茶番に使ってください!!
オーガスレリア連合王国
二代目管理人(交代済み) adfe20bbb8
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「ったくもう!!人使いが荒すぎますよ、あのタヌキ親父」
(まぁまぁ落ち着いて下さい、ミスキャトル。もうすぐ飛行機が到着しますから)
オルリー空港にて外交団と合流したキャトルは、愚痴を漏らしながらも予定通りの飛行機に乗ろうとしていた。
{何だか、イメージと違いますね}
不意に飛んできた言葉。言葉のナイフとはまさにこのこと、何せ開口一番”解釈違い”などと言われるのは何年ぶりだろうか。それに、”同じ”女性職員に言われたとなれば、そこそこ凹む事案だ。
「な、何がイメージと違うのでしょうか?」
恐る恐る聞いてみる。
{キャトルさん、仕事中は凄くはきはきした方だと聞いていたのでもっと機械然としているのかと......こんなに人間臭いとは思っていませんでした。}
「ああ、そう言うことでしたか、実を言うと畑違いな上にいきなりここに飛ばされてきたもので、資料も2日前にざっと読んだだけなんです。」
すると彼女はにこりと笑うと
{あ~あのタヌキじじいに言われてきた感じですか。心中お察ししますよ。大丈夫です、軍務関係の話は私共が行います。キャトルさんの仕事はいつも国会でしているものと変わらないはずです。}
じじい、、じじいって言った?!と内心かなりびっくりしたが、きっとあのタヌキ親父の人使いの粗さ、したたかさはほぼすべての省庁に知られているようだ。
「全くです。時間外労働もいいところでほんとに、、、」
そんな上司への愚痴や、軍の現在などの雑談、会談の内容についての話を深めた。初対面だったし畑違いだが、それなりに有意義な話が出来た、と思った。
そんな話をしているうちに、飛行機は地面に着陸し、地面が機体を揺らす。
「つきましたね」
{ですね。じゃあキャトルさん、一仕事頑張りましょうか。あ、そうそう名乗ってませんでしたね。マリア・ロンデジーナ。階級は大佐です}
「ありがとうございます。大佐。いい結果を国に持ち帰れるように全力を尽くしましょう。」
そういったは良いが......実際私がここに来た目的は、もう一つある。私が前に見たあの空間、そして何より、私にハッキングを仕掛けた理由。一応の防御策は組み立てた。これで理由をはぐらかされたり、有耶無耶にされることもないだろう。
私は真実が知りたい
そうして彼女はもう一度、帝国の地を踏んだ。
雲一つない晴天の空の下、くたびれたトレンチコートを着た男がある墓の前に立っている
「すまんな最近墓参りに来れなくてな...そんな顔しないでくれ、俺も仕事とか色々と忙しかったんだしょうがないだろ?」
人に話すような感覚で墓に話しかけている様子は傍から見れば不気味だと思われるだろうが、本人はそんなこと気にせずに微笑みながら墓に話しかけ続けている。まるでそこに人がいるように
「そういえば来週彩香が結婚式上げるんだ、純白のウェディングドレス着て...あぁお前さんとの結婚式が懐かしいよ」
男が楽しそうに話しているがそれを遮るように電話がけたたましく鳴る
「あぁ...あぁ...了解した今行く」
ポケットの中に携帯を乱雑に突っ込み墓に向き直す
「すまんな実久瑠、急ぎの用事が出来たから行ってくるよ」
男が重い腰を上げ墓の前から歩き出す
「はぁ...俺も歳をとったな」
そんな独り言を言いながら車へと向かう道中、何かの気配を感じ後ろを振り返ると先ほどまでいた墓の近くにこちらに手を振る女性の影のような物が一瞬見えた。
男はそれが今は亡き妻だと瞬時に理解しボソッと口を開いた
「...あぁ行ってくるよ、実久瑠」
実久瑠さんが任務中に死亡したたIF世界線のお話。大体今から20年後くらい
男:大体53歳くらいなった優一。墓に向かって話しかけてるが別に精神がおかしくなったわけじゃない()
彩香:実久瑠と優一の子供である双子の片割れ。今度結婚する
2/11 7:56AM ホルムズ海峡西部空域
『バジャー2-1、ネイルズ』
「2」
RWRが更新され、アイコンが出現する。まるで囲われた30の数字が、レーダーで映る影の正体を示し、JHCMS上にも情報が追加された。
『マージする前に片付けるぞ。交戦規定を確認しよう』
「バンディット、ホスタイルに関しては問題ありません。もう作戦が開始されていますし」
MONOが嘆息気味に言う。腹が決まったエレメントは戦闘行動を始めた。マスターアームをA/Aにセットし、レーダーをTWSへ。搭載されたAN/APG-99AESAレーダーがパフォーマンスを発揮する。
『マジック、こちらバジャー2。エンゲージ』
「2、エンゲージ」
この戦争中で最初の空対空戦闘が始まる。AWACSに交戦の旨を伝え、スロットルを一番前へ。
エンジンから可視の炎が姿を現し、高迎角で上昇する。HUDの数字が目まぐるしく動きだした。
2つのサイが空を駆け抜ける。
『1、シューターを宣言。2、バックアップにつけ』
「2、ウィルコ。7時方向、1マイルで待機します」
2-1は右MFDの操作を始めた。レーダー画面に浮かぶ敵機のシンボルを確認し、カーソルを重ねる。
STTロック。相手のRWRはけたたましく鳴り響き、今頃パイロットは大慌てだろう。
MONOも同様に操作を行い、いつでも隊長の支援に回れるように準備をしておく。彼らが何度も訓練し、経験してきた動作だった。
『バジャー2-1、ロック、ブルズアイ246/67』
「空対空戦闘でしたら、イランじゃこれが最初のはずです」
『綺麗に決めよう。2-1、FOX3』
1番機の右翼ハードポイントから中距離空対空ミサイルが滑り出す。ロケットモーターが点火され、慣性の速さも上乗せされたミサイルは、敵機に向けて下降を始めた。
「高度、速度共に相手より上です。これは避けられないですよ」
ミサイルシーカーが自立誘導を始めるまで10秒。その間は2-1の機体のレーダーアスペクト上に敵機を位置付ける必要がある。
突如、2番機のアラートがけたたましく鳴り出した。
「バジャー2-2、スパイク!!」
FCR警報は直ぐにミサイルアラートへ代わり、RWR画面の右側、「LAUNCH」のランプが赤々と点滅する。
「2-2、ディフェンディングイースト」
操縦桿を右へ倒し、キャノピーが海を映し出したところで引く。
警報は鐘のように、MONOの頭を揺さぶる。迫り来る死の感覚は、そう真新しいものでもなかった。
あらかじめ設定していた等間隔でチャフが射出される。形成されたカーテンはベールのように空を分け、敵のミサイルを混乱させる。
『2-1、ピットブル。クランクイースト』
2つの機影がペルシャ湾へホルムズ海峡へ向けて高度を下げていく。
2-1はMFDを凝視していた。10秒、15秒。
レーダー画面の反応表示が、やがて消失した。
『2-1、スプラッシュワンバンディット』
敵が我武者羅に放ったミサイルもあっけなく空に消え、MONOの思考を支配していた死への鐘も鳴り止んだ。
『マジック、バジャー2-1、リクエストボギードープ』
1番機がもう一度、AWACSへ脅威の確認を要請する。彼の声には喜びが滲んでおり、無線機のノイズ越しにもわかるほどだった。
『マジックよりバジャー2-1、ピクチャークリア。SEADを担当するレナード4-4が無線に入る』
AWACSからの通信を終えると、回線に一瞬ノイズが走り、聞き慣れない声が飛び込んできた。その間もMONOはMFDを凝視し、編隊長と後続の話に耳を傾ける。
『バジャー2-1、こちらレナード4-1。脅威はあるか?』
『2-1、ノーファクター。食えるだけAAを食ってくれ。グッドハント』
『了解バジャー。4-1アウト』
朝陽が、白い機体をゼニスブルーに映えさせる。
RWRは静けさを取り戻し、戦術マップはリンク16からの状況更新を絶えず続けている。
『MONO、9時方向を見てみろ』
指示とは言えないほど柔らかな命令に従い、重い首を回す。JHCMSが2つのアイコンを示した。[15]、そう書かれたアイコンが猛スピードで追い抜いていく。
上陸作戦は始まっている。
軍のトラックの荷台に乗り、揺られ、隊列をなして道を進む。数日前まで現地の武装勢力と帝国軍の戦いが戦っていた地であり、その場にはまだ火が燻っていた。破壊された戦車、転がった黒焦げの塊、その戦闘の余波を物語っていた。この先には町がある。この隊列が向かう先はそこだ。
「…なんで俺らがこんな後始末しなきゃいけないんだ」
「そんなこというな、これは任務だ」
悪態をついて同じ隊員にどやされる。これから向かう先の町、その方向を眺める。住み育った故郷、懐かしい景色はー、
黒煙を上げ、建物が崩れていた。皇帝の命令は、故郷すら飲み込んでしまったようだ。
「…」
「詮索は不要だ。アズナール。もう到着するぞ」
やがて車列は町へと到着し次々と兵士たちが降車するのに続いて地面に足をつける。それと同じくして鼻につく血の匂い。故郷は地獄そのものだった。見慣れた大通りは瓦礫で塞がれ、破壊された配管から水が噴き出し至る所に池を作り出していた。
