「現代において傾斜装甲は無意味」というのがまず間違いで、実際に,砲弾の試験では傾斜した複数枚の装甲からなる標的もあり、装甲の傾斜は依然として配慮が必要な対象であるのは間違いない。
>基本的にAPFSDSは直進するように思われます
これはその通りで、厚くて均一な鋼板の内部では、論文とかシミュレーションとかみてても概ね直進する。あとは,厳密には入射時にも若干食い込むような動きを見せることもあるがほとんど無視できる。但し、射出時には斜めに進み姿勢を崩すことがある(後述)
>見かけ上の装甲厚のかさ増しや、形状を少しでも球形に近づけることで単位容積あたりを囲むのに必要な装甲板を減らすことができるという利点は未だ有効なのではないでしょうか?
大戦期の戦車で装甲を傾斜させるのは,天板の質量を省く効果より、同じ見かけの厚さでも防御力が向上することを狙ったものだと思う。これは,従来型の徹甲弾では傾斜があると弾が外側に逃げる動きをして(跳弾とは異なる)、視線方向の厚さ以上の防護効果をもたらすため。ところが、APFSDSの場合は出口側で最も薄い方向に抜け出す動きをするので、傾けると視線方向の厚みに対して実効的な厚さが減ってしまう(図)(この斜めの力で姿勢が崩れる)。更に、薄板は打ち抜く破壊モードが起こりやすくなり、プラグ状に打ち抜く破壊モードに弱いセラミックスと相性が悪い。枝2の言う複数タイルが割れるというのも相性の悪いポイントの一つ(但し10式は衝突時の熱と圧力で割れたタイルが再生するとかいうので当てはまらない可能性あり)。ということで、セラミックス装甲 vs. APFSDSの組み合わせにおいては,傾斜させると害が大きい。
>形状を少しでも球形に近づけることで単位容積あたりを囲むのに必要な装甲板を減らすことができる
セラミックスは自在な形状にするのが難しく極力単純な形状にしたい。例えば10式は防盾周りの複雑な部位は防弾鋼で出来ている
>最新鋭MBTの装甲には再び傾斜装甲が取り入れられています
どの戦車のどの部位の装甲を想定しているのかは分からないけど、いわゆる伝統的な傾斜装甲ではない可能性には注意が必要だと思う。ERAやNERAは砲弾の軸に対し横から力を加えるために、原理上傾斜させないと意味がないから傾けてる。あと,ガワの表面が傾いていても、ただのカバーである可能性にも注意が必要
取っ散らかっていたので補足
まず、装甲は想定する対象との組合せで傾斜の効果が変わってくる
A. APFSDS vs セラミックス:先述の理由から傾けない方が良い
B. APFSDS vs 防弾鋼板:抜かれること前提なら、傾斜装甲にすると抜けた後の弾体の姿勢を崩せる。抜かれないことが目的なら垂直が良い
C. 従来徹甲弾 vs 防弾鋼板:傾斜させると見かけの厚さ以上の防御力を発揮する
D. APFSDS vs NERA/ERA:傾けないと効果がない
E. ただのカバー vs 草木:傾けた方が立木や草の排除には適してると思う。あとデザイン性
この他、傾斜させる理由には次のものがある
F. 製造を容易にする:一般に薄い方が製造難易度は低い。よって見かけの厚さが同じなら傾斜した薄板の方が製造難易度は低い。しかし現代だと、防弾鋼板は、製造技術の向上・生産数が少なく生産性の要求が弱いことから利点としては弱い。セラミックスは複雑な形状にするのが難しいのでかえって製造難易度が上がる。
G. 天板の面積を減らせる:確かに内部容積一定なら傾斜させると天板面積が減らせる。でも、有効に使える容積一定の条件下では差は縮むし、最大幅は増大する。ということでどの時代でもこの効果は求めてなかったんじゃないかなぁ?(フワフワした表現)特に側面装甲は、あまり傾けると最大幅が広がって鉄道輸送上の制限に引っかかってしまうし立木・岩等にも引っかかりやすくなる。現代だと,前面装甲がずば抜けて厚いので多少天板や側面装甲を減らしてもほとんど誤差だと思われる。ただエイブラムスの砲塔正面は、NERAの都合もあるかもしれないが多少側面装甲の削減を意識しているかもしれない?

H. 正面装甲の高さを減らせる:K2とかで顕著だが、砲塔天板を大傾斜の傾斜装甲とすることで正面装甲の高さを減らす効果を狙ったケースも。重量低減効果は割とあると思われる。但し、K2なら突出した砲の部分は弱点になるし、多少上からから撃たれたら簡単に抜かれそうでちょっと不安ではある(個人の感想)。実際、90式プロトタイプでは類似の配置になっていたが、最終的な配置はご存じの通り。多分理想的な状況以外では不利な点が多いんじゃないかなぁ?
ということで、
・「現代において傾斜装甲は無意味」というのは誤り。上記Bの抜かれる事前提のケースでは斜めにした方が良い。また、一般的ではないがHも現代の傾斜装甲と言えるかもしれない
・一方で、従来の利点の多くは技術・材料の変化等で無くなった/欠点が目立つようになったのも事実
整理ありがとー。Hは多分自分が出した話だけど、MarderとかBMPとかのフロントエンジンな軽装甲車両の車体前部上面の話をしていて、Cに相当するのかな。
T72シリーズ車体正面は薄い鋼板と空間装甲のミルフィーユだけどBを狙ったのと鋼板を抜いた瞬間に圧から解放されて弾体にダメージ与えるのが狙いらしい。大傾斜必須だから砲塔は採用してない
傾斜と戦車砲のAPFSDS防御の関係主眼で書いていたので記載してない要素は結構あります… ↑↑あのクラスの小口径機関砲防御組はC+H+跳弾+操縦席の下方視界確保の一石四鳥って感じじゃないかなぁ…しかし実厚11mm、視線方向45mmの装甲が70mm以上の効果を発揮するのすごい (小並)