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ソードオフ・ポップ・ロック・メモリー

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――――「ほんの少しだけ前の、昔話」

――――「……いや、思い出話だな。『私』がろくでもない真似して、ろくでもない目に遭っただけの話だよ」

不定期更新。
ドラマほんへ前時系列。
SS形式なんで参加とかは想定してないんですがもし参加したいって物好きな方が居られましたら一報ください

※青少年のなんかには全く配慮してないです。
不健全、不愉快な描写があると思うので苦手な方はお気を付けください。

日本語がおかしかったり辻褄合わない所見付けたらDiscordのDMとかでこっそり教えてください。

ngtk
作成: 2025/02/24 (月) 18:54:23
最終更新: 2025/02/24 (月) 18:54:34
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1

―――――重金属と化学物質で汚染された、独特で不快な臭いを放つ濁った雨が降り注いでいる。

本来、上層のビルと道路の基礎部分で蓋をされたこの『地の国』地下都市には、雨が降らない。国の中心部にある、上層と繋がる天窓の下以外には。

今私が居る、この下層の僻地で降っているのは、汚染された排水と蒸気が天井に溜まり、それが降雨の様に振り続けているものに過ぎない。
天井の形状も影響して、この一帯は定期的にこんな雨が降る。
汚くて、臭くて、身体に悪い雨。肌に触れれば痺れ、痛む。

そんな雨に紛れ、人目を避けながら、私……『ラウニ・レア・ルオデネン』こと『トルニ』というろくでもない女と、
もう一人の、髪も背も長い女……『ラトニカ』というらしいそいつが、分厚く不格好なレインコート姿で歩いている。
実に嫌な雨だが、叩き付ける様な強烈な勢いが幸いして、響く音が路地を歩く私達の姿と音を上手く掻き消してくれていた。

建物の傍を、路地を、人目を避けながら歩き続け、数台の自動車が傍に停められたモーテルの前で足を止める。
見えるだけでも、壁にはひび割れが入り、割れたまま放置されたガラスまで見える。
余程の事が無ければ、泊まろうとは思わない。そんな、粗末なモーテルだった。

「此処だな……『お姫様』が居るってのは」

2

見れば見る程哀れな風体の建物へと目を向けながらそう呟いて、
軍用レインコートのフードを目深に被り直す。

間隔を空けて真後ろに着いて来ている今回の仕事の相方に向かって振り向く。

「間違い無いですねぇ……丁度、角の向こうで堅気でも公僕でもない警備が立ってますし」

これから始める事と釣り合わない、間延びした声。
だが、ここからでも彼女の言う通り、角の向こうの人物が提げているであろうライフルの先端だけが見える。
見えているのは銃口だけだが、それでも持ち主がまるで警戒をしていないのが見て取れた。
あとは、人数。近くに誰かが居るのなら、不用意に手を出したくはない。
そんな私の考えを見透かす様に、ラトニカが一瞬だけ角の向こうに顔を出した後、私に口を開く。

「うん、一人ですね。の~んびり、もたれ掛かってるみたいですので、やっちゃいましょうか。景気よくいっちゃってくださぁい」

「そうか、なら……丁度良い、私がやるところ一度見たいって言ってたな、早速片付けて来るよ」

駆け出し、左手を腰へと伸ばす。ナイフを鞘から抜く。逆手に持ち替える。
足音は、雨音で搔き消える。
角を曲がり、その向こうで壁にもたれる人物を見る。

3

一人の、焼けた肌の男だった。その目が私を捉えて四肢が反応するよりも速く、
その喉に、ナイフを深々と突き刺す。
刺さった刃を捩じり込み、男の足を払い、体勢を崩して路地へと引きずり込む。

視界の悪い中、一瞬でここまでの動作に成功した。誰にも見られてはいないだろう。

せめてもの抵抗か、バタバタと四肢を暴れさせるその男と目を合わせ
……男の眼球があらぬ方向を向き、四肢が動かなくなるまでの、そのほんの僅かな時間を見届け、
その喉からナイフを引き抜き、ついでに男の体で刀身を軽く拭く。