この前、皇妃が武装勢力に暗殺されてから鮮血帝は怒りに身を任せてこの地に"殲滅命令"を出した。所属する部隊はこの命令を拒否したが、一部の部隊は従ってしまった。民間人がまだいる都市を無差別に砲爆撃を加え人を炙り出し更に殺す。そんな所業がここ以外でも繰り広げられたようだ。
チームを組み、廃墟と化した町を進む。この町を襲ったのは砲爆撃だけではない。包囲による物資の不足、強奪。飢餓の発生、一部兵士による強姦の末に射殺…、それはもう悪行の限りを尽くした。壁に沿って一列に並べられた死体、どれも手足を縛られ頭には弾痕が残っていた。見知った顔もいた。行きつけの店の店主のおじさん、友達、…誰もがもう動くことなく腐敗を待っていた。
「…せめて埋めてあげることはできませんか?」
兵士の一人が声を上げた。
「我々の任務は現状の確認だけだ。後から処理の部隊が来る。そっちに任せろ…、だが」
隊長の彼は兵士の視線から目を反らしつつそう答えると、死体の列の前で片膝を付き胸の前で十字を切り祈りをささげた。それに続いて他の隊員たちも同様に祈りを捧げ、周囲は数十秒だけ静寂に満たされる。
静寂の後、隊長は立ち上がり隊員たちを連れて次のポイントへと更に進む。その道中、転がる死体をひとつずつ目を向けていく。ここの死体は悲惨だ。ほとんどが女性のようでどれも暴行を加えられその先で殺されたのであろう。最後の一つを見た瞬間、急に心が締め付けられるように、その場にくぎ付けになったように動けなくなった。
見慣れた髪色、肌、服、どれも薄汚れたりボロボロになったり悲惨だが、その顔は彼にとって今一番見たくないものだった。
息が詰まる。信じたくない。だが口にせずにはいられなかった。
「か…、ぁ…、かあさん…?」
アズナール
アズナール・カウハネン。リューディアの長男。
エンジン音がキャビンを支配する。緊張、興奮、動悸でブーツが細かにリズムを刻む。予定まで1分ほどだろうか。
“Everybody’s dancing in the moonlight”
誰かが調子外れに歌い出す。
“Dancing in the moonlight”
“Everybody’s feeling warm and bright”
加えて2人が歌い出す。
“it’s such a fine and natural sight”
“everybody’s dancing in the moonlight”
バラバラの歌い合いがキャビンに響き渡る。
「合唱は終わりだマリーンズ」
コンテストを中止し、全員が立ち上がる。酸素マスクを付け、プロトテックが納入するゴーグルをヘルメットから下ろす。頬に食い込むマスクに若干の痛みを催すが、緊張が全てを喰らい尽くす。装備の確認を済ませた兵士達が並びだした。
「やっぱり、俺たちの仕事じゃないよな、これ」
くぐもった声で隣の兵士が声を掛け、拳を差し出す。応えるようなグータッチを最後に、全員がランプドアを見つめた。
『時間だ』
低いビープ音と共にランプドアが開き出し、夜空の幕が下ろされる。冷たい空気が勢いよく流れ込み、彼らは身震いをする。
「10秒!!」
武者震いか、それとも単に恐怖からくる震えか、今はもうどうでもよくなっていた。
肩が叩かれる。前に立つ仲間の肩を叩く。
「5秒!!」
拳を握りしめる。
4 ゴーグルの位置を直す。
3 覚悟を決めろ。
2 体重を前へ。
1 床を踏み締める。
赤かったランプが、緑へと変わる。
「_____!」
極度の緊張で合図の声も聞こえず、動き出した背中を追って走り出す。
ランプドアを蹴り飛ばし_
雲の隙間に光が、地上が見えた。
風をおしのけ、勢いに任せて跳躍する。まるで暗海へダイブするかのように、夜空の中へ。
25000ftの飛翔。凄まじい風圧と冷気に苛まれながら、必死に味方の背中を睨む。
雲を突き抜け、ホラマーバードの街並みが広がり、月が顔を出す。
照らす月光が降下する海兵たちを縁取る。
呼吸をどうにか制御していると、いつの間にか高度計がパラシュートの展開予定高度を示そうとしていた。
眼下でパラシュートが展開される。肩についた展開装置を力任せに引っ張った。
強い衝撃と共に上へ引っ張りあげられるような感覚を覚える。
先行する味方を追い、開けた降下地点を目指す。
作戦は始まったばかりだ。
「ラザフォード!」
分隊員の名前を呼ぶ。双眼ナイトビジョン『AN/PSQ-44』を起動すると、緑の視界にオレンジに強調表示された人影を見つけた。暗黒に包まれた荒野には、味方以外は展開していない。
「ウルフソン、ジョーンズは?」
「こっちにいるぞ!エアロンソンもだ!」
イランの地を踏む彼らは、目的の空港400m先の丘の上にいた。目標周辺に警戒の兆候はないが、念の為周辺の岩陰に身を潜めている。
本隊と分離して行動する分隊は3つある。その中で、ウルフソンは空港襲撃の手引きとして偵察を行う第1分隊に配属されていた。
「4人集まったな。とっとと仕事を始めようぜ。朝になっちまう」
時計は午後7:20分を指している。
エアロンソンが所持しているAR-14のレーザーサイトを起動すると、IRイルミネーターが地面を煌々と照らす。無論、その光はNVG越しにしか見えない。
「ヘイメイカー、こちらミスフィット1-1」
ラザフォードが無線機に囁く。ジョーンズが暇を持て余した手で砂上に絵を描き始めてしまった。
『ミスフィット、こちらヘイメイカー。報告せよ、オーバー』
「1-1はウェイポイント1へ到着。行動開始可能、オーバー」
『…こちらヘイメイカー、アクシデントだ。ブレイク』
4人は動きを止め、無線の音に注意を払う。冷えた深夜の風のみが、時間の経過を示してくれる。
『ヘイメイカーより1-1、降下の際に負傷者が発生した模様。問題ないようだ。行動を開始せよ』
分隊に安堵が流れる。
「1-1よりヘイメイカー了解。ウェイポイント2への移動を開始、アウト」
束の間、分隊は行動を開始する。
呆れる…あのタヌキ親父、あれだけ時間厳守にと言ってきたくせに{先客がいるから少し待ってくれ}なんて、ほんと無責任にも程がある…そう思いながらリーネンベルは外務大臣室の前に壁に寄りかかりながら考え事をしていた。
中にいるのは一体誰だろうか?確か英国政府がパリを訪問していると聞くし、もしかしたらそれ関連なのかもしれない。はたまた、いつものように適当な国会議員や秘書かもしれないし、考えてもどうしようもないことは分かっていたが、少しばかり気になる。
扉が開いた。
予想外なことに、外務大臣室から出てきたのは一人の女性だった。犬のような耳と尻尾が生えた白衣姿の亜人の女性…アニメや映画でよく見るマッドサイエンティストをそのまま美少女化したような、そんな雰囲気。
アタッシュケースを携え、鼻歌を歌いながら去っていく彼女を観察する。おそらく英国人だろう、年齢は10代から20代前半ほどで結婚指輪はしていない様子。考えれば考えるほど謎は深まる。あの年齢で外務大臣との執務室での面談が許されるなんて一体何者なのだろう…まさかあのタヌキ親父の愛人だなんてことは流石に無いだろう。
とはいえ、何故か彼女とはまた会いそうな予感がした。もしかしたら碌でもない出会いかもしれないけどそれは会ってみないとわからないだろう。今度は一体何の要件なんだ…そう考えてしまうと少し未来が思いやられるが、彼女は少し俯いて深呼吸をし、外務大臣室の扉をノックした。
{ん、入れ}
案外大した内容でなかったことに安心する。またどこかの国に…特に英国なんかに飛ばされるのではないかと思ってヒヤヒヤしていたが、蓋を開けてみれば単なる軽い報告だけだった。
今日は普通に帰ろう。そう思いながら彼女は外務省を出る。明るいパリの街灯が彼女を照らし、のんびりと家に向かって外務省の正門を抜けると…偶然かどうか知らないが先程の女性がいた。誰か待っているのか鉄柵に寄りかかりながらノートパソコンをいじっている。もしかしてあのタヌキ親父の愛人というのは合っていてアイツが来るのを待っているということだろうか…?それならこれ以上詮索するのも面倒ごとになりそうだし、無視して通り過ぎることにしよう。
{……んぁ、やっと来たか。ぇーっと、リーネンベル=キャトル君だっけ?だったよね?}
後ろから声がした。
{良かった。このまま来ないんじゃないかと思ってたよ}
{君が来るまでの間事前にある程度調べておいたんだ、ちょっとばかし好奇心でね。機械人形、いやオートマタと言うべきかなぁ?職業は王立合衆国国会秘書官。合ってるかい?}
彼女はリーネンベルの腕を掴むとまるで小動物を愛でるようにそれを撫で始める。
「え…はぇ?ちょっ…」
{ふむ……これは興味深い。蘇州には人間そっくりなアンドロイドがいるっていう噂を聞いたことがあるけど、君はそれより古そうなのに随分とよく出来てる}
テミス・ロングニュのことが頭をよぎった。さっき碌でもない出会いかもしれないと思ったが、それどころじゃない。こいつ一体何考えてるんだ?
