まず先手を打ったのは狐の方だった。切断されたのとは別のガトリングガンの管制レーダーが狐に照準を合わせる前に素早く走り出し、火を纏ったロングソードを両手に握り一気に接近し魔女へと振り下ろす。ロングソードの刃はブレードに防がれて纏う火を散らした。その直後体に大きな衝撃と冷たく硬い鉄の感触が伝わったかと思うと体は空中を舞った。数コンマにも満たない中でシールドバッシュを喰らったと理解した頃に視界がとらえたのは彼に向けられたガトリングガンの砲身であった。
束ねられた砲身が唸り回転し始めようとしたとき、彼は落下する体をそのままにしっかりと握っていたロングソードを突き立て、ガトリングガンの砲身をそのまま使い物にならないほどに引き裂いた。
花びらのごとく別れた砲身からは何度かの小規模な爆発が起こり、魔女は驚いたような表情の変化を見せ咄嗟にシールドを前面へと展開し防御を図ったかと思えば2基のグレネードランチャーを構え、彼の方へ向けてぶっ放す。当然のように彼はそれを回避するが、爆発は熱を伴うものでなく大量の白い煙を部屋中に充満させた。
(発煙弾か)
白い煙が立ち込め部屋の様子を容易にとらえることはできなくなり、あたりには久々に静寂が戻る。
だが、静寂を貫くように深い霧を、鋼のブレードが彼目掛けて刺突される。ギリギリのところでロングソードを構え突っ込んできたブレードの刃と合わせ上へといなした。そのままブレードの根本の方向へロングソードの刃を滑らせ霧の向こうへと振るった。ロングソードの刃はブレードの根本、壊れたガトリングガンやグレネードランチャーを束ねた機械の外装を切った。感触を確かに、そのまま奥へ突き出すが、機械に触った感触もシールドに突っかかった感触もない。違和感を胸に剣を引き、切りつけた機械を見る。そこにあったのは武装ユニットだけであり魔女の姿はなかった。
徐々に発煙弾による霧が晴れ、室内の光景を鮮明に映し出す。
立ち位置は最初の間合いに自然と戻っており、機械の魔女は片方の武装ユニットをパージした状態で呼吸を荒くし、目のあたりについていたユニットを外れている。彼女の背後から何かが射出され、すぐに燃え尽きた。そのあとに片方の武装ユニットは乱暴に落下し彼女も膝から崩れるようにへたり込む。
「もう終わりか」
ロングソードを握る力を強め魔女へと歩みを進める。
ーーー
時に、望まない形でエーギルとなって以降より脳波を解析し機械での言語化を通して言葉を介するの通常である彼女が自らの喉から「声」を出すのは固く禁止されている。彼女の共鳴者の力、機械の制御はその副産物に過ぎずこれらはあくまでも近年見出された利用法に過ぎない。なら本来彼女が使う力の本領は?この力を生物へと使った場合は__?
『ーー(人ならざる声)ーーーーー!!』
「!?」
突如機械音声ではない別の声、人の女性のしたたかな声のかすかに混じる化け物のような咆哮が室内へと響き渡る。
これまで魔女が閉ざしていた口を開いたかと思えばその瞬間に異変は起こった。突如頭に走る激痛、確かに数秒前まで正確に室内を捉えていたのに生じためまい。急激な吐き気が同時多発的に彼を襲う。
テレビの砂嵐を瞳にそのまま投影されたようになり、歩みを止め地面へと膝から崩れ落ちると同時に"彼"との同期を失い、違う"彼"が強制的に目覚めさせる。
ーーー
本来の体の持ち主である"彼"が目を覚ますころ、既に数十分ほどの時間が経ったであろう室内は損傷した魔女の機械と、機械から解き放たれ湯気を立てつつ青い血をところどころから流す魔女の姿、地面に印をつけたり色々と騒がしい白衣の人たちの姿を目に移した。
「急に呼び出してすまなかったね。シナノ氏は最近の動きで忙しいそうであなたを頼るしかなかったんだ」
『…ピッ"ー、了解。今日は帰れせてもらう。それでいいな"…ッー』
「んー、あぁ、傷もあるだろう。治療していかないのか?それに体力も…」
『…ピッ"あなたに私の何がわかる"…ッー』
「いやー、…そのだね」
初老の男の静止を振り切って患者服の魔女は、施錠されていたはずに自動ドアから室外へと出ていった。男は困ったように頭を軽く掻きつつ傾げたが、起きた彼に気づくと足早に近づいて手を差し伸べた。
「起きたか、私はジェレミー・クラーク。帝国海洋研究機構エーギr…、っと。まぁ生物学者でね。このプロジェクトで責任者をやってるんだ」
「…あ、…どうも」
「研究に協力してくれて感謝してるよ。後、君は本土に移送するけどその前にちょっとだけ検査をさせてほしい。一応君は"テロリスト"っていう名目だから、帝国政府に検体を提出しなきゃいけないんだ。じゃないとUES加盟国どころか帝国外に出れないからね」
「いや僕テロリストじゃないんだけど…、あと警察にも追っかけられたし」
「あぁ、わかってるとも。別に検体の採取を平和的にさせてくれれば自由の身さ。あと、ここでの出来事を話しちゃだめだからね。次は本気で首とか臓物が吹き飛ぶから気を付けるんだよ。帝国の監視社会は怖いからねぇ…、」
男はそんなことをけらけらと笑いながら語る。彼としてはたまったものではないが。
「…わかったよ。死なない程度で自由に採取してくれ」
「協力に感謝しよう。あと申し訳ないが、ここは結構特殊でね。次に目が覚めるのはマドリードの国立病院のベットさ。さて早速で悪いが採取を始めよう。なに、麻酔はちゃんと打つから起きたころにはすべて終わっているよ」
「あー、そうそう。君と戦った彼女は半エーギルのリューディア…、いやアデリーナか。アデリーナ・エラストヴナ・ヴラジーミロヴァという。彼女はああいって出ていったしまったがおそらく君と同じ病院に搬送されるだろう。覚えていたら顔でも改めて見てみるといい。シナノ氏よりは平和主義者さ」
おまたせしました。
・ジェレミー・クラーク
特に関係のない陽気なおっさん。
・アデリーナ
アデリーナ・エラストヴナ・ヴラジーミロヴァ。リューディアの偽名
・何採取したんや…
血とか皮膚とか諸々。体は絆創膏やら点滴など治療してお返しします()
すごい...凄すぎて何を言うべきか分からん()
後日談はこちらでも書きますけどいいでしょうか?
okですぜ
そう言ってもらえて光栄ですな()