カオスドラマX

Gray Traveller / 725

725
わったん 2026/08/23 (日) 19:55:19 >> 721

目を細め、絵画に触れる。

「記憶というものは、本来ならば脳裏に刻まれた像であり、過ぎ去った時間の断片に過ぎない」
「失えば、二度と取り戻せない」
「少なくとも、そう思っていた」
「だけど、なんなんだろうな」
「名前も顔も、共に過ごした時間を知らなくても」
「この子がどれ程大切な存在だったのかは、わかる」

「なんとも儚く、それでいて力強い意思を感じるとは思いませんか」
「そんな彼を私のキャンバスに描く事が出来たら」
「どれ程の傑作が生みだされたのでしょうか」

ドルドインはそう言いながら、絵画を見つめていた。
その瞳に浮かんでいるのは、芸術家としての純粋な渇望だった。
羨望とも違う。憧憬とも違う。
自分の中には存在しなかった色彩を見つけた者が、それをどうにか自分の作品へ取り込もうとする、抗いがたい創作欲。
点によって世界を描いてきた男にとって、ユンフという存在はあまりにも異質だった。
彼は、点ではなく線を残した。
そしてその線は、過去から現在へ、記憶から感情へ、そして一人の少女から、今ここにいる誰かへと伸びている。

「……」
「ドルドイン」

「なんでしょうか」

「ユンフなら、この肖像画を持って帰るだろうか」

視線だけを、差し出した肖像画へ落とすドルドイン。

「私達薬指に、自分の芸術を具現化させたものを提示してきたのです」
「恐らくですが、彼は既に心に少女の絵画を持っているのでしょう」
「形としてこの世界に残したのは」
「先ほど貴方が形を持たないといった軌跡に色彩を添えるため」

「……は……なんだ、そりゃつまり……」

「惚気ですね」
「『愛情』の付随した芸術は、非常に繊細でありながら、堂々たる完成度を有しています」
「ユンフが描いた芸術は、自身の成したい事や、根底にある感情を率直に表現しているのです」
「だからこそ、これを手元に残すのではなく」
「彼女を愛した思い出を、此処に残すことを望むと私は解釈しています」

「……」

「利己的でありながら、他者には代替出来ない輪郭です」
「誰かを愛したからこそ描けた」
「誰かを想ったからこそ残せた」
「この一点そのものは、彼だけが描く芸術です」

「……」

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