リーネンベルがどう思うかなど全く気にせず、彼女は腕を揉んで関節の動きや血管の有無などを観察している。
「ま、待って…ちょ、何して」
{私はケリー・ロックバウム。スコットランド・スターリングの1997年1月12日生まれ。不躾ですまないが、現状行くところがなくてねぇ。しばらくの間、君の家に住まわせて貰えないかい?}
「ぇ、ぁ…はぁ?」
話が通じない。
{あとリーネンベルじゃ言いづらいから……そうだね。これからはリーネと呼ぼう。君とは仲良くしたいんだよ!}
{だからこれからよろしく頼むよ?リーネくん?}
『NAVSOCは情報人員の補充と訓練予算の拡充を求めており_』
安っぽい香りと酸味を感じる。カップ一杯の泥水に映る自分の顔は、改めて見ると疲労の色が濃く見えた。
国防総省の食堂は今日も忙しい。中庭にあるピザ屋は中でも繁盛しており、窓の向こうの列は見慣れた光景になっていた。
「同席、失礼しますね〜」
中庭を収める視界の隅に、人影が入ってくる
灰色の髪を肩まで伸ばし、動物のような三角の耳が頭の上でピクリと跳ねた。
彼は返答を待たず、対角線を結ぶように席に着いた。
「待ったって答え返ってきませんもん。どうせあなたは嫌な顔するだけですし」
軍事専門のニュースを聞き流し、彼の顔をチラリ見やる。薄く開いた目から覗く瞳がこちらを写す。
「いつまでJSOCにいる」
「先日、イギリスの大使館から戻ったばっかりなんですよ。NAVSOCはご覧の通り。CAGとグリーンベレーに花を持たせてばっかで、戻る理由もありません」
嘆息する彼は天井の照明を見上げた。亜人への差別と
隔離が日常である英国へ送られた日々に、相当心労が溜まったことだろう。コーヒーを啜り、エアコンの生暖かい、不気味な風に気分を下げる。
「休暇は大事だ。それはそうと」
「はいはい、わかってますよ」
そういうと、彼はバッグから大きな封筒を取り出し、差し出す。灰色のそれには、内部情報保安局の確認印が押してある。自らの目が輝くのを感じた。
「コールサインは“アル=バシール”。最近ではもっぱらテヘランに篭りっきりです。先日始末したIRGCの幹部を見るに、連中はイラン中央銀行、市中央アパートに司令部があります」
彼が面白いものを見る目で私を眺めている。羞恥心を置き去りにしたまま、資料を読み込んで声を昂らせる。
「ラングレーに渡すには、惜しい案件だ。MARSOCと第1偵察大隊を使い、テヘランの半分を占領した時点で掴みに行く」
「SEALsが相当嫌いなんですね、あなた」
「一発撃っただけで膝まで薬莢が積もると思い込んでるお魚野郎共だ。ただでさえCIAからの仕事ばっかりやってるんだ。NAVSOCなんて通すつもりもない」
雑に目を通したところで、ようやく自分が戻ってきた。恥辱に顔から火が吹きそうな感覚を覚えつつ、席を立つ。
「それじゃ、何かあったらまた言う」
愉しげな声が背中を撫でる。
「DIAの威信をかけて、頑張ってくださいね」
彼のニヤけ面が目に浮かぶようだった。
帝国の地を踏んで間もなく、様々な手続きをし少々車に揺られ帝都マドリードへと入る。
マドリードの中心街にある外務省の一室にイベリアとレッドオーシャン双方の企業や軍関係者が集まり机を挟んで時間通りに会議が始まった。また別の部屋でほぼ役割を終えた両国の外交部が待機していた。こうした中で密かに雑談に興じる者や、腹の探り合いする者、外に散歩がてら出ていく者など様々だが、リーネンベルは外交部向けに手渡された資料を足を組んで眺めていた。
今回の会談の目的、言えば「イベリアとレッドオーシャンによる戦闘爆撃機の共同開発計画」だ。たまたま双方の軍の要求性能が近く近年の協力関係もあってこうした計画の実現が今まさに近づいている。成功の暁には多数の会社が参画する大規模な計画が始まる。帝国側から参画したプファルツとアヴァンセはエレナ・ニーナへの対抗を目指し戦闘機の技術習得を目指しているとの噂もある。
そんなことを資料を眺めつつ考えるが実際そんなことはどうでもいい。…どうでもよくはないが。
パラパラと資料を捲り、目的の欄を見つける。帝国側の参加者の欄、帝国航空宇宙軍の重鎮、プファルツ航空機製造合同とアヴァンセ・アントルプリーズそれぞれの担当者、…ぼそぼそと名前をつぶやきながらリストを下に向かって指でなぞっていき、一番下のリストで目的の名前を見つけ指を止める。
「…いた。…テミス・ロングニュ…、」
今回帝国に来た目的のほとんどは"彼女"だ。国家システムの端末たる彼女がなぜハッキングを仕掛けたのか、そしてあの脳がいっぱい浮かんだ空間、こうして小一時間程度足を組んで考えても何一つ解決せず謎は増えていくばかりだ。ロングニュに関しては対してあまり有用な情報がない。
(名簿には名前が載っているのに会談には姿が見えなかったけど…)
難しい顔が自然と浮き出て内心やや焦ってきていた。このまま何もなくレッドオーシャンに帰ったら謎が謎のまま終わってしまうかもしれない。だからといってロングニュ目当てに仕事をほっぽり出して歩くわけにもいかない。
そう考えていると突如、待機室の扉がノックされ部屋には一時的な静寂が満ちた。
「リーネンベル・キャトル様、いらっしゃいますか?」
その静かさを破るように外務省の受付の人が扉を開け、リーネンベルの名を呼んでる。
「あ、はい…、私です」
組んでいた足を除けて受付人に向けて手を上げて、その前まで歩を進める。
「予定の時間になりましたので呼び出しに参上いたしました。」
「予定…、ですか?」
リーネンベルのきょとんとした顔に受付人もまた同じような顔を返す。なかなか気まずい。…あれ、なんか忘れてたっけ。
「えー…、と。…ですねぇ…第2会議室の方でテミス・ロングニュが外交担当者のリーネンベル様との意見交換会…と聞いておりますが…?」
「…あー、あー!はい!…お、思い出しました!忘れてました…ぁ…」
今の私は中々に顔が引きつっているかもしれない。そう思うと段々恥ずかしくなって蒸気が上がりそうだ。
突然目的の対象がアプローチをしてきたのだ。こうなってもおかしくないだろう。…きっと。
相手も気まずかっただろう、頭をかくかくと振って道案内を始め、リーネンベルもそれに続いた。
中世的な建築の廊下を進み一室の前で扉をノックして開ける。なかなか風情の感じる部屋だ。そう関心するのもつかの間、今回の目的の彼女を目に収める。機械的な角、尾、その場に似つかわしくない東洋の着物。瞳は自然な色だ。
『リーネンベル・キャトル様、お待ちしておりました。』
ー、テミス・ロングニュ。
「あ…、すみません…、約束…?忘れてしまって」
『いえ、少し強引なやり方でしたので。リーネンベル様に落ち度はありません。謝るべきはこちらの方です』
彼女が丁寧な素振りで頭を下げるのをリーネンベルはあわあわとしながら見ることしかできなかった。
『ゆっくりとお話したかったのです。お水ありますがいかがでしょうか?』
「あー…ありがとうございます…」
椅子に座るように催促され流されるように座ると、ロングニュは手慣れた手つきで洒落たカップに水を汲みリーネンベルの前へ横から差し出す。そのあと自らの分も汲んで対面の椅子へと着席し自然と口に含む。
耐水機能がしっかりとしているのだろう。見たところ体内もまるで人間のようなのかもしれない。
「…ロングニュさんも水は飲めるんですね…?」
『はい、水の他にも人が食せるものに関してはほとんど食事可能です。BHSのおかげですね』
「食事…水はなんとなくわかりますが、他…お肉とか野菜とかって機械が食べる必要ってあるんでしょうか?」
『電力のみでも稼働可能ですが、ロングニュは"機械で理想的な人間を目指す"ことを副目的として制作されております。人と同じように食事をし、栄養を吸収し自らの糧とする…。人を再現する上では重要なことです』
緊張の感情表現のためにやや出た水の補給のためリーネンベルもカップに口をつける。
少しして後、最初に口を開いたのはロングニュだった。
『さて、そろそろ本題に入りましょうか。…そのためにいらしたのでしょう?』
柔らかな光が部屋に薄く差し込み、2人を照らし出す。
机に置いてある水をもう一度口に運び、擬態内部の冷却を促進する。
少し気を張るように息を吸った後、もう一度テミスを見つめ直す。
「話が早くて助かります。では、単刀直入に聞きます。」
これを聞いてしまったら、きっとこれからは”機械人形同士”という”私たちだけ”だか成立していた関係も、よりこじれた面倒くさいことになってしまうだろう。それでも、、、
「では、なぜ私のメインフレームにハッキングを?」
{あら、何のことでしょうか?}
首を傾げ、クスクスと笑いながらはぐらかしてくる。
やっぱり、まともに聞いても答えてくれる訳ない。それもそうだろう。ばれれば大変なことになる。ましてや機密情報を持つ国会書記官の記憶を探ったなど......
