴソと布が擦れる音。しばしして、窓際の丸まった影が形を変えた。
「……あ~、おはよ」
少年の姿を見とめ、布団の主、そして部屋の主である女性はにへらと笑った。昼は透き通り輝きに満ちた色を見せる瞳は、今は眠気でけぶっている。はつらつとした声も輪郭が曖昧になっていた。
「おはようございます」
手を止めることなく、少年は短く返す。この部屋に足を踏み入れた時点で、彼の最優先事項は『掃除』になっていた。家主への敬意――そんなものはとうに消え失せているが――など二の次である。まだ幼さ残る丸い目は、ゴミが除かれはじめた床へと向けられていた。
「今日も早いねぇ。眠くない? もうちょっと寝よ~よ~。ベッド半分貸したげるからさ」
ふにゃりとした声で良い、女性は枕を抱えるようにヘッドボードへと身を寄せる。掛け布団は君のね、と空いた下半分に柔らかな羽毛布団を追いやった。彼女の言う『半分』は、ベッドを正方形に分けた状態を指すらしい。
「もうすぐお昼ですよ。眠くなんてありません」
硬い少年の声に、そ~ぉ、と疑問形のやわこい声が返される。毛布の端から腕が伸び、白い指が枕元の携帯端末を捕まえる。しばしして、ほんとだぁ、ととけた声があがった。
「さっさと起きてシャワー浴びてきてください。もうすぐ掃除終わりますから」
燃えるゴミをまとめた少年は、じとりとした視線をベッドへと向ける。はぁい、と存外素直な言葉と毛布が擦れる音。ぺたぺたとようやくまともに姿を現しはじめた床を歩く音が続いた。
ざっくりと分けたゴミと洗濯物の山を部屋の隅に押しやり、少年はキッチンへと向かう。毎度ながら、ここも大層な惨状だ。缶と瓶を分け、水切りかごの食器を拭いて片付け、水に浸された食器を洗い、水垢浮かび始めたシンクを掃除し。テキパキと作業を進め、あらかた片付けたところで手を洗い、持ってきたエゴバッグに手を入れる。取り出したのは、行き道で買ったクロワッサンだ。小ぶりなそれを数個トースターに放り込み、フライパンをコンロにかける。冷蔵庫から先週買って置いたままの卵を取り出し、ボウルに割ってかき混ぜ、油を敷いたフライパンに注ぎ入れる。ガシャガシャと適当にかき混ぜ、きちんと火が通ったところで等分して皿に移した。ケチャップをかけていると、トースターが高い鳴き声をあげる。バターの香りが一層増したパンを取り出し、卵の脇に置く。二人分のそれを手に、少年は部屋へと踵を返した。
クロワッサンにスクランブルエッグ、インスタントコーヒー。シンプルな朝食兼昼食を前に、少年と女性は手を合わせる。いただきます、と短い合唱が随分と広くなった部屋に落ちた。
「やっぱり君のご飯は美味しいね」
「あのパン屋が美味しいだけですよ。俺は卵を焼いただけです」
「え~? 火の通り具合とか味付けとかちょうどいいよ? やっぱり料理上手だよ」
笑いながら、スクランブルエッグを一口食べる。美味し~、と嬉しげな声があがった。料理人は何も言わずクロワッサンにかじりつく。小気味よい音があがった。
ねぇ、と女性は少年を呼ぶ。あれだけ曖昧な輪郭をしていた声には、常通りの芯が通っている。すっかりと目を覚ました様子だ。
「やっぱ一緒に住まない? 家賃と食費は全部私が持つからさ」
「嫌です」
小首を傾げて問う女性を、少年はバッサリと切り捨てる。え~、と不満げな声があがった。それもどこか愉快げだ。
「俺には住み込みの家政夫なんて無理です。ていうかちゃんとプロを雇ってください」
「知らない人より君の方がいいよ」
「俺も十分『知らない人』でしょう」
少し遅くなった帰り道、薄暗い駅のホーム。赤ら顔した彼女に声をかけられたのが全ての始まりだった。私もこっちなんだよね~、と笑いながら正反対の方向に向かおうとする女性を適切な路線に乗せ、降りてすぐ乗りもしない電車のホームへと向かう足を改札口へと向かわせ、すぐ近くなの~、と改札へと戻ろうとする手を引いてアパートへと送り届け、そして部屋の惨状に目を奪われ。気がつけば、光差し込む部屋の中、ゴミ袋の山を作り上げていた。
翌週も駅で出会い、あの惨状が不安になって尋ねれば言葉を濁され。また掃除し、また出会い、掃除し、出会い、掃除し。いつの間にか合鍵を渡され、週末彼女の部屋を訪れ掃除する日々を送っている。
よくやるものである。我ながらバカだ。己を嘲りながら、少年はフォークで皿を浚う。仕方無いのだ、もう見放せる段階はとうに過ぎてしまった。こんな惨状など見過ごせないのだ。言い訳を頭の中で並べ立てる。幼い脳味噌を言い聞かせるには十分だった。
「私が『知らない人』に合鍵渡すように見える?」
「渡してるじゃないですか」
「だから、もう『知らない人』じゃないんだって」
ね、と女性は少年の名を呼ぶ。柔らかく温かな音色に、彼は思わず眉をひそめる。まろい輪郭をした頬にうすらと朱が差した。
ごちそうさまでした、と手を合わせ、少年は皿とフォークを手にキッチンへと向かう。はやっ、と笑い声が薄い背に投げかけられた。部屋を出、物言わず食器を洗う。彼女の分の食器を洗ったら、掃除の続きをしなければならない。最近ようやくきちんと資源回収に出すようになってくれたのだ、このまま習慣づけさせねばならない。さすがに資源回収の日まで訪れるほどの余裕は無い。
もし余裕があれば、自分はそこまでして彼女の世話をするのだろうか。ふと疑問が頭をよぎる。するんだろうな、と諦めの声を脳内であげ、少年は食器を水切りかごに入れた。
ごちそうさま、と後ろから声。振り返ると、そこには食器を持った女性の姿があった。お粗末様です、と返し、少年は大きな手から食器を受け取り洗い始める。私がやるのに、と拗ねたような声に、小さく溜め息を返した。
「ペットボトルすら洗わない人が何を言っているんですか」
「最近は洗ってるよ? キッチンにある分は洗ってあるよ?」
たしかにキッチンに転がっていた分のペットボトルはキャップが外され、中身も綺麗になっていた。ペットボトルぐらい洗ってくださいよ、と常々言っていたのがようやく実ったようである。達成感とともに、なにか冷たいものが胸に落ちる。訳の分からないそれに小さく首を傾げながら、少年は洗った食器をかごに入れた。
「いつもありがとね」
「……別に」
俺がやりたくてやってるだけですから、と返し、少年はまだ水気まとう食器を拭く。ありがと、と今一度礼を言い、女性はキッチンを出て行った。
そうだ、やりたくてやっているのだ。でも何で。見捨てておけないから。知らない人なのに。合鍵をもらっているのだから。勝手に渡されたのに。それでも。頭の中で問答が繰り広げられていく。ふるふると頭を振り、少年は食器を片付ける。余計なことを考えていないで掃除の続きをしよう。さっさと終わらせナワバリバトルをしたいのだ。
少年はまた溜め息をこぼす。大きな足がぺたぺたと床を歩き、部屋へと戻っていく。小さな身体は、ペットボトルのラベルを剥がす女性の下へと寄せられた。