カオスドラマX

Gray Traveller / 531

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わったん 2026/03/08 (日) 20:14:00 >> 529

「ラ・セナ。今年の冒険を聞かせてくれるかしら」

「私も聞きたかったんだ。娘達も聞きたがっている」

クリスタルの慈光の中、穏やかな表情の家族に囲まれたラ・セナ。

「いいわよー!カトゥリゲス鉱山のプリンみたいなぷるっぷるの嫌がらせみたいに置いてあるトロッコの話」
「ゴブリンの壁のオチューのうざったいレベルで性格悪いドクロ仕掛けの牢屋の話」
「それとも、キノコの森のクァールの髭ぐらい長い最深部に居るくっさーい魔物の話?」

石段に腰かけたラ・セナは、旋律に併せて身体を左右に揺らす。
彼女の周りには、未知なる外の世界に憧れる人々が絶えなかった。
冒険譚を語る旅人。俺達もそうだ。思い出を綴り、心でも目でも読み返す。

「どれも気になるけど、更に楽しそうな冒険はないかな?」

「もー贅沢ね!」
「それじゃーティパの村であったレイスの透明感を纏ったような裁縫屋の技術の話でもしてあげる!」

ただ、彼女は少し異なった。
その物語を言葉として綴るのではなく

「~♪」

「唄」として、魂を乗せて紡ぐ。
その唄声は、自由の象徴である彼女の声として夜空に輝くクリスタルの中へと浸透していく。
希望に満ち溢れた空間の中で、俺達クラヴァットの心を盗んでいく。
同時に、旅路で得た心地よい昂揚を、消えない思い出として定着させていく。

「あぁ……」

ラ・セナの歌声に乗せられた冒険譚に、感動という感情を自然と雰囲気で表す一家。
彼らにとっては、数少ない旋律の一つなのだろう。
俺は常に、彼女の唄を冒険の幕間で聞き続けていた。
特別感、という意味合いでは、それは薄れていたのかもしれない。
だが、その唄声から感じる安心感は、いつ迄も俺の思い出の一部であり、
彼女の唄に酔いしれる村人とは異なる感情を秘めていたのも事実だ。

「♪」
「……どうかしら?」

「ティパの村の装飾もまた、冒険心をそそる山間のせせらぎですね」
「いつかティパへと赴き、羽根の装飾をお土産にしたいです」

「ギルに余裕あったら買ってもよかったんだけど」
「ふふふ、そうね。いつか瘴気のない世界になったら、見ることが出来るわよ!」

途方もない夢物語を、彼女はこともなげに放つ。
だが、希望の唄を乗せた彼女の言葉は、夢のようであって、きっといつか訪れるんじゃないかとさえ思える程に、
自由を乗せていた。

「まぁ今に見てなさいって。例え瘴気が晴れなくても」
「私が幾年にも及ぶ冒険の大傑作を歌に乗せて、あなた達に届けてあげる」
「そしたら、あなた達は楽しそうに踊りなさいよ!」
「なんたって私は希望を持ってくる最高のセルキーなんだからね」

「希望を盗んでくる、ということでしょうか?」

「人聞き悪くない?????」

自分の感情に素直で、人の感情にも素直で、
柵なき風のような人だった。
キャラバンとして冒険している時も、ティダの村の一員としている時も、
俺はあらゆる彼女の素を、美しく思えた。
それは俺達キャラバンが与えられた使命の重圧から解放してくれるような、
旅を楽しくしてくれる安心感があったから。
だからこそ、護っていきたかったんだ。俺の仲間が枯葉に乗せた鼻唄を、俺は好きである事を。

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