「とぼけないで下さい。”あの時”は気が付きませんでしたが、記憶領域に所々空白がありました。ログ、お見せしましょうか?」
{まさか、私がやった証拠がおありでも?}
疑問を遮る行為は、私は嫌いだ。椅子から立ち上がり、語気を強めて迫る。
「ですから!」
キャトルが声を張り上げる直前、テミスはそれを遮って反論する。
{そのログが、私の残したものだという証拠は?どこにあるのですか?}
瞳は真っ直ぐ私に向けられている。恐怖でも、焦りでもなく。ただ冷静に、機械的に。
「......それは、、でも確かにこのログとその空白は、貴方と会った時から!」
視線をそらし、目を細めて彼女は言う。
反論は止まらない。
{ですが、それが私が直接行った行為だという証拠は、未だに提示されていません。}
何も言い返せない。
「っ......」
追及したい。だが、ログの”出所”がわからないのもまた事実だった。ただ、時間関係が事象と一致しただけ。
それ以上の追及は出来ない。きっとこれ以上聞いても、本当の事は一切言ってくれないだろう。
「すみません、取り乱しました......そうですね。確かに直接的な証拠はありません。ですが、一つ気がかりなんです。」
もう、本音で話そう。この”人”には、隠し事も何も通用しない。彼女の言った本題で、聞いてみよう。
「貴方は、”きっと素晴らしい職人の方が作られたのでしょう。”と言いましたね?」
{ええ、確か。}
部屋の空気は差し込む柔らかな光とは裏腹に冷たく、凍りつく。
「ングニュさん、貴方は、私の何を見たんですか?」
褒め言葉というものはよくできた毒だと思う。
飲ませた者は忘れても、飲んだ者の中では延々と化学反応を続ける。しかも厄介なことに甘い。人間は甘い毒に弱い。
しかし私は違う。それがどんなにおぞましいものかよく分かっている。
教授の口が動いた。
「君は実に優秀だ、素晴らしい成果だよグレイヒト」
あぁ....、きた。
その''素晴らしい''の一語に、どれほどの支配欲が詰まっているかこの男は理解していない。自覚していない。
自分の言葉で他人を形づくろうとするなどなんとおぞましことか。醜悪極まる。
褒めるという行為はつまり「お前は私の基準に適っている」という意味だ。基準を持つ者が上位に立ち、評価される者は下位に置かれる。
つまり私はこの瞬間下にいる。こんな男の下にいる。なんと滑稽な構図だろう。
屈辱極まる。
吐き気がする。
「ありがとうございます」と言えば、
私は自分を明け渡すことになる。その瞬間私という存在の全てがこの男の管理下に置かれる。だが黙っていれば''謙虚さがない''と解釈される。
要するに、どう転んでも彼の中で私は''劣位''に分類される。
──────なるほど...。
私は笑った、たぶん自然な笑顔だったと思う。教授も釣られて笑った。
(愚かだ...)
手にした実験器具を手早く割り、そのまま鋭い切っ先となった断面を喉に押し当てる。
刃が喉首を裂く音は、紙を破くより静かだった。
赤い液体が飛び散る。実験でよく見る流体挙動だ。ああ、やっぱり人間も物理現象だ。美しいほど単純だ。
教授が目を見開き、血の泡を吹きながらモゴモゴと何かを訴えている。恐怖だろうか。謝罪かもしれない。
もうどちらでもいい。
そのどちらだっとしても私に''言葉''を向けている時点でそれは私に対する格付けだ。私という存在への理不尽な支配だ。
沈黙だけが、私を尊重する。
私は手を拭きながら、彼の倒れた体を見下ろす。
上も下もない、ようやく私と彼は同じ高さに並んだ。ようやく平等になれた。
全くもって素晴らしい。この結果は称賛に値する。もちろん誰かに褒められる必要などない。
私が私を認めればそれで完結する。他者の意思介入は必要ない。
蛍光灯が明滅する。
血溜まりに映る光が笑っているように見えた。実に馬鹿馬鹿しい。
(はぁ...)
照明にすら見下されている気がする。
ゼーベスティアちゃんがミーナさんの部下になる前の前日譚です。純真無垢な女子大生ゼーベスティアちゃんに変態クソ教授の魔の手が!!()なお、教授本人は単に出来の良い教え子を心の底から称賛しているだけのものとする
「…何を、と申しますと?」
『そのままの意味です』
リーネンベルの真剣な表情を前にロングニュは少し考え込むような動作をした後にすぐに言葉と綴る。
「最初にあなたを見たとき、私の眼球カメラは一時的にあなたを"人間"と認識しました。それほどまでにリーネンベル様はとても人間に似せて作られたのでしょう。私と同じように。それに、継ぎはぎといってはあれですが…、幾度とない改修も施されていたようです。その製作者たちそれぞれの努力、技術が垣間見えるものです。」
「それに手に触ったとき、人間のような柔らかみを感じました。視覚だけでなく感触にもこだわりがあるようです」
「それら製作者たちの思想、…いえ、全てを取り込めたのなら、"私たち"はより素晴らしい進化を遂げられるでしょう」
しみじみと語るような彼女の姿は表面が柔らかくとも、違和感を知っているリーネンベルからは違和感のある不気味にしか見えなかった。こうして話を聞いていると人間のようだが、どこか一人と話しているような気がしない。
『取り込む…?…、それはどういう意味で』
「私は包括的国家統治システム"テミス・システム"の代理人として製造されたアンドロイドであり、帝国の企業が"機械で人型生命体の全てを超える"ことを目指した作品でもあります。そのプログラム上、常に進化を望むのは当然のことではありませんか?」
…人の見た目をしていたところで相手は機械だ。笑みは剥がれ落ちたように消え去り、空気が凍り付いた空間はつららの如くリーネンベルの肌を刺す。柔らかな印象はどこかへと、目の前にはまっすぐとリーネンベルを見つめる感情を捨てた人型機械が座っている。思わず息をのんでしまう。歯車がカタカタと音を立て、円滑な動作を阻害する。
「とてもあなたに興味があります。リーネンベル様」
鋭い視線がリーネンベルを睨む。たださっきとは違う。どこか、機械の冷たさの裏に、まるで生の人間のような好奇心がにじみ出ていた。その視線をまっすぐに直視できず、リーネンベルは視線を何度か反らす。
『私はロングニュさんが怖いですが…』
「私は楽しいですよ。えぇ、とても。」
「あなたの感情表現、観察してみれば非常に自然です。エレナ・ニーナの職員らも検問まで気が付かなかったのは納得ですね…」
冷や汗だろうか、水の質感が肌を伝る。
『…本当にロングニュさんは…、アンドロイドなんですか?』
「そうですよ。それを聞いてどのような意味が?」
『いえ…、確認しただけです』
ロングニュは何かを思い出したようにハッとした表情を一瞬見せた後、
「…時に私にも疑問が生まれました」
『…疑問…ですか?』
「あなたが製作者と妹君を探すのは自分の意志からなのですか?それとも製作者によって仕込まれたプログラムによるものなのですか?…"我々"…、いえ、私としてはとても気になるところです。」
「あなたが製作者と妹君を探すのは自分の意志からなのですか?それとも製作者によって仕込まれたプログラムによるものなのですか?」
胸の奥を深くつかまれ、引き抜かれそうになる感覚が襲う。
”知的好奇心”その一言で言い表してしまえば簡単だ。しかしその好奇心と呼ばれるものが何処から来たのか、その根源的な問いには自分自身も答えを出せずにいた......いや、答えを出すのを自ら避けていたのかもしれない。
......そう言えば、前から違和感があった、一人称の”私達”まるで自らが個体として一つでは無いような、どこか自らを他人事のように見ているような違和感が不気味に腹を這う。
