「降参だ」
彼は執行部隊に囲まれた中で両手を上げた。ナイフなど武器を地面へと落としリーダーらしき人の方を向いた。
「…時、テロリスト、月夜仁を確保。被害なし。本部応答されたし」
『こちら本部、同伴の軍部隊と合流後、身柄を軍へと引き渡し撤退せよ。合流地点はー、』
「…了解」
突如エンジンの轟きと共に一筋の光が夜の細道を駆け抜け、彼とこれを取り囲む執行部隊を照らした。あまりのまぶしさに片手で光を遮る。細道の奥、ちょっとした広場に砂を巻き上げながらZ-152が着陸する。明らかに警察用というには過剰なような、黒く塗装された横には帝国の警察機構の白いロゴが刻まれている。
横のハッチが上下に展開し、彼らは”テロリスト”を連れて乗り込むと足早に飛び立った。
ーーー
何時間経っただろうか。
確かにヘリに載せられたところまでは覚えている。だがそこからの記憶はない。
白い壁に変哲もおしゃれのかけらもない簡易的な机や鉄製のベッド、照明がより部屋の白さを際立たせている。
机にはナイフと拳銃など、傭兵の彼には馴染み深いであろう武器が並べられていた。ただの模型などではなく、きちんと実銃の質量を感じさせる。
「ここは…」
まるでボス戦前の休憩部屋のようだ。
窓もなく、狭い空気取入口を除いて無機質な部屋から出るには目の前の鉄扉しかない。
『戦闘だ』
「なるほどね」
ボス戦前の準備と気持ちの整理を一通り行ったあと扉の取手に手を掛け、手前へと引っ張る。気圧の差からか、部屋へかすかに風が流れ込んでくるように感じる。テニスコート数個分の広大な空間が目の前に広がったが、これもまた室内のようだ。白い壁と床は部屋の向こうにも続いていた。ただ違うのは、白い髪の女性…が、SFにでも出てきそうなメカメカしい部品を回りに纏わせていること。それと明らかに形状が銃身のものを彼の方へ向けていることだ。
「…ピッ"ー、状況開始"…ッー」
「…まっず!?」
直観に従って咄嗟に体を動かした。その瞬間、彼女の目の部分を覆うVRゴーグルのようなものが赤く光ったと思えば2基のガトリングから火を噴きだし、銃弾の雨が彼のいた場所の光景を醜いものに変えていった。
走り出した彼を銃弾の雨が止まず追いかける。
「あんなの人が振り回せるもんなの!?」
『あれは人ではない。何かかはわからないが』
接近しないことにはあの雨はやむことはないだろう。掃射が途切れた一瞬の隙を見て慣れた手つきでライフルを構え機械じかけの彼女へ発砲する。確かな発砲の感触。しかし、彼女はこちらを見ていないが銃弾が届く前に、アームがシールドを構え銃弾が防がれた。再度ガトリングが彼を捉えたと思えば、急速に彼へと接近し大きくブレードを振りかざす。
幸い振り下ろされたブレードに掠れるだけで回避し咄嗟にハンドガンを片手に構えたが、ブレードの振り上げに拳銃を取られ天井付近まで吹き飛ばされてしまった。
シールドのアーム2つ、大きなブレードとガトリング、グレネードランチャーらしきものがまとめられたとても一般の人間には片手で振り回せるようなものではないであろう2つの武器、それらを軽快かつ正確に操り息切れも見せない。冷却のためか、何かを射出した際など動きが鈍くなる隙を狙うが、4本腕の連携が巧みにその隙を埋められてしまう。何か作戦を立てなければ押し切られてしまうのは目に見えている。
「なんでもありか…」
『俺が変わりにやろう』
…、「それに賭けようか。任せる」
…、…、
空気が変わった。体が軽い。ロングソードを構え地面をけり上げる。変化を感じ取ったか機械じかけの魔女は、前方へむけて容赦なくガトリングを掃射する。同じように彼女の周りをまわるように駆け抜けつつ徐々に接近し、ロングソードを彼女目掛けてお返しと言わんばかりに振り下ろした。咄嗟に武器を構えたが、ロングソードの刃は片方のガトリングの銃身を捻じ曲げ、武器をでかいだけのスクラップへ変えた。一瞬だけゴーグル越しに彼女の表情に驚きが見られる。
「…ピッ"ー、はいじょ…、脅威は排除。排除、?"…する…ッー」
『…』
言葉の意味を考える間もなく片方の武器がパージされ、彼に向けて射出する。想定外の動きか、彼はガラクタと共に壁際へと突き飛ばされ地響きのような音を立てて地面へと落ちた。残りのガトリングでガラクタまとめて銃弾を掃射し、ガラクタは次々と弾痕を増やし黒く形状もわからなくなっていく。ガラクタが更にぼろくなっていくのを横に、黒い影がガラクタから高速で動き出し赤い光を纏って接近するのを捉え、シールドは本体を守らんとアームの節々にあるアクチュエータを急稼働させる。シールドは人の質量をギリギリで抑えて、片方のブレードを質量目掛け薙ぎ払うが構えられたナイフによって火柱を散らしながら軌道を反らされた。
彼の顔は口角を上げて、ブレードの刃と刃を合わせ反らした勢いのままナイフを突き立てゴーグル本体を抉った。抉られたゴーグルは傷跡から小さな稲妻を散らし配線の焦がす臭いを実験室に漂わせる。
「…ピッ"ー、テロリスト…、制圧…、排除…ッー」
いつの間にか傷ついた肌から青い血を垂らす。魔女は意識の混濁の中で、ゴーグルの中で、目を見開き黄色い眼で正確に敵を捉える。武装は奮い立ち、アクチュエータはプログラム通りに、魔女の脳通りに動作を続ける。
狼と機械仕掛けの海物の実験は始まったばかりである。
とりあえずあとちょっと戦闘②書いて終わらせて後日談にしようかと。リュー仁茶番です。想像と脳死で書いてるのでわかりづらい部分や解釈違いだったら申し訳ない。
?なんでリューさんいつにもまして会話変なの?
AMSCISで、負荷軽減器の影響で意識が混濁状態のため。言葉ごとに色が違うのはそれを現したかっただけです()
・Mechanica pythonissam
ラテン語で「機械仕掛けの魔女」という意味。