「ほら、まず一人だ。仕事とあと……色々?教えてくれるんだって?頼むよ。ラトニカさんよ」

先程まで私の後ろに着いて来ていた…今は私と一緒に男の顔を覗き込んでいる、彼女…ラトニカに向かって私はそう言う。

「おお……思ったよりずっと手際が良いですねえ、本職は運転手で、こういうのは専門じゃあないとお聞きしたんですけど……」

どうやら彼女にとって、さっきの動きの評価は悪くはないらしい。

「足の払い方と言い、ちゃんと動き方が頭に入ってます、でも他にも良いやり方を知ってるので……そうですねえ」

少しだけ考え込んだ様子の後、「そうだ」と何か閃いた様で、ラトニカが続ける。

「じゃあ、次は私が片付けましょうか。私が先導するのでちゃんと付いてきて、あとちゃんと見ててくださいね。一回で分からなかったら何回か見せますし、質問があれば聞いてくださいね」

まるでアルバイトの新人研修かと勘違いするような、
相変わらず間延びした軽い口調と胡散臭い笑顔を見せて、ラトニカが返してくる。
緊張感の欠片もない、表情と声。どこか無邪気にすら感じるそれと、
私の手元で糞の袋と化した男の対比に、気味の悪さを覚える。

……そう、私は今、このラトニカという女に殺し方と戦い方を習っている形になる。
火遊びの加減を間違えてギャングに拉致され、売春宿に叩き込まれそうになっている、
そんな哀れな”いいところ”の娘を連れ戻し、
加えて、可能な限りギャング達を殺して回るという厄介な仕事を”研修場”として、だ。

……こうなった切欠、それは……20時間程前に遡る。

4

「……ちょっと待ってくれ、ソコル達と…イョアン兄弟まで殺されたって?後は私と…知らねえ女一人だけ…?」

「さっき言った通り。南国の道路の真ん中で車が爆発、残骸からソコルと他4名の死体が上がった。こいつらについてはそれで終わり。」

「それと、”知らねえ女”って言い方は良くないわねぇ、この私が態々使えるのを見繕ってやったのよ?”あの”マイテイの生き残りを」

広めの間取りに、シンプルながら質の良さを感じる調度品が揃えられた一室。
突然の仕事仲間の訃報を耳にし、呆然とする私の前で、目の前の女は事も無げに言葉を紡ぐ。

屈強な男を側に立たせて堂々とベッドに腰掛けた、
右目を眼帯で覆った、化けた狐の様に冷たくも端正な容姿のその女……
ギャレット・ファミリーの大幹部たるヴァリーレが、長い赤髪を揺らし、
右目が眼帯で覆われているものの、残ったもう一つの眼で私を見つめながら、へらへらと笑う。

「ここでの実績も数としては少ないけれど、かなり腕は立つのは保証するわ。で、これ以上何を求める?女二人でクズ共相手に仕事に行くのは寂しい?」

まるでトラブルにもならないとでも言いたげに、私の前でさらに言葉が続く。

「腕の立つ奴が居れば簡単な事でしょう?北の田舎マフィア共がうちのシマで”いいとこ”のお嬢様を拉致して、遥々地の国まで連れて行きやがった」

ヴァリーレが指先をその方向へと向け、「だから」と続ける。

「そいつらの詰めてる拠点からお嬢様を助け出して、ついでに出来るだけ連中を殺してくれ…ってだけ。短くて簡単な良い仕事じゃない」

寂しいというか、それ以前の問題だ。私をなんだと思っているのか。
大勢の人間と殺し合えと言われているのに、信頼できる5人が顔も知らない1人になる。
更に私の専門は運転手。戦闘の腕については、残念ながら専門家には遠く及ばない。
とは言え、目の前の相手は中堅とはいえ老舗マフィアの大幹部。
私の事情も良く理解している筈の相手にそこまで正直にも言えない。
先程口から少し漏れたが。

