・概要
当報告書は、ハバロフスク連邦内に居住する人類に類似する種(以下極東亜人類と呼称)に関してその遺伝的・進化的ルーツを解明する共同研究についての結果と研究の推移に関する報告を纏めたものある。
また、本報告書では「ハバロフスク連邦周辺地域に居住し、認知的に人類と類似するが生化学的特性に顕著な差異を示す集団」を極東亜人種と定義し、ハバロフスク以外で確認されている龍種や鬼、サンクタなど現実的に存在し得ないが記録されている人型存在(以下異性体)とは別とする。
・研究の背景
人類史上、各地では稀に異性体が確認されることがあり、各国で大きく研究が進められている。しかしこれらの異性体は、絶対数が少なく中には研究が禁止された種や絶滅したとみられる種も存在し、亜人種のルーツの解明、人類種との関連の解明は難航していた。
そんな中で、 イベリア・ハプスブルク帝国(以下帝国)の医療・福祉のリーディングカンパニーであるラモン&セベロホールディングス(以下RASH)を構成する一つ、ウィルモット・バイオテクノロジーズ(以下W・V)の生命構造課のエウラリオ・ルシアノ・ダボ・モレノ主任(以下エウラリオ主任)は、ハバロフスク連邦固有の極東亜人種が古くから人類と共存し国家を形成してきたことや亜人種としては世界最大規模であることに目をつけ、エレナ・ニーナなどとの共同研究の実施を上層部へと提案。25年8月21日より調査隊が現地入りすることとなった。
・研究の目的
①生物学・進化学的意義
人類進化の「分岐」や「並行進化」を明らかにする。また構造を解明し医療・薬学・生体工学など様々な分野の知識をアップデートし、さらなる発展を促す。
②社会・倫理的側面(ENの要望により)
“彼らを「人間」と同等に扱うべきか、それとも「別種」として法的枠を設けるべきか“を定義して亜人種との倫理・法・人権の境界線を明確化して、社会統治AIのアルゴリズムを改良する。エレナ・ニーナ・アジア側の要請によりテミス・システムのアップデートも要件に組み込まれることとなった。
③社会・文化的意味
人類の中に見られるアイデンティティが、亜人種にも存在するのか。亜人種が単独で国家を形成したり、独立を勝ち取ろうと動く可能性など。
また、亜人種の文化や社会における立場などの調査。
・極東亜人種に関して(歴史)
極東亜人種が最初に確認されたのは、各国の保管する文書を整合した情報によれば紀元前500〜700年頃の東アジア圏において突如発生した倭人の大移動※¹による、中国東北部や極東シベリア地域での日系国家の原型の成立が始まる中、シベリア地域において、日本人と東スラブ人、妖怪とともに現在のハバロフスク連邦の原型を形成したという記述が見られる。
なお、妖怪と記述がされておりこの妖怪と極東亜人種との関連性は不明。この妖怪をルーツとして現在の極東亜人種が生まれた可能性もある。
現在のハバロフスク連邦において人類種と極東亜人種の両者に文化的な差異は見られず、長い共生期間により人類種側への同化が進んだ結果であると考察されている。
しかし、強化外骨格と呼ばれる歩行兵器が同国で開発され、1950年代の統一内戦で使用されて以降同国を代表する兵器となっており、こうした独自の兵器体系は他国では見られないことから極東亜人種の影響を受けたものかもしれない。(原型は第二次世界大戦中に存在したようである。環境などが影響した可能性はあるが、同じような環境にある国にも採用例は見られない。)
また、統一内戦においては軍部側が生物兵器(呪術に属するもの)や強化人間を使用した痕跡が確認されており、これもまた“妖怪“などとの関連を疑わせるが、妖怪に関しては情報が著しく不足しておりあくまで妄想にすぎないため、考察は割愛する。予備事項として、“妖怪“が実在する場合、その子孫がハバロフスク連邦で生活している可能性は大いにある。ただ、ハバロフスク連邦政府が存在を認めない可能性が高いため観察は特異事象・脅威特定計画局および帝国軍へ委任すべきであると提言する。※¹「倭人の大移動」に関しては原因がわかっていないが、何等かの天変地異的な現象により移住地を求めたものというのが帝国歴史学会の見解である。
ハバロフスク連邦の全てが極東亜人種を受け入れているとは言えない。魔女教団と呼ばれる人間至上主義を掲げたテロ組織が、魔女と称して極東亜人種を殺害していた例があり、極東亜人種に対して敵対視する動きが少なからず見られる。だが、ハバロフスク連邦の場合は極東亜人類に対する差別意識は極少数の過激派を除けば人類種と同様の権利が認められているようで、地球上において、表面上は亜人類の権利が最も認められた国といえるだろう。
・生物的違いについてと様々な進化説
身体的にみれば大きく違うのは一部にとどまり、哺乳類(狐など)の耳を持つこと以外は人類種と差異はない。「シベリアの厳しい環境下において、道具や知恵で環境に対応できる人類との共生によって生き延びるため、人間と似通った形への進化の結果このような亜人類が生まれた」(哺乳類人化説)という説がエレクシア大学により挙げられている。生活習慣も何ら変わらず、前説からいうのであればかなり高度な進化・同化を遂げたようである。中には逆に「極東亜人類は、人間が厳しい環境を生き抜くために他の哺乳類へと進化しようとする過程である」(人類獣化説)と提唱する者もいる。
霊的な観点からの意見では、「人間に妖怪が憑依し、更に憑依された人から生まれる人は遺伝的に憑依状態になくても姿が非人間的に固定される」(霊的遺伝説)という説もある。一部では「「神のいたずら」により人と似た生命体が作られた」(神体創造説)とする非現実的な意見もあり、科学的な検証による解明には至っていない。最も有力であるのは前記2つであり、今後の研究の成果が期待されている。
・今後の研究について
大きな進展は得られなかったものの、驚くべきことに極東亜人類と人類には外見的な特徴とそれに伴う聴力の差異、筋力や持久力の違い以外にはさほど大きな違いはないものと見られる。逆に言えば、極東亜人類は人類に似すぎているのである。以降も調査を継続し、本社からの増員で研究を進めていく予定である。死体の解剖実験等が行えるとなれば早急な解明が進む可能性はあるが、ハバロフスク連邦政府が承諾する可能性は低いため、地道な研究となるだろう。
また、RASH本社およびエレナ・ニーナ・グループに対しては連邦政府に対する検体提供の働きかけと他国にいる亜人種および人外へ研究対象の拡大を要請したい。