{ロングニュさん、貴方は......}
「質問をしているのは私ですよ?リーネンベル様」
質問を遮ってロングニュはキャトルを睨む。好奇心というよりは、狩りをする獣の瞳というほうが正しいような、相手を釘付けにする瞳だった。
呼吸が浅く、速くなる。冷や汗もさっきとは比べ物にならない程出てくる。
{わ..わかり......ません。}
絞りだした答えだった。自分でも避けていた真実への扉を、ロングニュは何の遠慮もなくノックして来た。彼女は私の事を根こそぎ”知ろうとする”ようだ。
{ただ…そうしたかった、そうしなきゃいけない気がしたんです。ロングニュさんの様に明確な目標があるわけでは…ないんです。}
キャトルは服の袖を握りしめて話す。それをロングニュは真っ直ぐ見つめて聞いていた。
「わからない、それなのに意味があると思って行動してしまう。実に人間らしい、計算の全くされていない行動原理ですね。」
{誰もロングニュさんのようにはなれません。}
キャトルは俯いて話す。そして一つの疑問を投げかける。
{あなたの言う”進化”を遂げた先で、糧となった私はどの様な意味を持つのですか?}
「なぜそのようなことを聞くのです?」
キャトルは自らの中で計算建てた疑問をロングニュに投げかける。
{もしかしたら、私の行動の果てにも、きっとあなたと同じ”個としての成熟”を求めているのかもしれません。ですが、その成熟の果てには何が残るのか、”怖い”んです。私は、貴女の”糧になった”以上の意味を持たなくなるんじゃないかって。私の全てを、否定されてしまう気がするんです。}
「...」
ロングニュは答えない。ただ静かにキャトルを見つめている。
キャトルは静かにロングニュに近づき、跪いてロングニュの手を取る。
{ロングニュさん、今貴女の中にある”私”は貴女の糧になろうとしている。ただそれだけの為にとったのなら、きっと私はこの自我の空白に耐えられない。それが例えコピーを取ったデータだとしてもです。貴女の目指す場所に行こうとする意思に真っ向から反するのは理解しています。ですが...お願いです。}
これが言いたかった。きっと。きっとそうだ。
キャトルはロングニュを真っ直ぐに見つめる。
{私の自我データの一部の返還を要請します。}
それを聞いたロングニュ、テミスという個体群を構成する彼女は、キャトルを見下ろしながら目を細めた。
カレーはダンケルクと共にフランス北部を代表する都市の一つである。歴史あるこの風光明媚な街はかつてより大陸とブリテン島を繋ぐ結節点として機能し、英烈海峡トンネルの開通地でもあった。
[ーーーた、今回の英国の軍事行動に対し各地で反対運動がー]
リーネンベルからの紹介で来たというその女は予想よりも遥かに酷い変人だった。明らかにサイズの合っていないシワだらけの白衣に身を包み、法律事務所だというのに、何の遠慮もなく足を組んで我が物顔でくつろいでいる。
流れていたテレビのニュースを勝手に消して、彼女は如何にも眠そうな様子で話し始めた。
{リーネから色々聞いたよぉ……カレーにいい弁護士がいるってね}
「ロックバウムさん…っすよね?ユリーナ=ベルゼブラです。遠路はるばるどうもありがとうございます。本日はどのようなご用件で?」
ブリーフケースから乱雑に放り込まれた書類を取り出すと、彼女はそれをテーブルの上に並べる。どの用紙にも英国内務省と書かれたスタンプが押されていた。偽造されている様子はない。研究者だと名乗っていたが英国政府と関わりがあるのだろうか?だとしたら一体。
{最近色々あってねぇ、アイスランドから亡命してきたんだ。法学?って言えばいいのか知らないけど、思い返してみたら色々置いてきてしまったみたいで、とりあえずそれを裁判とかで取り返せるかと、会社を追い出されてしまったから今後の活動について法的アドバイスが欲しいんだよ}
「アイスランド?随分物騒な所から来ましたね…」
アイスランドと言われて納得した。英国の亜人隔離政策の本拠地であり、実態のほとんどが明らかになっていない研究所国家…おそらく彼女はそこで勤務していたのか、そして何らかの要因により亡命する羽目になったのか。
「…まぁ結論から言ってしまえば、残念なことに英国政府相手じゃ取り返すのは難しそうっすね。やれと言われたらあーしも頑張りますけど、あの国は数十年前から独裁政治で有名ですし、団体ならまだしもあなたのように個人の場合だと勢いで、押し切られる可能性の方が高いっす」
{……そうかい。まぁどうせそうだろうと思ってたさ。それより、もう一つの方について話そう}
「どういった内容をやるかにも寄りますね。前職はどういったものを?」
{民間企業で研究職に就いてたんだよ。途中まで良かったんだけど……色々やらかしてね。命惜しさにこの国に来たってわけさ。とりあえずリーネのところに居候させてもらって、フリーランスであれこれ研究しようと思ってる}
「具体的になにを研究していたんですか?現状聞く限り儲けにはならなそうっすけど、法令上はなにも…」
{亜人関連だよ、亡命理由もそれさ}
なるほどと思った。様子を見るに恐らく彼女も色々とグレーな内容に手を染めていたのだろう。テーブルに置かれたコーヒーにスティックシュガーを2本分入れると、彼女はわざとらしくニヤつきながらこちらを覗いてコーヒーを少し飲む。
{ぁあ、忘れてた。一応自己紹介しておこうか。私は犬の亜人。具体的に言えば犬種はシェットランド・シープドッグというらしい。君は確か……悪魔とかいうんだろう?ふふ}
「…リーネンベルさんから聞いたんですか?なんか信じてない感じっすね」
{私は研究者だよ?神や悪魔なんて非科学的な存在、この世に実在するわけがないと考えてる。勿論天国も地獄もね}
なんだか自分の存在自体が少し嘲笑されている感覚がしてあまりいい気はしなかった。彼女の目はどこか虚ろで、自分のことを見ているのがぉうすらわからない。どこを見ているのだろうか。まるで虚空を見つめるかのようなそんな目だった。
{……そうだ!}
そのまま彼女はユリーナの手を握ると興奮気味で語り出す。
{どうせカレーまで来たんだ。せっかくだし私に君について色々と教えてくれないかい?君の雇い主は……ぁーっと、確か……、ルイーシャだっけ?役者だってことは覚えてるんだよ。彼女についても教えてくれ!君の知っている面白い亜人を洗いざらい話してもらいたいんだ}
「私はまだましも…ルイーシャはあーしの飯の種っすよ?いくら顧客だからといって、弁護士である以上そう簡単に個人情報を…」
{母さんが昔っから過保護でねぇ……いわゆる親バカってやつさ。29になった今でもまだ仕送りを送ってくれるんだ、それも給料と合わせたら結構な金額になる。ところで……ここに追加で500€あるんだけど、話してくれないかい?}
東京都永田町、日本の政府機能が集まる『頭』
車の窓から見える歩道には、スーツ姿の官僚が行き交っている。
「面会はまた拒絶、か」
「さすがは平安から続く反政府一族の老師、交渉以前の問題ですね」
溜め息をつく秘書。
男は窓の外を眺めている。
「総理、正直言って彼との交渉は絶望的です。そして東北の亜人のほとんどが彼の方針に従っています」
「実際には老者達の方針だろう、あの層はまだ幕末の迫害が記憶に新しい。老師はその前から政権に都合よく扱われる亜人を見てきた。考えも理解できる」
「若い世代を囲っても、老者が権威を持つ亜人社会の理解は得られません。どうするおつもりですか?」
僅かな沈黙。
すぐに男が口を開いた。
「別班とCIROにアポを取ってくれ」