「……いや、あんたが言うんなら間違いないんだろう。さっきはちょっとビックリしただけだ。で、この女は今どこに居るんだ?なんなら今からでも出発しなきゃならない、急ぎの仕事なんだろ?」

携帯電話に送信された、囚われのお姫様の画像データを指差しながら眼前の依頼主に向けて聞き返す。
一昔前は、全て写真を渡していたのだろうか……そう、下らない考えが頭に過る。無意識下の現実逃避だろうか。

「急いでるよ。ウチのシマで薬を捌くような連中なんだ、カタギのお嬢様拉致った後何するかなんて、悪い方に簡単に想像が付く。ああ、あと紹介した女なら……ずっとそこに居るよ」

ヴァリーレが事もなげに言うと、私の後ろを軽く指差す。
まさかと思って振り向くと、如何にも陰気で無口そうな印象の、前は目が隠れ、後ろは背中まで伸びた長い髪の女が直ぐ後ろに立っていた。
……この部屋に入って来た時には、確かに居なかった筈。
ドアを開ける音も、足音も何も聞こえなかった。
何も認識できていないまま背後を取られていた事実に、怖気が走る。
この女が私に敵意を持っていたら?考えただけで、背筋が冷える感覚がする。

私の動揺を知ってか知らずか、その女が口を開く。

「ご紹介に預かりましたぁ、マイテイ人のラトニカ・フェルミと申しますぅ……もしかして殺しはあんまり得意じゃないんですか?でしたら教えてあげられますよぉ」

へらへらと笑顔を浮かべ、私に向かって右手を差し出しながら、そう言った。
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5

―――そんな事を思い返しながら、男が持っていたライフルを手に取る。
プラスチックの外装は見た目以上に軽いが、
それよりも驚いたのは目立つ傷が無い。見える範囲で、まるで劣化が無い。

機関部のチャージングハンドルを少しだけ引いて、チャンバーの動作を確認する。
スライドは滑らかに動作し、ハンドルを戻すと小気味のいい金属音と共に、薬室の弾丸とスライドは綺麗に元の状態へと戻った。
今度はストックを肩に宛がい、グリップを握って軽く構える。
それだけでも分かる程剛性が高く、ガタつきの無い銃身。
まともな環境で品質を担保して製造され、最近卸されたばかりの品物に違いなかった。
こんな場所でギャング風情がぶら下げているには、余りにも分不相応な品ではないか。

「軍用の小口径高速弾に、動作の切れの良さといい、”専門家”に卸される系列の品ですね……光学照準器まで付いてる。こんな場末の下っ端が持つには些か上等すぎる品な気がしますねぇ」

いつの間にか、私の手元のライフルに頭を近付けていたラトニカが呟く。
そう、本来、こんな場所を歩かされる下っ端に、高価で高性能なライフルは贅沢過ぎる。
示威行為として銃を持たせるなら、安物の散弾銃でも十分だ。

「他所のシマで薬捌いてる様な連中だ、無駄に金だけ持ってるんだろうが…」

つまりは、彼らにとってこの銃は劣悪な環境で見張りに持ち出せる程度の代物であり、
そう扱える程度にコネクションや予算を持っているか、
それとも、物の価値も知らずにただぶら下げているだけの、くだらない連中か。

どちらにしろ、バックの組織が居るのは想像に難くない。
だからこそ、ヴァリーレもファミリーの人間ではなく私達を使ったのだろうが。

「んーまあ、きな臭くてもやる事は一緒ですし……それよりラウニさん、随分銃の扱いに慣れてますね?もっとこう、いかにも素人崩れって感じだと思ってましたが。実は軍に居たとか?」

ライフルのチェックを続ける私に向かって、ラトニカが今度は私の顔面に顔を近付けながら口を開く。至近距離で、目を覗き込むように。私を見定める様に。