リノリウムの床を叩く音と緊迫した面持ちで情報交換をする職員が廊下を満たしている。高鳴る呼吸を抑えつけ、小走りで金属製の扉に手をかける。ドアノブの冷たさに少しの驚きを覚えながら、手首を捻った。
「失礼します」
冷え切った廊下の空気とは違った、「休憩室」らしい暖房の効いた空気が体を包み込む。小走りで汗をかいたところにこの気温。中にいるのは1人の男。少し機嫌が悪くなるのを覚えながら、左手に抱えたバインダーを自分に渡した張本人の目の前に叩き付けた。
「これはどういうことですか!」
紙にある文章を指さしながら、机を2回叩く。コーヒーでメガネを曇らせた男は何もかもがレギュラーだというようにゆっくりとカップを机に置く。
「焦らないでください、フィッシャーマン事務局長。せっかくの綺麗な髪なんですから、乱れてしまいますよ?」
「そんなことはどうでもいいんですって…何ですか?これはどういう」
ひどくゆっくりとした口調に毒気を抜かれ、思わず自分まで落ち着く。指さした一文には、CANAT設立後にも南米諸国にはある程度の強い姿勢を見せるべきとする文言があった。この文言は上層部の一部に反感を買いかねないもので、『若造』として同じ事務局長の老人から嫌われている自分にとって、『面倒』と形容できることだった。
「あのですねぇ、私が他の職員にどう思われているか知っているでしょう?NSAは凝り固まったクソジジイの肩…失礼、そういう組織なんですよ」
「事実を報告書に書き連ねただけですよぉ…それとも、他に要件が?」
「…はぁ、あります。えぇありますとも。南米にいるGIBの現地エージェントがこちらのシギントに協力してくださるそうです。あなたは彼女との連絡担当者に選ばれました」
「……はい?」
通報 ...