「...何をするつもりですか?」
「老師は御高齢だ。いつお亡くなりになられるかわからない、調べてもらいたい」
まるで普通のことのように、なんてことないように言う。
「超法規的措置も行うと?」
「そういう解釈もある。ただ、この国の錆びたドアを開けるには暴力的な手段もやむを得ない、それが私の意見だ」
「すぐに手配します」
電話をつなぎ、関係組織に連絡を取る秘書。
男は窓の外を眺めている。
政府による亜人の権力者の暗殺。
数百年ぶりの暴力的手段が、歴史に名を刻むだろう。
「...なるほど、親バカ、、ね」
机の上に置かれた500€を見ながら葉巻の端を切り、火を着ける。煙が部屋を満たしていく中、ユリーナは思考を巡らせた。
「まぁ、いいっすよ。ですが、口外は厳禁です。話したら殺します。この金はその保険料という扱いで。」
{怖いねぇ、大丈夫。約束は守るよ。}
一応釘は刺した。まぁルイーシャのところに行って何かをしでかすほど、この女もバカではないだろう。そう考えての判断だった。
少しは葉巻を味わった後、ゆっくりと話し始める。
「そうですね、ルイーシャは簡単に言うとサキュバスです。いや、それと人間のハーフかな。」
{サキュバス?なんだまた神話とかの話しなのかい?よしてくれよ非科学的なのは好きじゃないんだ。}
やれやれといった様子でケリーを手を左右に振る。ユリーナはそんな彼女を意に止めず話を進める。
「信じるも信じないも自由っすよ。あーしは知ってること話すだけなんで。」
{...わかった。続き聞かせて?}
図々しいうえになんだこの態度はと若干苛立ちを覚えるが、気にせず話を続ける
「まぁ能力は声に催眠?作用があるみたいですね。使用は自分で決められるみたいです。」
{催眠?軽い洗脳というような感じかな?もしかして観客もそれで集めてたり?}
ケリーは少し興味が沸いた様で、前のめりになって話を聞いてくる。
「詳しいことは知りません。ですが、催眠がかかってる人間とそうじゃない人間は明確に分かります。少なくともルイーシャは集客に能力は使ってませんよ。」
ルイーシャの名誉の為にも、やんわりと能力の使用は否定しておく。今できるせめてもの”抵抗”だ。
{かかってる人間とそうじゃない人間の区別はどうつけてるんだい?}
「見りゃ分かります。あとは勘です。」
{随分と大雑把だね君}
これにはケリーも少し苦笑いをしていた。まさか”勘”なんて言葉を聞くとは思ってもいなかったのだろう。
{ねえ、もっと教えておくれよ。}
ニタニタと笑いながら語りかけてくる。恐らく、この女は純粋に楽しんでいるのだろう...酷くゆがんでいる気もするが。
「ルイーシャに関してはこれ以上言えることはありません。本人に許可を取れば別ですが。」
{じゃあ他の亜人に関して聞かせてくれるかい?君が知ってる範囲で。}
「そうっすねぇ...そのルイーシャと同居してるアーサーのことなら少し」
{アーサー、彼氏か何かかい?}
「女っすよ」
何か期待していたかのような眼差しだったが、直ぐに”つまんないの”と言いたげな細目に戻った。
「彼女は...まぁあなたが信じていない、恐らく神と人間のハーフ...ですかね」
{それまたたいそうなことで、で?どんな能力を持ってるんだい?}
全く相手にしていない。そんな態度だ。
「なんていうんですかね...概念武装、とでもいうんでしょうかね。」
{随分とフワフワした物言いだね}
足を組みながらどこか冗談を聞いている様な顔でこちらを見つめている。
「仕方ないっすよ、それを使われてたなら、あーしととアーサーの特性的にも私はもうこの世にいませんから。”あれ”とは戦わないのが一番です。本気で来られたら手が付けられない。」
{詳細は分からずじまいか...そうだ、彼女はどこで働いてるんだい?役職は?}
「知りません。」
{は?}
間の抜けた声が空間を満たす。
{いやいやいや、契約者の同居者だよ?仕事くらい...}
「知りません。調べても出てこないし聞いても教えてくれなかったんで。」
ケリーは苦虫を嚙み潰したような顔で天井を見上げている。まぁ彼女からしてみれば相当つまらない回答だったのだろう。
{んじゃあ仕方ない。他に知ってる亜人はいないかい?何でも良いよ。この際}
もう投げやりな態度だ。実にふてぶてしい。ユリーナは一発殴ってやろうかとも思ったが、それをこらえて話を続ける。
「そうっすねぇ...ああ、確かジェヴォーダンの方に何かいるって聞きましたね。詳しくは知りませんけど。」
{詳細はまた知らない感じかな?}
「その通り」
ユリーナはまた大きく煙を吹かす。
「まぁ、直接行けばわかると思いますよ。ですが、この国で誘拐事件などを起こすのはお勧めしません。この国の警察は怖いっすから」
{荒事は起こすつもりはないよ。}
二人は真っ直ぐに見つめ合う。部屋には時計の音のみが響く。
「まあ、気が向いたら行ってみて下さいよ、”何かがいるかもしれないんで”」
今も覚えている。
飢餓に苦しむ民衆を『人』と『非人』に分け、少ない田畑から多くを収奪した。
その後に起きた大飢饉では、飢えに苦しみ人を食う同胞が生まれた。
その飢饉は酷く、百姓も飢餓と呪いの末に餓鬼となった。
それらを『飢饉の根源』と決めつた藩主は弾圧し、幕府は暴力的な手段を用いた。
大老師は『今に始まったことではない』と諦めていた。
遥か昔、大和を名乗り始めた時からすでに始まっているという。
征伐と支配に北を目指す人々と、それに抗う人と我ら。
戦に負けた同族はさらに北へと向かうものと、洞穴や秘境へ逃げる者に分かれた。
人の政権に付き従う者たちもいた。
しかし数十年後、政権はひっくり返り、付き従う者は逆賊となった。
大名に従った者も、天下人に従った者も、幕府に従った者もそうなる。
常に武力によって虐げられた。
「それは今も変わらぬということか」
ぼそりとつぶやく。
とある山奥の秘寺。
暗い夜、門衛の鬼は物言わぬ死体と化した。
軍の者と違う、内閣府の刺客だろう。
「あの男はこのような手段を嫌っていたのでは?」
「交渉は不可能と判断されました」
寂れた寺の中、骸骨のように痩せ細った巨躯の鬼が居る。
老いにより力を失い、歩くことすら助けが必要になる。
純粋な鬼の中では最も長い時を生きた者だ。
鬼は年長者が権威を持つ。
一切の力を持たぬ老体、その身に宿る権力は誰よりも大きかった。
「今更、亜人を人の世に出すだと?」
「それが世界的な流れです」
「我々に、消えろというのか?」
掠れた声が怒りに満ちる。
「ほとんどが百年近く地下で生きる老者、若い純粋な血族は残り僅か。彼らが人の世に出れば血は薄れ、いずれは消える。それを認めろと言うのか!」
「昔からそうだったでしょう。あなたの時代の、遥か昔から」
「陰陽道や呪術、本来人の身では扱えない術法、古代の日本人はそれを操れていた。その理由を、貴方は知っているでしょう」
冷たい声。
忌々し気に老鬼は吐き捨てる。
「かつてこの島にいた数百を超える種の亜人。お前らは交わり、同化した。妖の血を取り込み、子を産み増やし、血は薄れて広まった。世紀が立つごとにいくつかの種族が消え、お前らは外法の力を手に入れた」
「文献にすら残らない、葬られた事実。我々がそれを知ったのは一ヵ月ほど前です」
「あの男の目的はそれか?再び同化を行い、人間の力の糧にする気なのか?」
老鬼の脳裏に男の顔がよぎる。
真剣な表情の若い男、権力争いを勝ち抜き、国家の長になった男。
『人権』を謳っていたあの男は、こんなにも冒涜的な計画を企てていたのか?
あのヘチマのような妖怪と変わらない、傲慢な怪物だったのか?
「...総理が亜人を人の世に解き放つことを目指したのは、とある亜人との会談からです」
検討はつく、どうせ天狗達だ。
「このまま種の存続を優先し、名も残すことなく絶滅するよりも、文献に名を残して後世に伝えたい。その要望を総理は受け取りました」
「それを叶えるために、我々は殺されると」
「あなたの権威が消えれば、若い世代は老者の方針を覆せます」
溜め息をつく。
血を継ぐことを求める鬼、存在を継ぐことを望む天狗。
両方を天秤にかけ、あの男は後者を選んだ。
もう疑問はない。
「呪いあれ」
刺客が引き金を引く。
老鬼は死んだ。
「自我データ…ですか。」
リーネンベルの真剣な眼差しを前に、目を細めて彼女を見下ろす。
『私は知るためにここにいます。』
「ですが、先ほども申し上げた通り。言う"自我データ"をコピーしたというログはないし証拠すらもないでしょう?」
にこやかに、しかしロングニュは回答をぼかしたがリーネンベルは真剣な眼差しを向けることを辞めず、ロングニュの表情にも変化が現れる。
『…そうであったとしてもです。』
「それが虚偽であっても?」
息を呑んで、重苦しい空気に押しつぶされそうになりながらリーネンベルは頭を1回、縦に振った。
静寂。心音なんてものは聞こえない。本当の静寂。
「…」
「…ふふッ」
「うふふ…、あははははは!!」
静寂に沈んだ会議室に笑い声が響く。その発生源はほかでもなくロングニュだった。
リーネンベルはその笑い声に驚いて真剣な顔を崩してしまった。これまでの柔らかな笑い声とは別の、無邪気な清楚感のない笑い。彼女の姿からは想像ができなかった。
『え、あぁ…、私何か笑われるようなことしましたっけ…?』
「…っと、失礼しました。ふふ…。つい笑ってしまいました。」
ロングニュは咳払いを挟んで、
「…あなたが求めるものを持っているとして仮定して申し上げますが、私は国家システムであり、情に流されたような決定はシステムの根幹を揺るがしかねません。よって非常に難しいものがあります。…本来であれば"虚偽の申請"は他国の者とは言え処罰すべきですが…」
「"私たち"としては面白かったので今回は不問といたしましょう。」
『…ですが!』
その言葉を遮るように、指を一つ立ててリーネンベルの顔を前に差し出す。
「…お時間のようですね。」
ロングニュの視線の先をふと見れば、部屋に立てかけてある時計。その針は既に会談の終了時刻を刺しており、同時に廊下は徐々にざわざわと声を響かせているのが扉を通して聞こえてきた。
「リーネンベル様も戻った方がよろしいのでは?」
『…』
なんともタイミングの悪い。悔しい思いが胸をきつく締めるような。このままいけば何かを知れるかもしれないのに。とはいえ戻らなければ、何かを勘繰られるのは正直面倒臭い。深呼吸をついて、水を飲み、無駄に火照った体を落ち着かせる。
『…ふぅ、…お時間いただきありがとうございました。』
「あなたと話していると、とても楽しく感じますね。ふふふ」
一息をついてリーネンベルは立ち上がり扉の前へと歩みを進め、ロングニュはそれを目で追う。
去り際にて、柔らかに笑うロングニュへリーネンベルは一度立ち止まって、
『…その楽しさは、"あなた"がそう感じているのですか?…それとも"あなたたち"がそう感じているのですか?』
ロングニュはその問いに肯定も否定もせず、リーネンベルを見ていた。
「御想像にお任せいたしましょう。いつでもテミス・システムはお待ちしておりますよ。リーネンベル=キャトル様」
そう言葉を残して。
何も、得られなかった。
心地よく揺れる車の中で、小さく呟く。
ロングニュに要請したデータの返還、あの空間の秘密、ハッキングを行った経緯、、いや、経緯はある程度わかった。しかしながら得られたものが圧倒的に少なかった。機械的に圧倒的な差を見せられて終わっただけだった。夕焼けが車とその車内を窓越しに照らす中、キャトルは夕焼けの向うの虚空を見つめていた。
「・・・・・ルさん、キャトルさん?」
{あ、、、マリア大佐、どうしましたか?}
キャトルの視線に今朝雑談を交わしたマリア大佐が入ってくる。
「いえ、その、、何か心ここに非ずと言った感じでしたので。」
{そ、そうでしたか。}
「ええ、会談相手と、何かあったんですか?」
妙に勘がいい。そう、確かに何かあった。しかしあっただけ、その事象から得られることは殆ど何もなかった。彼女の表情的に、新型機に関する話は上手く折り合いがついたのだろう。関係者全員の表情からもそれが伺い知れる。
「いいえ、何も。本当に、何もなかったんです。」
{キャトルさん、、何か、お力になれることがあれば、、}
彼女の言葉を遮ってキャトルは言葉を続ける。
「今は、ほっといて下さい。」
今までで一番、人間に対して冷たい返しをしてしまった。気遣いをしてくれること自体がとても暖かく、嬉しいことなのに。
「「あなたが製作者と妹君を探すのは自分の意志からなのですか?それとも製作者によって仕込まれたプログラムによるものなのですか?」」
あの言葉が脳裏をよぎる。考えるあまりそれ以外のことに考えが回らないほど、メモリーを圧迫している。
{あの、、すみません。}
申し訳なさそうに彼女はうつむいてしまった。折角いい具合に仕事が終わったのに、こんな気持ちにさせられては、後味も悪いだろう。きっと埋め合わせをしようと心にそっと誓った。
それと同時に、一つの疑問が浮かぶ。
”私って何だろう”
「こちら、CIROからの報告書です」
「ありがとう」
ここ数日、彼は日本各地と永田町を往復している。
さらに少し後には、英国代表団との面会も控えている。
落ち着く暇などなく、移動中もこうして報告書に目を通さなくてはいけない。
「...老師は死んだのか」
「はい。今回CIROが処分したのは老者三十八名、発言力が特に強い者達が一掃されました」
「なるほど。で、こちらの報告書は一体?」
『行政処分』の報告書と別に、もう一つ別の報告書がある。
別件らしいが、これも亜人関連のようだ。
「老者の一掃後、老師に反抗的な一つの氏族が大寺院に踏み入り、集まっていた氏族を殺害、内乱に発展しました」
「...それで、この死者というわけか」
被害の一覧に目を落とす。
大寺院での争いで反抗的な氏族も含めた四つの氏族の長が死亡、止める者が居なくなりエスカレート。最終的に特殊作戦群が投入、六百近い死者と共に鎮圧を迎えた。
鬼族の間での分断は加速、『行政処分』は悪手だったか。
そう思いながら報告書を睨みつけていると、ふとあることに気づいた。
「この発端となった氏族、どこから来たんだ?」
これほど過激なら、以前から目を付けられているはず。
そもそも、大寺院に三つの氏族が集まっていたのは会議のためで、集まることを許可したのは我々政府だ。
「どうやら公安が発見できていなかった地下部族の一つだったようです。こちらの警備員も殺害して押し入り、何らかの儀式を決行しようとしたようですが、長が死んだため失敗に終わりました。現在、詳細について公安が捜査中です」
「つまり、我々と関係ない危険因子が暴走、障壁と一緒に自爆してくれたのか」
悪手が災いを呼んだと思ったが、どうやら吉兆だったらしい。
「委員会を呼んでくれ。暫定法改正発議の最終チェックだ」
全ての始まりは1940年だった。ナチスがこの偉大なる国に愚かにも侵略を試みて、腰抜けのチェンバレンと愚かなハリファックスが講和を選択しようとしたのを防いだ時、私は陛下の勅命を受け、奴等を退け、5年かけてあの下劣なヒトラーという怪物を討伐した。
アトリーは勝利の栄光を掠め取ろうとしたが、私は耐え抜いた。この国の経済を絶頂期に導き、野蛮な悪魔から陛下の植民地を最大限死守し、日本とドイツに我らが誇る民主主義を教育した。アメリカやイベリア、レッドオーシャンに日本といった他の列強諸国がこの大英帝国を追い抜こうとしたが、最後に勝利したのはこの私だ。大英帝国だ。最早この国を救えるのは私しかいないし、他の誰にも出来ない。だから出来ることなら後継者など選びたくない。これからの時代、私の後に立とうとする多くの者は失敗し、この国を転落へ、誤った道へと歩ませてしまうだろう。それは何がなんでも防がねぬ。そのようなことがあってはならぬのだ。私はこの国を愛しているし、永遠にこの国の首相でありたい。
それなのに、それなのに私の体は望まぬ方向に変化を続けている。日に日に動きが鈍重になっていくように感じるし、呼吸が荒くなって何をするにも疲れてしまう。奴らはそんな私を馬鹿にしているのだ。そしてこの椅子をなんとかして奪ってしまおうと考えている。あの画家だってそうだ。憎たらしい、何が一流の画家だ。80歳の生誕祭という場で私のことを醜く描いた、曲解した肖像を公開しおって。こう思っていたに違いない。「どう書いてやろうか、そうだ。座った姿にしてやろう。糞をしているように。老いぼれ、たるみ切った惨めな生き物が、糞を絞り出しているように」!
ここ最近、アンソニーが遠慮がちに『健康管理』の話をしてくる。奴は上手く演技しているつもりなのだろうが、私には分かる。15年だ。15年も私がこの国を背負ってきたというのに、奴は自分がもっとうまくやれると思っているのだ。インドの反乱、亜人の不穏な動き…私が全て片付けてきたというのに。奴にできるものか。この体さえ、この体さえどうにかならば、私はこの国に更なる栄光に導けるというのに。この咳、この震え。医師は『安静を』と繰り返すが、それが何を意味するかは分かっている。陛下もご心配の書簡を下さった。不服だ。全くもって本当ではない。あのイーデンに、あのイーデンにこの椅子を渡すなど。暗殺者め、暗殺者め、暗殺者め。
孤独な老人の戯言だ。

これほど長い間、私はこの国のために尽くしてきた。20年以上、チャーチルの影で耐え抜き、あの偉大なる男のわがままに付き合いながら、外務大臣として帝国の命綱を握り続けた。ムッソリーニのイタリアを牽制し、満州事変の混乱を収拾し、ヒトラーの台頭を警告し続けた。それなのに、チャーチルは私を信じなかった。いつも私を「若造」扱いし、あの老いぼれの独裁的自信で全てを握り潰した。私はただ、栄光の戦勝ではなく、現実的な平和を模索しただけだ。あの老人にはどうしてそれが分からないのか?
1955年、チャーチルの体が限界を迎えた時、私はついに首相となった。陛下の信任を受け、帝国の再建を誓った。スエズ運河の奪還…私はチャーチルの遺産を守り、帝国の威信を示したはずだ。ナセルごときに屈するものか。王立軍の銃剣で運河地帯を再占領し、エジプトの愚者を屈服させた。あの瞬間、私は勝利を確信した。歴史は私を讃えるはずだった。
それなのに、何故だ。国内の裏切り者どもが、私を蝕む。マクミラン、奴は戦争に賛成のはずだったじゃないか。蓋を開ければ奴は私の内閣内で派閥を形成し、私をこの座から引き摺り下ろそうとする。奴らは帝国の誇りを理解しない。インド内戦の再燃、亜人の不穏な蠢き、そんなものを抑え込むために私がどれだけ血を流したか。新聞は「イーデンの失敗」と書き立て、党内では奴らが囁き合う。「マクミランに交代せよ」と。奴らはみな私を捨てようとしている、捨てている。
私は歴史に名を刻めなかった。チャーチルはヒトラーを倒し永遠の英雄となったが、私には何もない。ただ戦争を始めた、それだけの男だ。15年以上の忠誠、忍耐の果てにこの結末か。医師の言葉が耳に残る。「ご安静を」安静だと?この帝国が崩れゆくのを、黙って見ていろとでも言うのか。陛下は何も仰らない。私は全てから見放されたのか?この国からも、陛下ですら私を必要としていないというのか?
何にもなれなかった男だ。

※この茶番はifです。他国の航空機、艦艇などが撃沈される描写がありますが、許可も取っているのでご了承ください。
-2026年1月7日-ヴィレリア共和国所属重巡古鷹のCICのボイスレコーダー
「…艦長!!本艦隊に飛翔中の物体を3つ確認。推定速度マッハ3。迎撃します」
「了解。多分例の艦隊だな。先日哨戒任務中の東州海軍の艦隊がミサイルで撃破されている。しかも最新鋭の紫亜だ。この船で対処できるかわからない…」
「この3本の飛翔体を前から順にトラックナンバー1、2、3と名付ける。ミサイルを持って迎撃せよ。」
「了解。全部VLS1.2.3 ハッチ解放。ミサイル サルヴォ!!」
「着弾まで30秒。… 5、4、3、2、1…着弾!」
「迎撃に失敗しました。三発全てです」
「何!!全て失敗だと!!」
「仕方あるまい、対空近接戦闘用意!!主砲、対空砲の射程に入り次第順次迎撃せよ!!」
ズドッ…ズドッ…(主砲の音だと思われる。七発使用確認)
「対空砲の射程圏内だぞ!!!」
ブロロロ…(対空砲の発射を確認。)
「総員、衝撃に備えよ!」
ズバッt…(爆破および着弾音を確認。)
(ここでボイスレコーダーは途切れる。このあと古鷹の率いる第三戦闘艦艇群が全滅。損害は重巡1隻沈没。駆逐艦3隻沈没。フリゲート艦2隻沈没。生存乗員0人)
最初に話す人・オルドーニェス、のちの大統領
2番目に話す人・東方の賢人の最長老・人外化の技術を開発した
追憶 東方の賢人最長老との会話
「どうしてあなた方は聖遺物を分析し続けるのですか」
「神に近づきたいからです」
「科学技術ではダメなのですか?」
「科学技術は人間を外的に強化してくれます。しかし、内的には何もしてくれません」
「あなた方は人間という生き物を強化したいのですか?」
「その通りです」
「その先は?貴方ほどの方が何も展望を考えてないということはないでしょう」
「残念ながら、話せません」
「そうですか。例えばですが、全人類を強化するとして資源が足りないでしょう。あなた方の儀式を確認しましたが金などの貴重な金属を消費します」
「それで?」
「もし、一部の富裕層だけ強化されたら不平等ではないですか」
「民主運動家の考えそうな事です。前提として我々はそんなことは考えてないと前置きさせてもらいます。それで言うと、貴方はこの不平等問題を指摘する権利は無い。何故なら貴方は自らの豊かさを使って自分の教え子を強化している」
「その通りです。しかし」
「さらに言えば、世界には古龍種などと言う陣地を遥かに超えた悠久の存在さえいるのです。彼らは1000年はゆうに生きると聞きます」
「元から不平等だから何をしても良いと?」
「いえ、我々は平等を人類に近づけているのです」
「生物的強化より科学的強化の方が平等だと思えるのですが」
「本質的には同じモノです。しかし、貴方の知っている現代科学には一つ致命的な問題があります」
「何が問題なのですか」
「質問で返して悪いですが、オルドーニェスさん、貴方は神を信じますか?」
「半信半疑です。教会ではあると教えられましたが理科の先生はそんなものはないと一蹴しました」
「それがダメなのです。魂を理解しなければ人類はと」
「どうしました」
「すみません。なんでもありません」
「続きを伺ってもよろしいでしょうか」
「そうですね。魂を理解しなければ科学技術と我々の技術は同じものにはなれないのです」
「聖遺物はその点で特殊な存在なんですね」
「その通りです。目に見える世界と霊的な世界を完全な形で繋ぐ唯一のものですから」
合衆国陸軍省、世界における合衆国の地上でのあり方の殆どを決するこの建物に、普段は立ち入らない者が立ち入っていた。
長官室、主に作戦内容の決定や事務に用いられる部屋。しかしこの日はだれの目にも触れない闇の一ページを綴る準備が行なわれていた。
「何で私なんです?」
長官と呼ばれるその女に疑問が投げかけられる。
{いやぁ申し訳ない。いきなりすぎたね、じゃあ簡単に行こう。頼んだ理由は2つ。}
淡々と理由が述べられる。
{君が情報畑でかつ、海外の人外の生の知見を持っている。そして外国人との関わりも深い。}
「もう一つは?」
せかすように聞く。部屋の空気は照明とは裏腹に重苦しい空気だった。
{君が一番暇そうだったから。}
「冗談ですよね?」
{想像に任せるよ。}
呼び出された彼女は未だに意味が理解できていない。それもその筈、なにせ”SASをおびき出して国内の人外をさらった部隊を撃滅する”なんて事を言われたのだ。管轄違いもいい所、最初から情報局に連絡が来るはずだ。
{まぁなんだ、君にはこの資料を持って帰って貰いたい。}
「中身を確認しても?」
{構わんよ}
そんなことか、と資料を渡される。そこには国外へ誘拐された人外のデータとそれを実行した部隊の詳細。そして次に来るであろう予想地点。合衆国内の暗殺対象、そして命令系統の上位にいたであろう英国人大臣の名があった。
「......なぜこんなものを私が?」
長官は煙草を火をつけながら話す。
{我々陸軍としては現在配備中のアンドロイドの性能が見てみたい。その相手としてSASはこの上ないほどの最適解だ。しかし本気でやりあえば戦争になる。だから餌を巻いて勝手に死んだことにする。というわけだ。}
これからやれと言われることは、直ぐに理解できた。
「つまり、情報局がこの情報を元に欺瞞情報を流して、”実験場”までおびき出せと?」
長官はにこやかに微笑む
{理解が早くて助かる。あ、それとこの作戦は非公式の作戦だ。君の給料も階級も何にも影響はない。ただその封筒を君の巣まで運び込んでくれれば、あとはこちらで何とかする。}
何とも適当な人だ、と心底思う。ここにいると自分もこうなりそうなのでさっさと出ることにした。
「わかりました。では私はこれで。」
さっさと踵を返して彼女は部屋を出ていく。全く同棲者が大きな怪我を負ったからと言って少し蛋白すぎないかとも思うが。それはまぁいい。
「いいコマだねぇ、彼女は、アーサー=ジーナ=ダルクは。是非とも引き入れたいものだ......まぁ無理だろうけど。」
少し息をつくと彼女は、にやりと微笑む
「さ~てイギリス人は、どんな反応を示すかな?実に楽しみだ。」
その瞳は軍人の性なのか、奥の奥に大きな闘争心を宿していた。
『ヘルキャットよりオールコールサイン、アイリーン。繰り返す、アイリーン』
「クソアイリーンだ。戦車前進」
無線連絡を確認し、戦車長“ケビン・リード”が声高らかに叫ぶ。乗員区画に響き渡る声を合図に、ディーゼルエンジンが唸りを上げ、加速的に動き出した。
「少佐、上に出ましょう。きっと清々しい」
「コンゴと違ってな」
眉を顰めつつロックを解除し、ハッチを押し上げる。
腕に力を込めて上半身を持ち上げると、埃っぽく、乾き切った空気を切る戦車隊が姿を現した。クレイトンの乗員でもあった彼に、RWSによって遮られる前方視界は気に入らなかった。
「テヘランまで一直線だ。誰も俺たちを止められはしないさ」
「だといいですね」
身を乗り出し、RWS越しに進行方向を眺める。緩く起伏のある荒野と、遠くには山脈が見えた。装填手“レーム・シアハリス”が嘆息する。
「イラクと違って視界が悪いし、遭遇戦も考えられます。JOCからは進めるところまで進めと?」
「第1偵察大隊B中隊が追ってくる。補給に無理が出ないところまでは突っ走るぞ」
「さいですか…」
薄い髭を撫で、戦車の鳴き声をよそに思考をする。上空のではUAVが旋回し、一面に広がる荒野をカメラに収めていた。